
■事実
欧州のDDR5メモリ市場で、2026年2月初旬に記録したピーク価格から、わずかながら値下がりの動きが確認された。
Redditのpcmasterraceコミュニティに投稿されたチャートが注目を集めている(https://www.reddit.com/r/pcmasterrace/comments/1r9477k/average_ddr5_ram_price_slowly_going_down_in_eu/)。
このチャートはオランダの価格比較サービス「Tweakers」のデータを基に作成されており、EU圏における32GBのDDR5キット1種の最低価格と平均価格の推移を2025年7月下旬から2026年2月にかけて記録したものだ。
チャートによれば、2025年秋初頭まで最低価格(緑線)は約95ユーロ、平均価格(青線)は約100ユーロで安定して推移していた。
その後、2025年10月から急激な上昇が始まり、11月以降にさらに加速、2026年2月初旬には平均ラインが約430〜470ユーロに達してピークを迎えた。
わずか半年で価格が4倍以上に膨れ上がった計算になる。
その後、両ラインがわずかに下方へ向き始めており、価格調整の兆しが読み取れる。
Tom's Hardwareもこの動きを独自に検証している(https://www.tomshardware.com/pc-components/dram/retail-ddr5-memory-prices-slowly-drop-in-europe)。
同メディアはCamelCamelCamelの価格追跡ツールを用いて、Amazon Germanyにおける32GB DDR5-6000/6400デュアルチャンネルキット5モデル(Crucial、Corsair、G.Skill、Kingston、Patriot)の価格推移を調査した。
その結果、下落幅が特に大きかったのはCorsairとKingstonの2モデルで、CorsairはAmazon Germanyで2月初旬の約480ユーロから約425ユーロへ、KingstonはAmazon Germanyで1月初旬の約550ユーロから463ユーロへと値下がりした。
対象とした5モデルはすべて、数週前のピーク価格を下回っている水準にある。
ただし欧州の小売価格にはVATが含まれており、米国の税抜き表示との直接比較には注意が必要だ。
また、ComputerBaseが独自に集計したドイツ国内の調査では、2026年1月から2月にかけての値上がり率はほぼゼロとなっており、5か月前のピーク比で平均4倍超という異常な水準からは横ばいに転じた形だ。
米国市場については、CorsairやKingstonのような急落は見られず、G.SkillやPatriotの一部モデルでわずかな調整が確認された程度で、依然として記録的な高値圏に留まっている。
今回の価格動向についてVideoCardzも伝えており(https://videocardz.com/newz/ddr5-prices-start-to-ease-in-europe-after-early-february-spike)、「ピークからの引き戻しであり、DDR5の『正常化』ではない」と明確にコメントしている。

このような価格高騰の背景には、AIデータセンター向けメモリ需要の爆発的な拡大がある。
NVIDIA、Google、Meta、Microsoftなどの大手企業がAIインフラへの設備投資を急拡大させており、その額は2026年に約6,500億ドルに達すると試算されている。
AIアクセラレーター向けのHBM(高帯域メモリ)は、通常のDRAMと比べて約3倍のウエハー面積を消費する。
Samsung、SK hynix、Micronの世界3大メモリメーカーはこぞってHBM生産を優先し、消費者向けDDR5の生産ラインを縮小せざるを得ない状況に追い込まれている。
SK hynixは2025年10月の決算発表において、2026年分のHBM・DRAM・NANDキャパシティはすでに「実質的に完売済み」と表明した。
Micronは消費者向けメモリ市場から事実上撤退し、AIデータセンターおよびエンタープライズ向けに特化する方針を打ち出している。
こうした構造的な供給制約により、DDR5の価格が正常水準に戻るのは2027年以降になるとの見方がアナリストの間で支配的だ。
Samsungは韓国・平沢の新工場(P5)を2028年に稼働予定、SK hynixも新工場(M15X)を2027年中頃に立ち上げる計画だが、いずれも量産による供給増はさらに数か月先になる。
今回のRedditの投稿に添えられたチャートはTweakersの1製品の価格追跡データであり、対象キット、販売国、小売店、税込み/税抜きの違いが明記されていない点には留意が必要だ。
あくまで欧州市場の一断面を示す参考情報として見ることが適切だ。
解説
正直なところ、「値下がりが始まった」とはいえ、欧州でCorsairが480ユーロから425ユーロになったという話です。
1年前は100ユーロ以下で買えていたわけですから、4倍超の水準から1割落ちたくらいで喜べる状況ではないですよね。
スクリーンショットにある通り、VideoCardzの記述が的確で「ピークからの引き戻しであってDDR5の正常化ではない」というのが実態だと思います。
なぜこんな状況になったかというと、要するにAI企業が世界中のメモリをごっそり買い占めているからです。
Samsung、SK hynix、MicronというDRAMの寡占3社が、AIデータセンター向けの高収益なHBMに生産を集中させ、消費者向けのDDR5が後回しにされています。
個人的に興味深いのは、スクリーンショットにある「日本のGPU市場でも同じことが起きている」という指摘です。
GPUも価格が急騰した後、一部モデルは値下がりしてきましたが、依然としてMSRP(推奨小売価格)を超えた水準で流通しているものが多い状況です。
DDR5もGPUも、根本的な問題が解消されない限り「少し落ちた」程度で喜ぶのは早計だということですね。
先行きについては、業界アナリストや主要メーカーの見解を踏まえると、2026年中の大幅な価格正常化は期待薄です。
SamsungとSK hynixの新工場稼働は早くても2027〜2028年で、その後も量産ラインが軌道に乗るまでさらに時間がかかります。
今PCの組み直しやメモリ増設を急ぎで考えている方には厳しい話ですが、買い替えの優先度が低いなら2027年以降まで様子を見るというのが、現時点では最も現実的な選択肢だと思います。