■事実
発端:Truth Socialの深夜投稿
トランプ大統領が2026年6月18日深夜、Truth Socialに「AppleはIntelと協力してチップを米国内で設計・製造することに合意した」と投稿しました。
「チップを設計するだけでなく、国内で製造することが重要」と強調し、他国に半導体工場を奪われてきたと過去政権を批判しました。
この投稿を受けてIntelの株価は時間外取引で約9%急騰、Appleは約0.6%上昇しました。
両社の反応
IntelはコメントをDeclareせず(無回答)。Apple広報も即時回答ありませんでした。
Semafor報道によると、Intel自社の幹部もこの発表を事前に知らなかったという関係者証言がありました。
合意はすでに数ヶ月にわたる交渉の末に成立しており、2026年5月にWSJが「予備合意」を報道、その時点でテスト生産も開始済みでした。
合意の中身(現時点で判明している範囲)
AppleがIntelのファウンドリ(受託製造)部門にチップ製造を発注する構図。Appleは2020年に自社シリコンへ移行済みで、設計は引き続きApple自身が行います。
対象は最新・最高性能ラインではなく旧世代または廉価モデル向けとみられています——iPhone 18 Pro Max・M5以降の最先端チップはTSMCが継続担当します。
Tweaktownなどの報道では、Apple M7 SoCをIntelの18A-Pプロセスで製造し、MacBook AirやiPad Proに供給(年間1,500〜2,000万個規模)という内容が伝えられています。
Wedbush証券アナリストのダン・アイブス氏は「1年以上の交渉を経た複数年にわたる実質的な合意」と評価しています。
Intel 18A-Pプロセスの状況
Intelは2026年6月16日のVLSIシンポジウム(ハワイ)で、最新プロセス「18A-P」が**リスク生産(risk production)**フェーズに入ったと発表されています。
18A-Pはベース18Aと比べ、同一消費電力で9%の性能向上または同一性能で18%の消費電力削減を実現。耐熱性も20%以上改善しています。
ベース18Aはすでにアリゾナ州ファブで量産中。18A-Pはその強化版で、外部顧客の初採用ノードとなる可能性が高くなっていまする
CEO リップ・ブー・タン氏は「2026年後半に複数のファウンドリ顧客契約が成立する見込み」と投資家向けに発言済み。IntelのYTDの株価上昇は本件発表前の時点で既に200%超となりました。
政府関与の背景
米政府はCHIPS法の枠組みでIntel株を取得。トランプ氏は「政府がIntelを支援した結果、評価額が1,000億ドルから6,000億ドルに上昇し、政府の持ち分も600億ドル超になった」と述べました。
トランプ氏はNvidiaとイーロン・マスクのTeraFabプロジェクトもIntelのファウンドリ顧客として言及しています。
G7サミットでも台湾への半導体依存の低減が主要議題となっており、本件はその文脈上にあります。
AppleとTSMCの現状
AppleはA19 Pro・M4・M5などの最先端チップをすべてTSMCに依存。台南のFab 18はほぼ「Appleの専用ライン」と表現されるほどです。
2026年、中東情勢(ホルムズ海峡封鎖)で台湾のエネルギー安全保障が逼迫。台湾は電力の37%を中東産LNGに依存しており、有事には11日分の備蓄しかないとされています。
TSMCのアリゾナ工場拡張(総投資1,650億ドル)は進行中だが、台湾依存の実質的な低減は2028年以降になる見通しです。
Appleは「米国製造拠点への1,000億ドル投資」を既に発表済みで、今回のIntel製造合意はその一部と位置づけられています。
解説
「合意した」と断言したのはトランプ氏だけ——Intelは沈黙、Appleも未回答、Intel幹部自身が寝耳に水だったという報道まである。True Socialの投稿は契約書ではない、という事実は重要だ。
Appleにとっての意味はリスクヘッジ——最先端チップをIntelに任せるわけではなく、旧世代・廉価モデルにもう1つの製造先を確保する話。供給分散であってTSMC離れではない。
Intelにとっての意味は「信任票」——Appleが顧客になるだけで、他の潜在顧客(Google・Microsoft等)に対して「18A-Pは使えるプロセスだ」というシグナルを発することができる。売上規模より外部承認の効果が大きい。
ARM製造の経験がない問題——IntelはAMDやPC向けx86チップは何十年も作ってきたが、AppleシリコンはARMベース。これが最大の技術的ハードルとして業界アナリストが繰り返し指摘している。
歩留まりが本当の関門——アナリストは「量産時に90%以上の歩留まりを安定して出せるか」がIntelが主要顧客を獲得できるかどうかの現実的な判断軸だと指摘する。リスク生産フェーズはまだそのスタートライン
台湾リスクが背景にある——中東情勢の悪化でTSMCへのLNG供給が不安定化した2026年の状況は、Appleが調達先分散を急ぐ直接的な理由の一つ。「政治的なポーズ」ではなくサプライチェーンの実質的な問題として動いている。
歴史的な文脈——AppleはかつてAシリーズチップをSamsungに製造させていた時代がある。「TSMC一択」になったのはここ10年弱の話であり、複数ファウンドリ戦略は珍しいことではない。
「AppleがIntelとチップを作る」——2020年にAppleがIntelのCPUを捨てたことを覚えている人には不思議な感慨がある。捨てた相手の工場を借りにいく展開は、半導体業界の関係の複雑さをよく表している。
株価9%の急騰は「トランプが言ったから」と「Intelが久々にまともそうだから」の両方が混ざった結果で、どちらの成分が多いかは数ヶ月後にわかる。
世界よ、これがアメリカの国策企業だ・・・当事者が知らないのに大統領が重要情報をリリースする。まさに国策企業にふさわしい姿だ。
私は皮肉で言っていたのだが、現実が皮肉を追い越してしまっている。ある意味シュールで劇的な話だ。
かつてApple製品に向けにIntelのチップをIntelの工場で作っていたが、今度はApple製品に向けにAppleのチップをIntelの工場で作る・・・なんとも言えない微妙な気分になる話だ。
