
■事実
Bank of America(BofA)のアナリスト、Vivek Arya氏らが最新レポートでIntelの格付けを引き上げ、ファウンドリ事業とサーバーCPU事業双方の成長性を強く評価です。
BofAの試算では、Intelファウンドリの外部顧客向け収益は2026年の約11億ドルから、2030年には約400億〜470億ドル規模へ拡大する可能性があります。
この伸び幅は現在の水準の約40倍に相当し、快科技の報道でもこの倍率が強調されています。
BofAは先端ロジックのウェハファウンドリ市場全体を約3800億ドル規模、うちIntelが8〜10%程度のシェアを獲得できると想定しています。
先端パッケージング(2.5D/3D)市場については約200億ドル規模のうち25〜30%のシェア獲得を見込みます。
潜在的な顧客・案件として、Appleの一部M系チップ製造、MediaTekのTPU製造・パッケージング、Terafab(Elon Musk関連プロジェクト)のARMベースサーバーCPU、Google TPU向けの大型受注(2028年向け300万個超)などが挙げられています。
MicrosoftはIntel 18Aプロセスでの独自チップ設計を既に表明済みです。
ただし上記の具体的な契約はBofAの基本シナリオには織り込まれておらず、実現すれば追加のアップサイドという位置づけです。
Intelファウンドリの外部顧客向け収益は2026年第1四半期時点でわずか約1.74億ドルにとどまり、ファウンドリ部門全体では四半期あたり約24億ドルの営業赤字を計上しています。
Intel 18Aプロセスの歩留まりは65〜75%程度とされ、TSMCの成熟プロセス(80%超)との差は依然として大きくなっています。
一方でIntelの2026年第2四半期売上は前年比25%増の161億ドルとなり、2011年以来最高水準を記録です。
サーバーCPUの平均販売価格(ASP)は前年比43%増の約1,200ドルまで上昇しています。
BofAはこうした状況を踏まえ、Intelの2030年時点でのEPS(1株あたり利益)予想を従来の3〜4ドルから6ドル超へ大幅に引き上げました。
対するTSMCは2026年第1四半期時点で世界のファウンドリ市場の72%前後のシェアを握り、Intelのシェアは約6%にとどまるとの推計もあります。
TSMCは2nmプロセスの受注をNVIDIA・AMD・Apple・Qualcomm・MediaTekなど主要顧客から獲得しており、2027年分までほぼ埋まっているとされています。
比較表(ファウンドリ市場シェア・収益規模の対比)
| 項目 | TSMC | Intel Foundry |
|---|---|---|
| 2026年時点の市場シェア(先端ロジック) | 約70〜72% | 約6%前後 |
| 2026年の外部顧客向け収益(四半期) | 約359億ドル(全体) | 約1.74億ドル(外部顧客のみ、Q1) |
| 主要プロセス歩留まり | 3nmで80%超 | 18Aで65〜75% |
| 2030年収益予測(BofA試算) | ― | 約400億〜470億ドル(外部顧客向け) |
| 直近の営業損益 | 高い黒字水準を維持 | 四半期あたり約24億ドルの赤字 |
(注:上表はBofAレポート・TrendForce等の複数ソースを統合した整理であり、正式な企業発表数値ではない)
解説
「40倍」という数字だけを見ると景気の良い話に聞こえるが、母数がわずか11億ドルという小さな金額であることを忘れてはいけない。
現状のIntelファウンドリは外部顧客向け収益が四半期1.74億ドル、営業赤字は四半期24億ドルという厳しい水準であり、"元がほぼゼロ"だからこその倍率の大きさとも言える。
TSMCとの差は歩留まり数値だけを見ても明らか(18A:65〜75% vs TSMC 3nm:80%超)で、量産の安定性という点ではまだ追いついていない。
BofAが挙げるApple・MediaTek・Terafab等の案件は、いずれも「まだ確定していない」「基本シナリオに未反映」というただし書き付きであり、この試算自体がかなり強気なシナリオに基づいている。
こうした強気予想の背景には、Intelの直近四半期決算が市場予想を上回り、サーバーCPUのASP上昇など明るい材料が重なったタイミングという事情もある。
Google TPU受注やMicrosoftの18A設計表明など、実際に動いている契約も存在する点は、単なる願望的観測とは一線を画す材料。
TSMCの一強状態(シェア7割超)は、単に技術力だけでなく「乗り換えコストの高さ」にも支えられている。設計を他ファウンドリに移すには数ヶ月単位の再設計と歩留まりリスクが伴うため、顧客の慣性は強い。
米国政府がIntel株の一部を保有する形になっている現状も踏まえると、Intelファウンドリの成長シナリオには単なる企業戦略以上に、国家の半導体安全保障という政治的な後押しが働いていることは無視できない。
"TSMCのシェアを切り崩す"という見出しは威勢がいいが、現実には「TSMCの取り分がわずかに減る」レベルの話であり、覇権交代というよりは風穴を開ける程度の話だ。
半導体業界の予測は計画変更が頻繁に起きるジャンルであり、2030年という4年先の数字はあくまで参考値として捉えるべき。
Intelにとって本当の勝負は、リポートの数字が並ぶことではなく、2027年以降に18A・14Aで実際に安定した歩留まりを叩き出せるかどうかにかかっている。