
■事実
台湾の市場調査会社TrendForce(集邦咨詢)が2026年8月10日、中国国内の高性能AI半導体市場に関する最新の調査結果を発表しました。
米国による対中輸出規制と、中国国内チップの生産能力拡大を背景に、AMDとNVIDIAの中国における高性能AI半導体市場シェアが2026年に10%まで低下すると予測しています。
一方、国産チップのシェアは同年に90%へ達する見通しです。
国産チップ90%の内訳には、百度・アリババ・テンセントが自社設計するカスタムASIC、および華為(ファーウェイ)・寒武紀(Cambricon)が手がける汎用AI半導体が含まれます。
TrendForceの従来レポート(2026年7月時点)では、2026年の中国国産AI半導体出荷量は500万個に達する見通しとされていました。
SMIC(中芯国際)と上海華虹の製造ラインで作られる半導体の出荷量は、今後数年にわたり年平均成長率(CAGR)約50%で拡大する見通しです。
TrendForceは、2026年の中国高性能AI半導体出荷量が前年比83%増になると予測しています。
NVIDIAとAMDのGPUは中国顧客への販売を完全に禁止されているわけではないが、米政府は条件付き承認プロセスの対象としています。
この構図は2025年6月30日時点の統計とも一致するとされる:2025年の中国AI半導体出荷量400万個のうち、国産比率は2024年の30%から41%へ上昇、NVIDIAのシェアは95%から55%へ半減、国産勢では華為Ascend(昇腾)が20%でトップでした。
TrendForceは同時に、NVIDIAが対中制裁対応としてGDDR7メモリを採用したRTX Pro 5000の中国向け特別仕様を準備していると明らかにしました(従来からRTX 6000Dの中国向け販売も報じられている)
市場シェア予測比較
| 調査会社 | 対象範囲 | 直近実績 | 2026年予測 |
|---|---|---|---|
| TrendForce(8/10発表) | NVIDIA+AMD/高性能AI半導体 | ― | 10% |
| TrendForce(6月発表) | NVIDIA+AMD/AIサーバー全体 | 34%(2025年) | 21% |
| TrendForce(同上) | 国産勢(華為・寒武紀主導) | 46%(2025年) | 56% |
| Bernstein | NVIDIA単体 | 約40%(2025年) | 約8% |
ソース:
- 快科技: https://finance.sina.com.cn/tech/roll/2026-08-10/doc-inimvsvi8110947.shtml
解説

そもそもこの手の「シェア○%」予測は、調査会社ごとに対象範囲の定義が異なる(AIサーバー全体か、高性能AI半導体に絞るか等)ため、数字だけを額面通り受け取るのは危険だ。
特に「国産90%」の中身は、Ascendのような汎用GPU型AIチップだけでなく、百度・アリババ・テンセント各社が自社ワークロード向けに設計する専用ASICも含まれている点に注意だ。
専用ASICは自社の推論・学習パイプラインに最適化されているぶん、NVIDIAのGPUのような汎用的な柔軟性は持たない。
つまり「シェア90%」=「NVIDIAと同等の汎用計算力を持つチップが9割を占めた」という意味では全くない。
実際、華為の主力チップAscend 950PRはFP4演算で1.56PFLOPS、メモリ帯域1.4TB/sとされ、NVIDIAのH20は上回るもののH200やB200には届いていないとする分析が複数ある。
米シンクタンクCFR(外交問題評議会)は、華為の次世代Ascend 950PR/950DTが現行の910Cよりも低い性能指標になる可能性を指摘し、910Cの相当数が実はTSMC台湾工場で(輸出規制に反する形で)製造されていた可能性まで示唆している。
これが事実だとすれば、SMICなど中国国内ファウンドリの実力は公称値ほど高くないという話になる。
Bernsteinの予測(NVIDIA単体で40%→8%)は、TrendForceの数字(NVIDIA+AMDで10%)とおおむね方向性が一致しており、複数の調査会社が同じトレンドを裏付けている形だ。
米国は2026年1月、NVIDIA H200・AMD MI325Xについて対中輸出をケースバイケースで審査する新ルールを施行済み。対中出荷量は対米販売数の50%を上限とし、第三者機関による性能検証や顧客側のセキュリティ手続き証明などが条件になっている。
中国側も同月末、字节跳动(ByteDance)・アリババ・テンセント・DeepSeekに対しH200購入を条件付きで承認したが、当初は実際の発注がほとんど進まなかったと報じられている。
NVIDIAのフアンCEOは3月、中国顧客からの発注を受けてH200の生産を再開したと明らかにしており、規制の網の中でも一定の商流は生まれている。
象徴的なのはDeepSeekの動き。次期フラッグシップモデルV4を華為Ascend 950PR上で動かす計画とされており、これはハードウェアの置き換えであると同時にCUDAからの脱却も意味する。
このブログで繰り返し書いてきた通り、NVIDIAの本当の強さはハードウェア単体の性能ではなく、CUDAという開発者エコシステムに支えられた構造的な優位性にある。
中国が国産GPUと専用ASICを組み合わせているのは、ある意味でCUDA依存から抜け出すための壮大な実験場として機能している面がある。
とはいえ、華為のCANNのような対抗エコシステムが本当にCUDA並みの開発体験を提供できるかはまったく別の話で、ここで詰まる可能性は依然高い。
「シェア9割」だけ聞くと中国AI半導体の完全独立達成に見えるが、実態は「今使える手駒を全部かき集めた結果の9割」というのが正直なところ。
快科技・新浪科技などの中国メディアはこの手の国産化トレンドを前向きに報じる傾向が強く、数字の解釈にはやや割り引いて見る必要がある。
NVIDIA側もGDDR7版RTX Pro 5000のような制裁対応特別仕様を準備するなど、シェアを完全には手放さない構えを見せている。
NVIDIAにとって本当に怖いのはシェアの数字そのものより、CUDAという生態系の外側で中国のAI産業が独自に育ち始めていること。この芽がどこまで本物かは、今後数年の技術的な検証を待つ必要がある。