■事実
AMDは、年次フラッグシップAIイベント「Advancing AI 2026」を2026年7月22〜23日に米カリフォルニア州サンフランシスコのモスコーニセンターで開催すると発表した。
基調講演にはAMD会長兼CEOのリサ・スー博士が登壇し、AMDエグゼクティブ、AIエコシステムパートナー、顧客、開発者が参加する。
イベントの公式テーマは「AIインフラ、アーキテクチャ、開発における最新動向の共有」とされている。
昨年のAdvancing AI 2025の振り返り
昨年のAdvancing AI 2025では、Instinct MI350シリーズアクセラレータとROCm 7が発表された。
また、次世代EPYC Venice「Zen 6」CPUとPensandoインフラを搭載したHeliosラックの初期ティーザーも公開された。
2026年に期待される発表内容
Instinct MI400シリーズの本格展開
Instinct MI400シリーズは、CES 2026(2026年1月)の時点でフルラインナップが公開済みだ。
MI455X(大規模AIトレーニング向け)、MI440X(オンプレミス企業向け)、MI430X(スーパーコンピュータ・ソブリンAI向け)の3モデルで構成される。
HeliosラックはMI455X GPUとEPYC Venice CPUおよびPensando「Vulcano」NICを組み合わせ、1ラックあたり最大3AIエクサフロップスの演算性能を実現する。
Advancing AI 2026の時期(7月)は、Heliosラックの出荷開始が予定されている2026年後半と重なっており、正式量産出荷の開始宣言が見込まれる。
Metaは最大6ギガワット規模のカスタムMI450 GPU調達契約をAMDと締結しており、2026年後半から最初の1ギガワット分の出荷を予定している。
OracleもMI450シリーズの主要ローンチパートナーとして、数万台規模のMI450 GPUをOracle Cloud Infrastructureに展開する計画だ。
米エネルギー省もMI430X GPUとEPYC Venice CPUを採用し、オークリッジ国立研究所の次期フラッグシップスーパーコンピュータ「Discovery」に使用することを決定している。
EPYC Venice「Zen 6」の正式ローンチ
EPYC VeniceはZen 6マイクロアーキテクチャとTSMCのN2プロセス(2nmクラス)を採用した第6世代EPYCプロセッサだ。
1パッケージあたり最大256コア(Zen 6コア×32のCCDを8基搭載)を統合し、前世代EPYC Turinの最大192コアから33%増となる。
新SP7ソケットを採用し、1ソケットあたり最大1.6TB/sのメモリ帯域幅を実現する。
MetaがEPYC Veniceの主要ローンチ顧客として名乗りを上げており、すでに数十万台規模のEPYC CPUを運用中のMetaが新世代に移行する。
ROCmソフトウェアスタックがHeliosシステム全体を統合し、GPUとCPUのシームレスな連携を担う。
MI500シリーズとEPYC Veranoの初期プレビュー
CES 2026の時点でMI500シリーズの次世代ラックシステムがすでにロードマップ上で公開されており、Advancing AI 2026では詳細なプレビューが行われる可能性がある。
EPYC Verano(Zen 7コアアーキテクチャ採用)は2027年の投入が予定されており、MI500シリーズと組み合わせた次世代ラックスケールAIシステムの基盤となる。
Advancing AI 2026はComputex 2026(6月初旬)の約1か月後に開催されるため、コンシューマー向けの新世代RyzenやノートPC向け製品のティーザーがComputexで先行公開される可能性もある。
MI400シリーズのアーキテクチャ詳細
MI400シリーズは2nmおよび3nmの計算ダイとIOダイを合計12ダイ構成で統合し、HBM4メモリを12スタック搭載する大型パッケージだ。
MI350シリーズと同様に2つのベースダイを持ちつつ、さらに上下に追加ダイを配置したより複雑なパッケージ構成を採用している。
HeliosラックはOpen Compute Project(OCP)準拠の設計で、MetaとAMDが共同開発しており、将来的な電力効率改善を見越してラック前面から電源シェルフを排除した構造も2027年世代から採用される見込みだ。
ROCmエコシステムの現状
AMDのROCmソフトウェアスタックはHeliosシステム全体の統合基盤であり、GPUとCPUのシームレスな連携を担う。
リサ・スーCEOはMetaのカスタムMI450向けソフトウェアについて、「MI450アーキテクチャを基盤とした作業の95%以上が他の展開にも転用可能」と述べており、カスタマイズのソフトウェアコストが限定的であることを強調している。
Advancing AI 2026はComputex 2026(6月初旬予定)の約1か月後という日程で、コンシューマー向け新世代RyzenやノートPC向け製品のティーザーがComputexで先行公開された直後という位置づけになる。
■解説
AMDのAdvancing AIは、もはや「製品発表イベント」というより「AIインフラの現在地を業界全体に示す場」として機能しています。
今年のAdvancing AI 2026のタイミングは非常に計算されていて、Heliosラックの出荷開始が予定される2026年後半の直前という絶妙な位置取りです。
つまり、「これから出荷します」という宣言の場として機能する可能性が高い。
MI450のラインナップはCES 2026でほぼ出揃っていて、Metaの6GW契約やOracleの大口導入も既発表です。
Advancing AI 2026でやることは、製品を発表するというより、実際の大規模導入実績と性能データを顧客・開発者コミュニティに見せつけることでしょう。
NVIDIA GB200 NVL72システムとの競合という文脈で言えば、AMDは性能よりも「ROCmエコシステムの完成度」と「CUDA依存からの脱却コスト」を訴求軸に置いています。
ROCm 7の成熟度がどの段階まで来ているか、主要フレームワーク(PyTorch、JAX、vLLMなど)の対応状況がどこまで整っているかが、Advancing AI 2026の実質的な勝負どころだと見ています。
MI500シリーズのプレビューについては、早ければCES 2026で一部情報が出ていますが、Advancing AI 2026で具体的なアーキテクチャ詳細やHBM4の搭載仕様が明かされるかどうかが注目点です。
EPYC Veniceについては、256コアというコア数よりも、Zen 6アーキテクチャの実IPC改善幅と、N2プロセスによる電力効率改善がどの程度のものか——これがデータセンター顧客の最大の関心事です。
AMDはここ数年、毎年確実にNVIDIAの市場シェアを削り取ってきました。
それでもNVIDIAのCUDAエコシステムの壁は依然として高く、「ROCmで全部動く」というメッセージが信頼されるには、実際の運用実績と顧客の証言が必要です。
Advancing AI 2026でどれだけのハイパースケーラー(大規模クラウドプロバイダー)とエンタープライズ顧客が壇上に立つかが、AMDの本当の意味での訴求力を測る指標になります。
ROCmが「使えるエコシステム」として認知される転換点に、今年のイベントが位置するかどうか——個人的にはそこを最も注目しています。
個人的にROCmのWindowsサポート状況を長く追ってきた身として言えば、ROCmのエンタープライズ側の成熟度と、エンドユーザー・開発者が触れるROCmの成熟度には依然として大きな乖離があります。
データセンター向けのROCmは着実に改善されていますが、PyTorchやvLLMを個人環境で動かそうとすると依然として多くのハードルがあり、Advancing AI 2026がそこまでカバーするかどうかは未知数です。
AMDのデータセンターAI事業の急成長は本物ですが、それがCUDAに依存しないソフトウェアエコシステムの勝利なのか、単に価格競争力とHBM搭載量の勝利なのかは、まだ判断がつきません。
Advancing AI 2026での顧客・開発者の発言内容が、その答えを示す重要な手がかりになるでしょう。
もう一点、今年のAdvancing AIで気になるのはEPYC Venice-Xの扱いです。
AMDは過去のFinancial Analyst Dayで、EPYC Venice-X(3D V-Cache搭載版)をソブリンAIやHPCプラットフォーム向けに準備していることをティーザーとして示していました。
VeniceとMI430X/MI440Xを組み合わせたHPCプラットフォームの文脈でVenice-Xが正式発表されるかどうか、ここはマニア的に気になるポイントです。
EPYC VeniceのZen 6コアは1コアあたり約5mm²のダイ面積でZen 5の5.34mm²(N3)から大幅に改善しており、TSMCのN2プロセスの恩恵が明確に出ている設計です。
256コア・1.6TB/s帯域幅というスペックは、AI推論のKVキャッシュ処理や大規模バッチ処理において実質的な優位をもたらす可能性があります。
Advancing AI 2026は「発表の場」であると同時に、AMD ROCmコミュニティと開発者エコシステムを一堂に集める年次祭典でもあります。
NVIDIAのGTC(GPU Technology Conference)に対応するポジションを狙っているわけで、AMDがそこまでの求心力を持てるかどうかが、2026年以降のエコシステム競争の行方を左右します。
個人的には、こういったイベントが大々的に開催されるという事実そのものが、もうAMDの主役がコンシューマーGPUからAIアクセラレーターに完全に移ったことを象徴していて、少し寂しい気持ちになります。
かつてのAMD Radeonを応援していた身としては、「Advancing AI」の看板の下で語られる内容がほぼすべてデータセンター向けというのは、時代の変化を痛感させられます。
あとは、このAIアクセラレーター開発のおこぼれを、ゲーム向けのAI技術としてどれだけコンシューマー側に持ってきてくれるかですね。
FSR 4はRDNA 4限定という判断もあり、AMDがコンシューマー向けのAI機能でNVIDIAのDLSSに対して本気で戦う姿勢を見せているかというと、正直疑問が残ります。
MI400シリーズで培ったAI推論のノウハウが、次世代Radeonのアップスケーリングやフレーム生成技術に還元される日が来るのか——それがAMDファンとして今後を見ていく上での、最大の関心事です。
