
■事実
WCCFtechが報じたTrendForce系の分析によると、NANDフラッシュの需給バランスは2027年後半に緩和へ向かう見通しです。
一方で2026年通期については、TrendForceは供給が需要を約4〜6%下回る状態が続くと予測しており、SSD価格への圧力は当面残ります。
韓国・米国・日本のメーカーは急激な新設ラッシュではなく、既存ラインの高度化と段階的な容量増強で対応する方針とされています。
中国のYMTCは相対的に積極的な増産姿勢で、2026年内に世界シェアを約19%まで伸ばす見込みだが、生産の大半は中国国内需要向けです。
Kioxia(Sandisk と共同)は2026年7月3日、岩手県北上工場のFab2(K2)で第10世代3D NAND「BiCS10」(332層積層)の量産を開始しました。
BiCS10はデータ転送速度が前世代比約30%向上(4.8Gbps)、記憶密度は約60%向上、読み出し電力効率も約30%改善しています。
SK hynixは2026年7月2日、韓国・清州で総額100兆ウォン規模の投資を発表、うち80兆ウォンをNAND新工場「M17」に充当。M17の稼働開始目標は2029年前半です。
SK hynixはDRAM向けYongin半導体クラスタにも約386億ドル規模を投資中で、第1棟の稼働開始は2027年5月を予定(本格的な市場インパクトは2028〜2029年頃と見られる)です。
Samsungは平沢キャンパスでの新NAND生産ライン設置を検討中との報道があり、次世代V-NAND(400層超級)の開発も進行中です。
Micronはアイダホ新工場で2027年後半、ニューヨーク新工場で2028年央の量産開始を目標としています。
Silicon Motion社長Wallace Kou氏は2026年4月、「2027年の不足は2026年より深刻化する可能性がある」との見方を示し、本格的な緩和は2027年後半〜2028年になるとの予測を示しました。
Phison CEOのKhein-Seng Pua氏は「NAND各社から2026年分は全て完売と聞いている」とコメントしています。
TrendForceはNAND契約価格が2026年第1四半期に前期比85〜90%上昇すると予測、製品によっては2025年8月〜2026年3月の間に4〜10倍の値上がり事例も報告されています。
比較表:主要NANDメーカーのファブ増強状況
| メーカー | 主要拠点・計画 | 技術世代 | 稼働・量産見込み |
|---|---|---|---|
| Kioxia / Sandisk | 北上工場Fab2(K2)、岩手県 | BiCS10(332層) | 2026年7月量産開始 |
| SK hynix | 清州M17(新設NAND工場) | 300層級 (次世代V10、ハイブリッドボンディング) | 2029年前半稼働目標 |
| SK hynix | Yongin半導体クラスタ第1棟(DRAM主体) | 4F2/次世代DRAM | 2027年5月稼働開始、 市場影響は2028〜2029年 |
| Samsung | 平沢キャンパス新ライン検討 | 第10世代V-NAND(400層超) | 開発中、時期未確定 |
| Micron | アイダホ新工場 | G9世代(232層超) | 2027年後半量産目標 |
| Micron | ニューヨーク新工場 | 次世代ノード | 2028年央量産目標 |
| YMTC(中国) | 既存ラインの増産中心 | 294層量産中 | 2026年内+15%増産目標 |
解説
WCCFtechの見出しは「2027年に不足解消」だが、これは複数ある業界予測の中でも比較的楽観的な部類に入る点は指摘しておきたい。
Silicon Motion社長の「2027年はむしろ悪化する」という発言と並べると、業界内でも見通しはかなり割れている。
「解消」の中身を見ると、新規ファブの本格稼働というより、既存ラインでの層数積み増し(技術ノード移行)によるビット密度向上が主因になっている点に注意が必要だ。
SK hynixのM17稼働は2029年前半、Yongin第1棟も市場インパクトは2028年以降という時間軸であり、「2027年解消」という見出しとはズレがある。
NAND各社が新規ファブ投資に慎重なのは、2022〜2023年の供給過剰・赤字経験があるため。AI向けHBM/DRAMの方が利益率が高く、資本配分がそちらに偏っている構造的な事情がある。
つまり今回の不足は一時的な設備投資の遅れというより、メーカー側が意図的に選んでいる「構造的な供給規律」に近い。
中国YMTCのシェア拡大は国内需要の吸収が中心で、グローバルな価格緩和への寄与は限定的と見ておいた方がよい、
消費者目線では、SSDやeMMC価格の上昇はしばらく続く可能性が高く、「2027年になれば安くなる」という単純な期待は禁物だ。
Kioxiaの北上Fab2でのBiCS10量産開始は数少ない具体的な「今起きている」進展であり、この手のニュースの中では珍しく実体を伴っている。
各社そろって「2026年分は完売」を連呼する様子は、人気アーティストのライブチケット争奪戦を眺めているような気分にさせられる。
「2027年に解消」という予測を鵜呑みにする前に、どのメーカーの、どの工場の、どの技術世代の話なのかを一段掘り下げてから判断したいところだ。