
■事実
Googleが、Geminiモデル専用のサーバーチップを開発中と報じられました。社内コード名は「Frozen v2」です。
情報源はThe Information(複数の関係者への直接取材)で、その後Reuters、Bloombergなども後追い報道です。
Geminiモデルのアーキテクチャ(構造)の一部をシリコンに直接刻み込む設計です。モデルの重み(パラメータ)自体は従来通り更新可能なまま維持されます。
現行の最新TPUは学習用「TPU 8t」・推論用「TPU 8i」で、2026年4月のGoogle Cloud Next で発表済みです。Frozen v2はこれらとは別系統のプロジェクトとされます。
技術者の試算では、消費電力あたりのトークン処理数が現行TPU比6〜10倍になる見込みです。
展開時期の目標は「早ければ2028年」です。
プロジェクトの背景には、Google自身のAI計算力不足があり、Google Cloudが外部顧客との契約を一部断っているとされます。
Frozen v2はGemini専用設計のため他社モデルを実行できず、Google Cloud顧客向けの汎用商用製品としては提供しにくい構造的制約があります。
報道を受け、Alphabet株価は月曜(2026年7月20日)に一時+3〜3.7%上昇。Alphabetの2026年第2四半期決算発表は7月22日(水=本日)を予定です。
AI推論(インファレンス)は全AI計算需要の約2/3を占めるとされ、効率化のインパクトは全体コストに直結します。
同様の「モデル特化型シリコン」構想は、Meta・Amazon・Microsoft・OpenAIも独自チップ開発で追求中。AWSは2027年までにNVIDIA GPU100万基導入を約束する一方、独自チップ開発も並行して進めています。
スタートアップTaalasは、モデルの重みとアーキテクチャを直接シリコンに焼き込む手法を既に商用展開しているとされます。
Googleはこのプロジェクトの存在を公式には確認していません。
比較表:主要プレイヤーのモデル特化型/独自AIチップ動向
| 企業 | チップ/プロジェクト名 | 特徴 | 現状 |
|---|---|---|---|
| Frozen v2 | Geminiアーキテクチャをシリコンに直接焼き込み、重みは更新可能 | 開発中、2028年展開目標 | |
| TPU 8t / TPU 8i | 汎用の学習用/推論用TPU | 2026年4月発表済み、稼働中 | |
| Meta | MTIA | 自社ワークロード向け推論チップ | 開発・展開中 |
| Amazon | Trainium | 自社クラウド向け学習/推論チップ | 展開中、NVIDIA GPUと併用 |
| Microsoft | Maia | Azure向け独自AIアクセラレータ | 展開中 |
| OpenAI(Broadcom共同) | Jalapeño | カスタム推論プロセッサ | 発表済み |
| Taalas(スタートアップ) | モデル特化型シリコン | 重み+アーキテクチャを直接焼き込む手法を商用展開 | 事業化済み |
解説
「Frozen」という名前どおり、この賭けの本質はハード効率化そのものより「Geminiのアーキテクチャはもう大きく変わらない」という経営判断にある。
モデル構造をハードに焼き込むということは、数年がかりのチップ開発期間中、モデル設計を大きく変えられなくなる「不可逆な選択」を意味する。
もしGeminiが将来Transformer以外の設計(Mamba系の状態空間モデルやポストTransformer型など)へ大きく舵を切った場合、Frozen v2は部分的、あるいは全面的に無用の長物になるリスクを抱える。
「6〜10倍」という数字は魅力的だが、これは「今のGeminiの形」に最適化した場合の話であり、汎用GPU/TPUが持つ柔軟性とのトレードオフである点は割り引いて見る必要がある。
Google CloudがAI計算力不足で外部案件を断っているという話が事実なら、これは表向きの「効率化」の裏にある、より切実な供給制約の裏返しとも読める。
Frozen v2は他社モデルを走らせられず商用製品化しにくいため、目的はあくまで自社推論コストの圧縮。NVIDIAへの依存度低減という戦略的な狙いも透けて見える。
推論がAI計算需要の約2/3を占める以上、ここで数倍の効率改善を実現できればGoogle自身の運用コストへのインパクトは非常に大きい。
同種の発想(重み+アーキテクチャをシリコンに焼き込む)を掲げるスタートアップTaalasが既に存在しており、Googleが後追いで採用する形になっている点は興味深い。
チップの名前が「Frozen」というのも皮肉が効いていて、Geminiの設計を「凍結」する代わりに計算コストを「溶かす」という発想らしい。
株価が3%以上跳ねたのは「6〜10倍」という数字への期待感だが、実際の量産・展開は早くて2028年。気の長い話であることは忘れないほうがいい。