
■事実
NVIDIAのCEO発言
NVIDIA CEO・ジェンスン・ファンが「GPUの消費量は急増しており、4〜5年前に販売したGPUでさえ、良いワインよりも速く価格が上昇している」と発言しています。
同氏は「NVIDIAのGPUを買うことは、アートに投資するようなものだ」とも表現。"値上がりする資産"としてGPUを位置づけました。
対象となっているGPUは、主にHopper世代(H100・H200・L40S)および前世代のAmpere(A100)。H100は2022年発売で、発言時点で約4年前の製品にあたる。
CoreWeaveの証言
クラウドGPUプロバイダーであるCoreWeaveのCEOも、旧世代GPUへの需要加速と前四半期比での価格上昇を確認しています。
CoreWeaveは保有するGPUフリート(43データセンター・25万基以上のGPU)全体においてほぼ完売状態が続いていると説明しています。
同社の2025年度売上高は51.3億ドルで前年比168%増です。
価格上昇の実態
H100のレンタル価格(1年契約)は2025年10月の底値から2026年3月にかけて約40%上昇しています。(時間あたり約$1.70→約$2.35)
H200のオンデマンド料金も2025年5月比で約25%上昇しています。($3.11→$3.89/時間)
H100中古品の市場価格はピーク時の$40,000前後から$12,000〜$18,000に下落したものの、需要は底堅く推移しています。
需給ひっ迫の構造
GPU単体だけでなく、ウェハ・CPU・DRAM・AI Cloudのコンピューティング容量も全領域で不足が深刻化しています。
データセンター向け半導体市場は2025年Q2に前年比44%成長、2026年もさらに33%成長見込みです。(SemiAnalysis)
TSMC CoWoS(HBMを実装するための先端2.5Dパッケージング)の空き枠は2027年半ばまで完全に埋まっている状況です。
SK HynixがテープアウトしたマイクロンのHBMキャパシティは2026年末まで完売済みと報告しています。
HBM向け生産が優先されたことでDRAM全体の供給が圧迫され、半導体メモリ価格は200〜400%の上昇。ゲーミングGPU生産枠も40%削減しています。
「Fine Wine」という言葉の由来
「Fine Wine」はもともとAMD GCN/Vega世代からGPUコミュニティが使い始めた言葉で、「ドライバ最適化によって発売後も性能が向上し続ける」現象を指していました。
Polaris・Vega世代では、ドライバ更新で最大30%の性能向上が記録された事例もあります。
AMD RX 9000シリーズ(RDNA 4)でも2025年のドライバ更新でCounter-Strike 2が23%、Marvel's Spider-Man Remastered(PCリマスター版)が27%向上したケースが確認されています。
NVIDIAのCEOが今回使った意味は全く逆:「性能ではなく価格が時間とともに上昇する」という文脈です。
解説
「Fine Wine」という言葉の意味がひっくり返ったことが、この記事の核心。もともとはAMDファンが「AMDのGPUは使えば使うほど良くなる」という意味で使っていた言葉。それをNVIDIA CEOが「買えば買うほど価値が上がる」という意味で流用してきた。同じ言葉で全く別の現象を指している。
旧世代製品の値上がりという現象は通常の市場では起こりえない。通常、発売から数年経てば価格は下がり続けるのが電子機器の常識。それが逆転しているということは、需要が供給を構造的に上回っているという証拠だ。
原因は生成AIのトークン消費量が数年で約50倍に拡大したことにある。モデルの学習だけでなく推論(ユーザーが毎日使うAIツールの応答生成)でも大量のGPUを常時稼働させる必要が生まれた。
HBM(高帯域メモリ)とCoWoS(先端パッケージング)の2つがAI GPU増産の首を絞っている。どれだけロジックチップを焼いても、この2つが間に合わなければ製品にならない。設備投資から量産まで数年かかる重工業的な制約がここに効いている。
コンシューマー(ゲーマー)への波及として:HBM生産優先でDRAMが圧迫→DRAM価格上昇→ゲーミングGPU向けメモリが高騰・生産台数も削減。AIと縁のないゲーム用途にも「AIの煽り」が来ている構図だ。
「DRAM価格が落ち着くまで待とう」という判断が通用しなくなった理由がここにある。AI向け需要が続く限り、HBM優先配分→DRAM高騰のサイクルは止まらない。
「NVIDIAのGPUを買うことはアートへの投資のようなもの」という発言、GPU使いとしては笑えない。確かに手放せない&値が上がるという点では美術品に近くなってきた。倉庫に積んでおけば資産になる時代だ。
「待てば下がる」が通じたのは過去の話。少なくともAIスーパーサイクルが続く間は、NVIDIAのGPUはもはや減価しない耐久財になりつつある。
さすがにこれは過熱しすぎだと思うが、ブームが沈静化するまでおとなしく待つしかない状況だろう。