■事実
データソースについて
ドイツのテックメディア3DCenter(3dcenter.org)が月次公開している「メモリ危機価格指数」が情報源です。
Geizhals(ドイツ最大の価格比較サイト)の小売最安値データを追跡、eBayやAmazonマーケットプレイス(個人・転売業者)は除外しています。
デスクトップDDR5 UDIMMを中心に20製品をサンプリングし平均値を算出しています。
除外条件が厳格なため、正規小売店の実態を把握するうえで信頼性の高いインデックスとして広く参照されています。
2025年7月〜2026年6月の価格推移
- 2025年7月:ベースライン(指数100)。32GB 2×16GBキットの参考価格は約€95〜100程度
- 2025年10月:+15.8%(月次)で指数は約127に上昇
- 2025年11月:+49.5%(月次)と急騰、指数は約190へ
- 2025年12月:最大の月次上昇となる+93%を記録、指数は約370へ
- 2026年1月:+27.6%(月次)、指数は約440に達し当時の最高値。32GB 2×16GBキットが約€400(1月末に一部製品が若干値下がり)
- 2026年2月:上昇がほぼ停止(+0.1%)。「需要の消耗」によるものと3DCenter分析、供給改善ではない
- 2026年3月:-7.2%(月次)、2025年7月以降初の明確な値下がり。指数は約408に後退
- 2026年4月:反発して約410に回復。3月の下落が一時的調整だったことが判明
- 2026年5月:+4%の上昇で約414。32GBキットで最大+9%の品目も存在
- 2026年6月(最新):約419に上昇継続。2025年7月比で+419%、依然4倍超の水準
全規格への波及
DDR5のみならずDDR4・DDR3も巻き込む形で価格高騰が拡大しています。
2026年1月時点でDDR3/DDR4の平均価格も2025年7月比+219〜334%(約3〜3.3倍)です。
DDR4 32GBキットが2025年Q4の€65〜80から2026年Q1に€150〜180へ急騰した例があります。
ノートPC向けSO-DIMMも2026年2月単月で+23.4%の上昇を記録しています。
価格高騰の構造的原因:HBMとDRAM製造の競合
DRAM製造ファウンダリのキャパシティは固定されており、HBM生産に割り当てが集中することでコンシューマ向けDDR5の製造量が圧迫されます。
HBMは同容量のDDR5と比較してウェハ消費量が約3倍。AI投資ブームによるHBM需要急増がそのままコンシューマDRAMの供給圧縮に直結しています。
Samsung・SK hynix・MicronはいずれもHBMや高マージンのサーバーDRAMへの生産シフトを優先、民生向けDDR5の供給を意図的に絞っている状態です。
投資会社Aletheia Capitalは2027年にHBMの平均販売単価(ASP)が年次で倍増すると予測。AI向けハードウェアシステム全体に占めるメモリの価値比率は2025年の約45%から2027年に70%超になると試算されています。
TrendForceは2026年Q1のDRAMコントラクト価格が前四半期比+55〜60%になると予測(2025年末時点)。実際のQ1は想定通りの大幅上昇となりました。
新規DRAM製造ラインが立ち上がる最短時期は2027年後半〜2028年との見方が複数の分析機関から示されており、それまで供給逼迫が続く見込みです。
消費者・市場への影響
ドイツの価格動向はヨーロッパほぼ全域と米国市場に近い相関を持っています。(欧州域内は同一流通網)
FrameworkがノートPCを値上げ(2026年1月)するなど、PCメーカーへのコスト転嫁が始まっています。
MSIはCEO発言として2026年製品全体で+15〜30%の値上げを行うと認めました。
Samsung Galaxy S27でのパネルコスト削減(BOE採用検討)は、メモリコスト上昇を他部品費で相殺しようとする動きと同根です。
グラフタイトル:ドイツにおけるDDR5小売価格指数の推移(2025年7月=100、3DCenter調査)
解説
「419%高騰」という数字は分かりにくいが、要は「去年の夏に€100で買えたメモリが今は€419になっている」ということ。家電で言えば昨年1万円のものが今年4万円超になっているのに等しく、体感インパクトは絶大だ。
3月に一度下落したことで「底打ちか」という期待が広がったが、4〜6月で再上昇した。この値動きは供給不足の本質が解消されていないことをよく示している——価格が一時的に落ち着いたのは「誰も買えなくなったから」であり、供給が増えたからではない。
重要なのは「AIがメモリを使っているから高い」ではなく「AIがメモリのウェハを奪っているから高い」という因果関係。HBMはDDR5と製造設備を共有しており、同じウェハ1枚がHBMに化ければDDR5のキット3枚分が世界から消える。AI需要とコンシューマメモリ市場は同じパイを取り合っている。
メーカー各社(Samsung・SK hynix・Micron)が生産をHBMに振るのは当然の判断——HBMは単価が桁違いに高く、NVIDIAやGoogle等の大口顧客が複数年の長期契約で押さえている。コンシューマ向けDDR5をわざわざ増産するインセンティブがほとんどない。
「本格的な供給増は2027年後半以降」という予測が複数の調査機関から出ている。今から新しいDRAMファブを建設しても生産が始まるまで2〜3年かかるという製造業の現実がある。景気の問題ではなく物理的な制約だ。
Aletheia Capitalが「AI向けハードウェアでメモリが占める価値比率が2027年に70%超」と予測している点は意外感があるかもしれないが、NVIDIAのVera CPUラックが2,600万ドルに達するという試算と整合する。AIシステムの値段の中身は今後ますますメモリで決まるということ。
「DDR4に戻ればいい」という逃げ道も狭まっている。DDR4も2025年末以降で2〜3倍以上の値上がりが起きており、Intelが「DDR4対応のRaptor Lake Nextを2027年に出す」と動いている背景にはこのコスト問題が直接関係している。
去年の夏に「メモリ安いし今のうちに増設しておくか」と思っていた人と、「まあいつでも買えるか」と先延ばしにした人の間で、数万円単位の差が生まれている。後悔のための適切なタイミングは常にすでに過ぎ去った後だ。
回復の見通しが「2027年後半」という時点で、今年PCを組もうとしている人には事実上の選択肢がない。待っても高く、買っても高い——こういう時に限って新世代プラットフォームへの移行コストにもメモリが乗っかってくる。
筆者は去年の10月にDDR5の32GB*4をギリギリのタイミング(2025/10/30)で購入した。その時は¥26,083*2=¥52,166だったが、今は\169,000*2=\338,000だ。

筆者の買った値段

現在の価格
実際に見てみたい方は上のリンクから現在の価格を確認していただければわかるだろう。
筆者はこのような記事を書いているので当時、このタイミングが安く買えるギリギリ最後であると考えてギリギリのタイミングで購入した。
やはり適切な時期に決断できることはこの世界においては非常に重要だろう。ちなみにこの時期はもう値上がりが始まっており、在庫がなくなってから入荷してくるたびに5000-10000円程度の値上がりはあった。
よって、これでも適切なタイミングではなかったということだ(苦笑。
こう考えると、現在の状況はメモリ地獄といっても差し支えないだろう。

