
■事実
AMDがROCm 7.14で、次期「Ryzen AI MAX PRO 400(開発コード:Gorgon Halo)」シリーズへの正式対応を発売前倒しで追加しました。
Ryzen AI MAX PRO 400シリーズは2026年第3四半期にHP・Lenovo・ASUSなどOEMパートナー経由で発売予定です。
ラインナップは3モデル:Ryzen AI Max+ PRO 495(16コア32スレッド)、Ryzen AI Max PRO 490(12コア24スレッド)、Ryzen AI Max PRO 485(8コア16スレッド)です。
最上位のMax+ PRO 495はZen 5コア、ブースト最大5.2GHz、L3含むキャッシュ80MB、RDNA 3.5ベースの新型Radeon 8065S(40基のCU、3.0GHz、従来比+100MHz)を搭載しています。
PRO 490・PRO 485は従来型のRadeon 8050S(32 CU)を継続採用し、iGPUクロックは495ほど上がっていません。
NPU(XDNA 2)の性能はMax+ PRO 495が最大55TOPS、PRO 490/PRO 485は最大50TOPSといずれもCopilot+ PC基準を満たしています。
最大の変更点はメモリ:前世代Ryzen AI Max 300(Strix Halo)の上限128GB・LPDDR5X-8000から、192GB・LPDDR5X-8533へ引き上げ(約50%増)しています。
CPU・GPUが同一メモリプールを共有するアーキテクチャのため、システム側の設定次第で最大160GBをVRAM相当として割り当て可能です。
AMDは、この構成により300B(3000億)パラメータ級の大規模言語モデルをx86クライアント機単体でローカル実行できるとアピールしていまする
ROCm 7.14では新ビルドシステム「TheRock」が本番投入され、ROCm Systems Profiler・ROCm Compute ProfilerがRyzen AI MAX PRO 400プラットフォームに対応、Strix HaloやStrix Pointとの互換レイヤーも追加しています。
System Management Interface(SMI)も強化され、GPU使用率・メモリ使用量・温度・消費電力などをコマンドラインから直接モニタリング可能になりました。
競合として、NVIDIAのDGX Sparkや、Apple Mac Studio/Mac miniのような統合メモリ型AI PCが挙げられています。
AMD自身の公表データでは、Linux環境でGLM 4.7 Flash 30Bモデル使用時にDGX Sparkより最大14%高いトークン/秒、Qwen 3.6 35Bモデルで最大4%高いスコアを記録したとされています。
TheRockのリリース形態が、GPUアーキテクチャごとの個別ビルド(per-family方式)から、複数アーキテクチャを1つの成果物にまとめる「マルチアーチ」方式へ移行。旧per-family版は引き続き入手可能だが、新規のper-family版はもう生成されません。
MIGraphXとONNX Runtimeがマルチアーキテクチャ成果物(署名付きRPM・MIGraphX用Debianパッケージ・Pythonホイール)として提供されるようになり、これはRed Hat Inference Server 3.5対応を後押しする目的で導入されました。
表(SKU比較)
| モデル | CPUコア/スレッド | ブーストクロック | キャッシュ | GPU(CU数) | NPU性能 | 最大メモリ |
|---|---|---|---|---|---|---|
| Ryzen AI Max+ PRO 495 | 16C/32T | 5.2GHz | 80MB | Radeon 8065S(40CU、3.0GHz) | 最大55TOPS | 192GB |
| Ryzen AI Max PRO 490 | 12C/24T | 5.0GHz | ー | Radeon 8050S(32CU) | 最大50TOPS | 192GB |
| Ryzen AI Max PRO 485 | 8C/16T | 5.0GHz | ー | Radeon 8050S(32CU) | 最大50TOPS | 192GB |
解説
今回のRyzen AI MAX PRO 400、実はシリコン自体は前世代Strix Haloのマイナーリフレッシュで、目玉は「メモリを192GBまで積めるようになった」の一点に尽きる。
ただこの「一点」がローカルAI用途では効いてくる。300億超えのパラメータ数を持つモデルをGPUサーバーなしで動かせるという触れ込みは、なかなかインパクトがある。
とはいえ発表のタイミングは正直言って間が悪い。世界的なDRAM不足・価格高騰の真っ只中に「メモリを増量しました」と言われても、コスト面での恩恵をそのまま享受できるかは怪しい。
ROCm側の対応を発売前に済ませておくというAMDの動きは評価できる。「ハードが出てからソフトが追いつく」というAMDにありがちなパターンを今回は避けようとしている。
とはいえ、CUDAとROCmのエコシステム格差は依然として大きい。ライブラリの充実度、フレームワーク対応の速さ、コミュニティの厚みという点で、CUDAの約20年分のリードはそう簡単には埋まらない。
特にPTXレベルで最適化された特定のツール・実装(例えばNunchakuのような量子化・高速化系ライブラリ)は、実質的にNVIDIA環境に縛られている場合が多く、HIP変換だけでは移植しきれないケースがある。
DGX Sparkとの比較でトークン/秒が上回ったという発表も、あくまでAMD自身が選んだベンチマークでの数字である点は割り引いて見る必要がある。
そもそも「エージェント型AIの計算需要が伸びるほど、恩恵を受けるのはARMやNVIDIAのアーキテクチャであり、x86はグリーンフィールドの新規AI基盤では構造的に不利」という見方もある。x86のAPUであるRyzen AI MAXが、この流れにどこまで食い込めるかは未知数。
「300Bパラメータのモデルがノートで動く」と聞くと未来的だが、実際には推論速度や量子化次第でかなり地味な体験になりがちで、デモの華やかさと実用性の間には結構な距離がある。
ハードは着実に進化しているが、AMDが本当に問われているのは「開発者がわざわざCUDAからROCmに乗り換えたくなるか」という一点。今回の前倒し対応は正しい方向だが、まだ入り口に立ったばかりという印象だ。
「マルチアーチ化」は地味な変更に見えるが、TheRockが掲げる「モジュール化・簡素化」を配布形態のレベルで実現するための必然的なステップ。派手な新機能より、こういう地味な足回りの改善の方が実は開発体験への影響が大きかったりする。