
■事実
経緯・タイムライン
FSR 4.1(現在の正式名称:FSR Upscaling 4.1)は2026年3月、Adrenalin 26.3.1ドライバーでRX 9000シリーズ(RDNA 4)専用として初リリースしました。
AMDは5月にロードマップを公表:RX 7000シリーズ(RDNA 3)へは7月対応、RX 6000シリーズ(RDNA 2)は2027年初頭の予定です。
ValveがProton Experimentalを更新した際、FSR 4.1.1のINT8版DLLが署名付きで流出。コミュニティがOptiScaler経由で先行検証、RX 7000シリーズでの動作を確認しています。
この流出が公式対応を予定より早める圧力になったとみられ、6月22日のAdrenalin 26.6.2にて7月を前倒しして正式サポート開始しました。
6月25日、FSR SDK 2.3をGPUOpenおよびGitHubで公開しました。
技術的背景(RDNA 3 INT8とRDNA 4 FP8の違い)
RX 9000シリーズ(RDNA 4)は第2世代AIアクセラレーターを搭載し、FP8(8ビット浮動小数点)とINT8の両方をネイティブで処理できます。
RX 7000シリーズ(RDNA 3)は第1世代AIアクセラレーターで、INT8(8ビット整数)のみ対応。FP8命令を持たちません。
AMDはFP8を前提に設計されたFSR 4.1のニューラルネットモデルをINT8向けに再量子化・最適化し、最終出力画質をFP8版と一致させたと主張しています。
FP8→INT8への単純キャストはデータ型の数値範囲の差からアーティファクトを生むため、AMD開発チームはモデルの調整・最適化・検証に時間を要しました。
RDNA 3向けINT8版ではアップスケーリング処理そのものの負荷がFP8版より若干増加します。ただし公式・コミュニティ両方のベンチマークで実用上の差は小さいことが示されています。
AMD上級副社長(コンピューティング&グラフィックス部門GM)のジャック・ヒューイン氏がX(旧Twitter)で公式発表しました。
現在のサポート範囲
Adrenalin 26.6.2をインストールすれば、対応する300タイトル以上でFSR 4.1が即日利用可能です。
FSR 3.1以上がゲームに統合されていれば、ドライバーがDLLを自動差し替えしてFSR 4.1にアップグレードする仕組み(ゲームのアップデート不要)です。
MLベースのフレームジェネレーション(FSR Frame Generation 4.0)はRX 9000シリーズ専用のまま。RX 7000では従来通りFSR 3.1ベースのフレームジェネレーションを使用しています。
26.6.2のWindows 10問題と26.6.3ホットフィックス
Adrenalin 26.6.2はFSR 4.1対応と同時にリリースされましたが、Windows 10環境(21H2・22H2)でRadeon RX 7000シリーズ以上のGPUがデバイスマネージャーに「Code 43」エラー(黄色いビックリマーク)を出す不具合が発生します。
Code 43エラーが発生するとGPUが動作を停止し、Microsoftの基本ディスプレイアダプターにフォールバック。Adrenalinソフトウェア自体も起動不能になり、ハードウェアアクセラレーション・ゲーム・FSR 4.1がすべて使用不可に
AMD公式サポート記事(6月23日付)で問題を公式に認め、回避策として26.6.1への手動ロールバックを推奨し、26.6.2はダウンロードページから一時削除されました。
不具合の影響はWindows 10に限定で、Windows 11環境での同ドライバーでは問題が報告されていません。
RX 9000シリーズでも数件の報告はありますが、主にRX 7000シリーズのWindows 10環境が影響を受けました。
翌日(6月24日)、AMD がAdrenalin 26.6.3ホットフィックスをリリースし、Windows 10上でのCode 43問題を修正しました。対象はRX 7000以降のGPUです、
26.6.2のリリースノートには既知問題として「Blender使用時のクラッシュ(RX 7000以降)→ 26.3.1推奨」が別途記載されており、クリエイティブ用途のユーザーには26.3.1が依然として推奨ドライバーの状況です。
ベンチマーク(ユーザー報告)
RX 7900 XTX / Cyberpunk 2077 / 4K / RTウルトラはネイティブ約24fps → FSR 4.1 Balancedプリセット適用で約50fps(約2倍)です。(Redditユーザー u/Mercennarius 報告)
同環境での別報告ではPerformanceプリセットで60fps到達という数字も出ています。
Crimson Desert(AMD公式発表データ)/ RX 7900 XTX / 4Kはネイティブ43fps → FSR 4.1適用で64fps(約50%向上)です。
FSR 4.1 PerformanceモードはFSR 3.1 Qualityモードより視覚品質が高いとユーザーが評価です。
SDK 2.3の内容(本日リリース)
FSR Upscaling 4.1.1はRDNA 3向けINT8サポートを公式SDKレベルで追加されました。
Ray Regeneration(レイ再生成)1.2.0:アンビエントオクルージョンのデノイジングとスペキュラーオクルージョンのデノイジングが新たにオプションで追加されました。チェッカーボードレンダリングのサポート、デバッグオプション追加。APIに破壊的変更あります。(開発者要注意)
FSR Frame Generation 4.0.1はモーションベクター前処理、カメラ情報バインディングなどのバグ修正がありました。
Ray Regeneration 1.2.0はRX 9000シリーズ以上・DirectX 12 Shader Model 6.6が必須。RX 7000では非対応です。
今後のロードマップ
RDNA 3.5搭載APU(Ryzen AI 300/400シリーズ、Radeon 890M等)向けには、内蔵GPU用の軽量MLモデルを新規開発して対応予定です。(当初「対応予定なし」から方針転換)
Steam DeckなどRDNA 2搭載デバイス向けは2027年初頭の予定。RDNA 2はINT8スループットがRDNA 3より劣るため最適化に時間が必要です。
| FSR 3.1 | FSR 4.1 (RDNA 4 / FP8) | FSR 4.1 (RDNA 3 / INT8) | |
|---|---|---|---|
| 対応GPU | RX 5000以降・他社GPU | RX 9000シリーズのみ | RX 7000シリーズ |
| 演算方式 | 従来アルゴリズム | FP8 MLモデル | INT8 MLモデル(再量子化) |
| 対応タイトル数 | 広範 | 300本以上 | 300本以上(同一) |
| フレームジェネレーション(ML版) | × | ○ | × |
| Ray Regeneration | × | ○ | × |
| 推奨ドライバー | 26.6.3 | 26.6.3 | 26.6.3(Win11)/ 26.6.3(Win10・ホットフィックス適用後) |
| ドライバー | 日付 | 主な内容 |
|---|---|---|
| Adrenalin 26.3.1 | 2026年3月 | FSR 4.1をRX 9000向けに初リリース |
| Adrenalin 26.6.1 | 2026年6月初旬 | 安定版(Blenderクラッシュ問題は未解決) |
| Adrenalin 26.6.2 | 2026年6月22日 | FSR 4.1をRX 7000向けに正式対応、Windows 10でCode 43 |
| Adrenalin 26.6.3 | 2026年6月24日 | Windows 10のCode 43問題を修正するホットフィックス |
解説
FSR 4.1のRX 7000対応は「技術的に不可能」と思われていたわけではなく、「画質をFP8版に揃えるまでリリースしない」というAMDの判断の問題だった。これが長期化した正直な理由だ。
「INT8版は画質が落ちる」という懸念はコミュニティの先行検証でほぼ払拭されていた。AMDが公式に追認した形だ。
OptiScaler経由で非公式に使っていたユーザーにとっては「公式がようやく追いついた」という感覚。ゲームごとの安定性や互換性の問題から解放されるメリットは大きい。
MLフレームジェネレーションが依然としてRX 9000専用である点は忘れてはならない。RX 7000が受け取ったのはアップスケーリング部分のみ。フレームジェネレーションはゲーム内に実際の新フレームを生成するのではなく補完(補間)処理であり、追加された生成フレームはプレイヤー入力を反映しない(レスポンシビリティはネイティブ描画レートに依存する)。
Cyberpunk 2077 4K RTウルトラでの24→50fps(約2倍)という数字は、RTのハードル(レイトレーシングはピクセル処理がそのまま増える)を乗り越えるのにアップスケーリングが不可欠であることを改めて示している。
RDNA 3はRTパフォーマンスがRDNA 4に比べて劣る。そのため「FSR 4.1 + RT」の組み合わせでRX 7000ユーザーが得られる恩恵は相対的に大きい。ゲームがRTを前提とした描画設計に移行する中、アップスケーリングなしでRTを有効にすること自体がRDNA 3では非現実的なタイトルが存在する。
「FSR 4 PerformanceモードがFSR 3 Qualityより見栄えが良い」という評価が事実なら、プリセット選択の常識が変わる。これは実ゲーム体験に直結する話
300タイトル対応と言われても、自分が遊んでいるタイトルが入っているかどうかが全てなので、リストチェックは忘れずに。
RX 6000シリーズユーザーは2027年初頭まで待つことになる。RDNA 2はINT8演算スループットが低く、画質を保ちながら実用速度で動かすための最適化が一層必要というAMDの説明は技術的に筋が通っている。ただし「ソースコード流出で非公式に動いてしまっている」という事実は、純粋に技術的問題というよりも「最適化工数の問題」であることを示唆しており、RDNA 2ユーザーの待ちへの不満には一定の根拠がある。
「FSR 4.1を届ける」というまさにそのドライバーが、Windows 10ユーザーのGPUを実質的に無効化するという皮肉。翌日ホットフィックスで解決したとはいえ、「最初からWindows 10でテストしていなかったのか」という疑問は残る。
Windows 10のサポート期限は2025年10月に終了している。AMDはドライバーの対応を2026年中継続すると表明していたが、今回のように「新機能を届けるために出したドライバーがWindows 10ユーザーに即適用できない状態になる」という構図は今後も繰り返される可能性がある。
実用的な話をすると:現時点でWindows 10のRX 7000ユーザーがFSR 4.1を使うには26.6.3への更新が必要。Blenderを使うクリエイターは26.3.1推奨という状況が続いており、「最新ドライバーが常に正解とは限らない」という原則はAMD環境では特に意識しておきたい。
FSR 4.1で24fpsが50fpsになると喜んだ直後に黄色いビックリマークが出るというのは、なかなかに感情の振れ幅が大きい1日だったと思う。
GPU買い替えを先送りしてきたRX 7000ユーザーにとって、フレームジェネレーション不在という制約はあるにせよ、今回の対応は「今すぐ乗り換えなくていい理由」がまた一つ増えたことを意味する。
AMDのFSRとNVIDIAのDLSSの機能からハードウェアの世代を比較:
| 世代 | AMD | NVIDIA相当 | AI演算能力 | FSRサポート |
|---|---|---|---|---|
| 2世代前 | RDNA2 (RX 6000) | Turing (RTX 2000) 以前 | 専用AI演算器なし、シェーダー代替 | FSR 3.1まで(2027年にFSR 4.1予定) |
| 1世代前 | RDNA3(RX 7000) | Ampere(RTX 3000) | INT8マトリクスアクセラレーター(第1世代)、 デュアルイシューFP32でシェーダースループット2倍 | FSR 4.1アップスケーリングのみ (FG・Ray Regenerationは非対応) |
| 現世代 | RDNA4(RX 9000) | Ada(RTX 4000) | FP8+INT8(第2世代AIアクセラレーター) | FSR 4.1フル対応 (FG・Ray Regeneration含む) |
AMDのAI演算器実装がNVIDIAより一世代遅れており、FSRの機能解禁順がDLSSのロードマップと構造的に一致している点を見ると、個人的にはAMDがNVIDIAの轍を追っているように見える
このように「見えるから」こそ、旧世代のサポートをきちんとしないと安心してユーザーが購入できないように思う。