なんちゃってHDRについて
4K HDRディスプレイのレビューでなんちゃってHDRと言いましたが、その理由を説明します。
以前に色空間に関する説明を別の機会に行うとも書きましたが、ここで説明したいと思います。
まず最初に4K HDRを表示するのに必要な帯域に関して説明しておきます。
PCで使われている4K HDRに対応している接続規格はHDMI2.0a以上とDisplayPort1.3以上になります。
ただし、DisplayPort1.3はほとんど対応機器がありませんので実質的にはDisplayPort1.4ということになります。
現在安価な普及価格帯の4Kディスプレイに一般的に使われているDisplayPort1.2はHDR表示に対応してません。
DisplayPort1.2でHDR表示対応していると銘打っている場合はHDR風味に画面を表示させられるとかそんなレベルだと思います。
データを送信するパイプの太さが足りてないということなので正常にHDR表示をさせることは不可能です。
それでは安価な機器でHDRを表示するのはどうしたらよいかというと、HDMI2.0bを使うことになります。
ここでHDMIとDisplayPortの帯域を上げておきます。
帯域(Gbps・最大) | |
Displayport1.2 | 17.28 |
Displayport1.3/1.4 | 25.92 |
HDMI1.4 | 8.16/10.2 |
HDMI2.0 | 14.4/18.0 |
4K HDR 60Hzの10bit ロスレスに必要な帯域は20Gbpsなので、Displayport1.2やHDMI2.0では帯域が足りないことは理解してもらえると思います。
HDMI2.0に関してはいくつかの内部バージョンがあるのですが、表記が許されていないようですので、「最大」と表記しながら二つの数字を書いてあります。
帯域が足りてないにも関わらずHDMI2.0bに関してはHDR10のコンテンツを再生可能です。
一体どのように再生しているのでしょうか?
それをこれから解説します。
RGBの色空間で画像を表示させる場合の各要素
当然ですが、その名の通り、レッド、グリーン、ブルーの光を重ね合わせることによって表現しています。
YUV(YCbCr)の色空間で表示させる場合の各要素
輝度と二つの色差信号を使って表現
YUVのWikiページにはこうあります。
YCbCrで帯域を減らす際に、色差成分を間引く方法も併せて使用される。人間の目は色の変化よりも明るさの変化に敏感なので、色差成分を減らしても不自然だと感じにくいためである。
ここまで説明してくればわかると思いますが、HDMI2.0bで4K HDR 60Hzを実現する際にはこの色差成分を間引く方法が使われています。
どのように色差成分を間引いているか
上のようになっており、
YUV(YCbCr)4:4:4=ロスレス 損失無し、1ピクセル当たり24bit
YUV(YCbCr)4:2:2、1ピクセル当たり16bit
YUV(YCbCr)4:2:0、YUV(YCbCr)4:1:1 1ピクセル当たり12bit
となります。
実際に画像を表示させた場合どのくらい劣化するかのサンプル
下の画像だと劣化具合がはっきり見て取れますが、上の画像のように色の情報が含まれている場合、あまり目立ちません。「人間の目が色の変化に敏感ではない」というのが理解してもらえるのではないでしょうか。
※ クリックで別窓で拡大
ロスレスがYUV(YCbCr)4:4:4とすると、HDMI2.0bで4K HDR 60Hzで表示させているコンテンツがYUV(YCbCr)4:2:2もしくはYUV(YCbCr)4:2:0となります。
上の画像で比較すると劣化しているのがはっきりわかるのではないかと思います。
色空間YUV(YCbCr)においてこの画像の情報量を間引く技術をクロマ・サブサンプリング(Chroma Subsampling)と言います。
現在色空間YUVの日本版のwikiのページにもこのワードの記述がなく、独自で調べられている方のリテラシー向上を阻害する要因となっていると思います。
実際のところ「クロマ・サブサンプリング」で検索するとわかりやすく解説しているページが山ほど出てくるのですが、PC村に住んでいる人と、AV(オーディオビジュアル)村に住んでいる人との溝によってそう簡単に正解にたどり着けない状況になっています。
もっと深く知りたい方は、いろいろと検索して調べてみることをお勧めしておきます。
こんな風に4K HDRコンテンツはYUV(YCbCr)4:4:4で表示させない限り、劣化した画像を見ているということになります。
「なんちゃってHDR」は悪なのか?
これらのことを知らなかったという方もいると思います。
知ってはいるが詳しくは調べていなかった方も、これらのことを改めて知ってショックを受けた方もいるのではないでしょうか?
ではわたくしが言うこの「なんちゃってHDR」は悪なのか?についてです。
答えはノーです。少なくともわたくしはそう思います。
ロスレスYUV(YCbCr)4:4:4が当たり前の人たちにとっては物足りない方式だと思いますが、そうでない一般の方にとっては安価に手軽にHDRコンテンツを再生できる非常に優れた仕組みだと思います。
HDRコンテンツを表示するのに20万円必要ですと言われたらどれだけの人がポンとお金を払えるでしょうか?
一部の先鋭的なユーザーさんや独自に専用の部屋を用意してハイクオリティなHDRコンテンツを楽しむのが当たり前になっているリッチなユーザーさん以外には手の届かない世界だと思います。
「なんちゃってHDR」は一般のユーザーの方にもHDRコンテンツ再生の門戸を開く非常に優れた、かつ素晴らしい仕組みだとわたくしは思います。
一言でいえば「コスパ最高」(笑 という奴ですね。
私が「現在の4Kゲーミングは黎明期にある」と言っているのはこういう意味です。
クロマ・サブサンプリングの欠点
当然ですが、安価で手軽に高品質な4K HDRコンテンツを再生できるという一見素晴らしい仕組みに見えるクロマ・サブサンプリングにも欠点はあります。
人間の目では目立たない部分の情報を削っているとは言え、ロスレスではありませんので、劣化している部分は当然あります。
「どのように色差成分を間引いているか」画像で説明した通り、やはり失われている情報というのがありますので、OSのWindowsで開く窓の部分や文字の表示などには向いてません。
あくまでもYUV(YCbCr)は放送用を前提とした規格ですので、濃淡のはっきりした、こうしたグラフィックス的な表示には向いていないということです。
実はマイクロソフトの公式にも4K HDRに関しての注意書きが書かれています。
Windows 10 の HDR と WCG の色設定より抜粋
色が正しく表示されない (たとえば、白の背景に黒いテキストを表示するときに、縦線の周囲で色が干渉する)
HDMI 接続を使用しており、ディスプレイで DisplayPort 接続の HDR がサポートされている場合は、PC とディスプレイの接続に DisplayPort 接続をお使いください。
とはっきり書かれています。
とても分かりにくい説明ですが、これは「HDMIで4K HDR 60Hz表示に使われているYUV(YCbCr)4:2:2やYUV(YCbCr)4:2:0はデスクトップ表示やOSのオペレーション表示には全く向かないので、なるべく使わないでください。」という意味です。
色差信号を間引いていますので、表示させる際にそれが複数のピクセルに影響を与え、色の干渉が起きる可能性があるのでOSのオペレーション表示には向いてません。
現在のなんちゃってHDRにおける活用用途はビデオやゲームなどの対応コンテンツをフル画面表示させた際に使うケースに限った方がよいということです。
これらの特性は価格が安いこととトレードオフとなっているのですが、明確に説明されておらず、きちんと説明すれば上位のディスプレイの売り上げが上がると思うのですが、現在の状況には問題があると思います。(そのためにこの記事を書いたわけですが・・・)
私のように、安価な製品を求める人も必ずいると思いますので、必要な情報をきちんと公開し、フェアに商売したほうが絶対にプラスになると思います。
現在、4K HDR周りの規格に関してはHDMI、Displayportとそのバージョンなども含めて複雑怪奇な状況になっていますので、一般ユーザーが気軽に入ってこれるような状態ではありません。
こうしたことも4K環境の普及が遅れている原因の一つではないかと思います。
これから4Kゲーミング環境をそろえる予定の方も、すでに持っているよという方も、後で後悔しないように、快適に4K HDRコンテンツを楽しめるようにこれらの特性をきちんと理解しておきましょう。
当サイト4Kモニターレビュー:EX-LD4K271DB(KH2750V-UHD)レビュー
参考記事:Impress - AV Watch - 本田雅一のAVTrends - HDMI 2.0発表。4K/60p伝送の幕開けと少し気になる点
画像のクレジット表記:色空間RGBの構成要素、色空間YUVの構成要素、色空間YUVの色差信号間引、色空間YUVで色差信号を間引いた場合の画像劣化
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