
■事実
ADATA(威剛)会長のサイモン・チェン氏が、DRAM・NAND・SSD・HDDの主要記憶装置4分野すべてで供給不足が同時発生していると発言しています。
チェン氏は記憶装置業界で約30年のキャリアを持つが、DDR4・DDR5・NAND・HDDが同時に不足するのは初めての経験と述べました。
現在の価格競争の相手はもはや同業のモジュールメーカーではなく、桁違いの発注規模を持つCSP(クラウドサービスプロバイダー)であるとチェン氏は指摘しています。
メモリメーカー各社は2026年第3四半期にDRAM契約価格を20〜30%、NANDフラッシュ価格を35〜40%それぞれ引き上げると発表済みです。
ADATAは数十億台湾ドル相当の在庫を保有するものの供給が追いつかず、販売の配給制(ラショニング)を余儀なくされています。
チェン氏は今回のDRAM不足について、少なくとも今後10年は続くとの見通しを示しました。
AIバブル論について問われた際、チェン氏は「その議論は2030年以降、あるいは2040年や2050年に行うべき」との趣旨を述べ、時期尚早との立場を示しました。
背景には、AIデータセンター向けの高帯域幅メモリ(HBM)や大容量DDR5への生産シフトがある。HBMの世界DRAMウエハ消費比率は2024年の8%から2026年には23%まで上昇したとされました。
IDCなど調査会社は、メモリ不足がスマートフォン・PC市場に及ぼす影響として、2026年のスマートフォン世界出荷台数が前年比12.9%減の約11.2億台まで落ち込む可能性を指摘しています。(リーマンショック後の2008〜2009年以来最大の下落率)
消費者向けDDR5メモリ価格は2025年7月比で最大10〜20%程度の上昇が見込まれ、32GB DDR5キットが110ドルを超える可能性も指摘されています。
新規生産能力の稼働はMicronやSK hynixでも早くて2027年以降とされ、供給不足の解消には時間がかかる見通しです。
解説
「30年のキャリアで初めて」という言葉の重みは大きい。業界の重鎮がここまで踏み込んで発言するのは相当な危機感の表れと見ていい。
「AIバブル論は2040年まで待て」という発言は、裏を返せば「今のうちにバブルかどうかを議論している場合ではない、需要はそれだけ本物だ」という強気のメッセージ。
同時に、この発言はADATAのようなメモリ商社にとって「今は売り手市場」であることの裏返しでもある。供給不足を嘆きつつも、値上げの恩恵を受ける立場にあることは忘れてはいけない。
CSPが「同業ではなく競争相手」という表現が象徴的。もはやコンシューマー向けメーカーはハイパースケーラーの調達力の前では単なる「その他大勢」でしかない。
HBMがDRAMウエハの23%を食う時代になったというのは、AI向け高付加価値品への生産シフトがコンシューマー向け供給を圧迫している構図をそのまま数字で示している。
「10年後まで不足が続く」と言われても、こちらの財布の寿命の方が先に尽きそうな気がしてくる。
スマホ・PCへの影響は既に数字に表れつつある。IDCが指摘する12.9%減という出荷台数の落ち込みは、リーマンショック級というインパクトの強さを持つ数字であり、これは業界の話にとどまらず消費者の買い替えサイクルにも直結する。
「待てば安くなる」がもう通用しない時代に、いつ・何を買うかの判断はますます難しくなっている。
ADATAの会長はたびたびこの手の発言を行っているが、それだけ需要が強いということなのだろう。単純なポジショントークとはいいがたい状況で、今後も楽観視するのはやめた方がよさそうだ。
10年ひと昔というが10年といわれると気が遠くなってくる。