
■事実
Intel副社長兼エンスージアスト事業部門ゼネラルマネージャーのRobert Hallock氏が、Tom's Hardwareのインタビューで、Raptor Lake(第13・14世代Core)を「今後何年にもわたりポートフォリオの中核」として位置づけ続けると明言しました。
Hallock氏は「LGA 1700は今なお優れたソケットだ。DDR4に関心を持つ人はまだ多いので、供給を続ける」と発言し、価格・供給は時間とともに正常化する見通しを示しました。
背景にあるのはDDR5メモリ価格の急騰で、2025年半ばに1kitあたり95〜250ドル程度だった32GB DDR5キットが、2026年には550〜650ドル以上まで上昇したとの報告があります。(一部調査では2025年終盤比で約4〜5倍という数字も)
価格急騰の直接的な原因は、SamsungやSK Hynix、Micronなど大手メモリメーカーがAIアクセラレーター向けHBM(広帯域メモリ)生産へウェハ容量を優先配分していることにあります。
HBMはDDR5と比べて同じビット数を生産するのに約3倍のウェハ容量を要するとされ、HBM需要の急増がDDR5・DDR4双方の供給を圧迫する構造になっています。
TrendForceなどの調査会社によれば、2026年第1四半期のDRAM契約価格は前四半期比で90%超という記録的な上昇を記録し、第2四半期も高い上昇率が続いたと報告されています。
この状況を受け、予算重視のユーザー・自作erがDDR4を継続利用できるLGA 1700プラットフォーム(Alder Lake・Raptor Lake)に回帰する動きが強まった
Hallock氏は、この需要急増を「突然の流入(sudden inrush of demand)」と表現し、ウェハ生産計画は数ヶ月〜半年以上前に確定するため、今回のような急激な需要変化への即応は困難だったと説明しました。
Raptor Lakeは10nmプロセス製品であり、Intelは今後もこの世代を供給し続ける方針であることをHallock氏が改めて確認しました。
複数の海外メディア(Tom's Hardware、VideoCardz、TechSpot等)は、IntelがLGA 1700向けに「Raptor Lake Next」と呼ばれる新型リフレッシュ製品を2027年前半に投入する計画があると報じています。
Raptor Lake Nextは、DDR4・DDR5の両対応を維持する見込みとされ、ノートPC/デスクトップ双方でNova Lake世代の登場から数ヶ月後の投入になるとの情報があります。
マザーボードメーカー側でも動きがあり、GIGABYTEが最近LGA 1700対応のDDR4マザーボードを再投入するなど、複数のベンダーがDDR4対応ボードの増産を検討していると報じられています。
同種の動きはAMD陣営でも見られ、AM4向けにRyzen 7 5800X3Dの再生産・限定復刻が行われるなど、旧世代DDR4プラットフォームの延命は業界全体の傾向となっています。
表(DDR4回帰の背景整理)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| DDR5価格動向(32GBキット目安) | 2025年半ば:約95〜250ドル → 2026年:約550〜650ドル以上 |
| 価格高騰の直接要因 | AIアクセラレーター向けHBM生産へのウェハ容量優先配分 |
| HBMのウェハ消費比率 | DDR5比で約3倍(1ビットあたり) |
| DRAM契約価格の推移 | 2026年Q1、前四半期比90%超上昇(TrendForce等の報告) |
| Intelの対応方針 | Raptor Lake(LGA1700)の供給継続、新型「Raptor Lake Next」を2027年前半投入予定 |
| AMD陣営の同種動向 | AM4向けRyzen 7 5800X3Dの再生産・限定復刻 |
| マザーボード側の動き | GIGABYTE等がLGA1700対応DDR4ボードを再投入 |
ソース
- https://www.tomshardware.com/pc-components/cpus/intel-vp-robert-hallock-sets-nova-lake-expectations-teases-return-to-raptor-lake-for-ddr4-platforms-our-full-1-1-interview-transcript
解説
「メモリが高いから型落ちCPUに回帰する」という現象自体は目新しくないが、今回の特殊な点はDDR5高騰の原因がPC市場の需給ではなく、AIデータセンター向けHBM生産へのウェハ争奪戦という「PC業界の外側」の事情である点。ゲーマー・自作erが割を食っている構図をはっきり説明できる。
HBMとDDR5が同じウェハ生産ラインを奪い合っているという構造は、AIブームの副作用が消費者向けPC市場に及ぶ典型例として解説しやすい。GPU価格高騰の次はメモリ、という流れだ。
Intel自身が「想定していなかった需要」と認めている点は率直で好感が持てる一方、裏を返せば通常数ヶ月〜半年単位で決まるウェハ生産計画の硬直性を露呈したとも言える。半導体産業の供給網が急な市場変化に弱いことを示す好例だ。
「LGA 1700は今なお優れたソケットだ」という発言は前向きに聞こえるが、実態は新世代(Nova Lake等)へ移行したくてもDDR5高騰でユーザーが動けない、という消極的な理由が大きい。ポジティブな言い回しの裏にある事情は読み解いておきたい。
AMDも同様にAM4向けの旧世代製品を延命・復刻させている流れがあり、これはIntel固有の現象ではなく、DDR5高騰という共通要因がIntel・AMD双方の「型落ちCPU延命」を後押ししている構図として整理できる。
Raptor Lake Nextが本当に2027年前半に投入されるなら、LGA 1700ソケットは2021年の登場から実質6年以上使われ続けることになる。頻繁なソケット変更へのユーザーの不満を踏まえると、皮肉にも「メモリ高騰のおかげで長寿命化した」という結果になっている。
新型CPUを買う理由が「性能が欲しいから」ではなく「型落ちの方がメモリ代を含めて安く済むから」というのは、なんとも本末転倒な状況ではあるが、財布の事情には勝てない。
AIが一番得をして、一番割を食っているのは結局PC自作勢というのが、2026年のメモリ市場を一言で表す構図なのかもしれない。