■事実
AMDによる価格見通し
Computex 2026の取材インタビューにて、AMDのDavid McAfee副社長(Ryzen・Radeonビジネス担当GM)がDDR5メモリの価格正常化には「約2年かかる」と発言——つまり2028年まで高止まりが続くという見通しです。
McAfeeの発言は公式声明ではなく非公式の取材コメント(台湾メディア4Gamersのインタビュー)だが、VideoCardzやWCCFtech等の主要メディアが報じました。
AMDが独立したメモリメーカーではないにもかかわらず、プラットフォームベンダーとして市場環境を公式に認めた形になっています。
DDR5価格高騰の構造的背景
過去1〜2年でDDR4の生産ラインが急縮小し、メモリメーカー各社はDDR5生産に投資を集中させてきました。
しかしDDR5はコンシューマー向けPCよりもAIデータセンターの需要に引っ張られており、生産が増えても消費者向けの供給増には直結していません。
HBM(High Bandwidth Memory)の製造はDDR5比で同量あたり約3倍のウェハー容量を消費する——つまりAI向けHBMを1GB作ると、PC向けDDR5を3GB分作る設備が使われる計算です。
2026年時点でAIがグローバルDRAMウェハー生産能力の約20%を消費するとの試算です。(Commercial Times / TrendForce)
Samsung・SK Hynix・MicronはいずれもHBM生産を優先——HBMのウェハー1枚あたり収益はDDR5の3〜5倍とされ、経済合理性がAIシフトを加速させています。
Micronは2026年初頭にコンシューマー向けブランド「Crucial」を事実上終了させ、そのウェハーをAI向け戦略顧客に振り向けると発表しています。
2025年Q4〜2026年Q1の間にDDR5価格は前四半期比最大80〜90%上昇との報告です。(Counterpoint Research)
コンシューマー向けDDR5の供給改善には新たなクリーンルーム建設が必要だが、その建設リードタイムは現在数年単位に達しています。
AMD AM5プラットフォームへの影響
Computex 2026にてAMDはAM5ソケットのサポートを従来の「2027年以降」から2029年までに公式延長しました。
少なくともZen 6(コードネーム「Olympic Ridge」、TSMC 2nmプロセス予定)とZen 7の2世代がAM5に対応する見込みです。
当初2022年のAM5発売時にはDDR6への移行を2027〜2028年頃と社内で見込んでいたが、DDR5高騰・DDR6未成熟の両方の要因でAM6への移行が後ろ倒しとなりました。
McAfeeはAM6への移行条件として「DDR6とPCIe 6.0が消費者にとって明確なメリットをもたらす段階」と述べており、技術的成熟より費用対効果を重視する姿勢を示しました。
Zen 6デスクトップ版(Olympic Ridge)は2026年内には登場しない見通しで、早くて2027年前半です。
AMDはComputex 2026でAM4の10周年記念としてRyzen 7 5800X3D限定版(349ドル)を再発売——DDR4環境のユーザーが高騰したDDR5環境に移行せずに済む選択肢を意図的に用意しています。
EXPO Ultra Low Latency(EXPO ULL)
AMDはComputex 2026でDDR5向けの新メモリプロファイル「EXPO Ultra Low Latency(EXPO ULL)」を発表しました。
標準EXPO比で平均約4%、JEDEC比で平均約13%のゲーミング性能向上を謳っています。
既存AM5マザーボード対応予定だが、ULL対応の新しいDIMMモジュールへの買い替えが必要です。(既存DDR5メモリを刺すだけでは有効化されない)
価格は現行EXPOキットと同等になるとMcAfeeはTom's Hardwareに説明しています。
解説
構造的な問題として読む
今回のDDR5高騰は「半導体サイクルの一時的な谷」ではなく、「AIインフラ需要という永続的な構造変化」に起因している点が過去の価格高騰サイクルと決定的に異なる。
端的に言えば、メモリメーカーがコンシューマー向けDDR5を売るより、NVIDIAやGoogleにHBMを売る方がはるかに儲かるという経済合理性が存在する限り、供給は戻りにくい。
HBMの1GB生産にDDR5の3倍のウェハーが要るという事実は、「AI需要が増えるほど、PCのRAMが割を食う」という構造をわかりやすく示している。
AMDがDDR5プラットフォームへの移行を促しながら、その価格が「2028年まで正常化しない」と自分の口で言うのは、消費者側からすれば板挟みの状況だ。
AM5延長の真相
「AM5を2029年まで延長」は消費者にとって良いニュースだが、その背景にはDDR6移行タイミングがずれた(=DDR5が高すぎてAM6への移行コストがさらに増大する)という事情もある。
DDR5が高いまま新プラットフォームAM6に移行させれば、CPU・マザーボード・メモリを一度に全交換させることになる——それを避けるためのAM5延長という側面も否定できないる
Intel LGA1851が実質1世代で終わりそうな状況と比較すると、AMDのソケット長寿命化戦略はユーザー側の利益と一致している点で素直に評価できる。
2022年に「DDR5はこれからの時代のメモリだ」と買い揃えた人々が、4年後にメモリメーカーがAIに転向したせいで資産価値が上がるという、誰も予想しなかった結末だ。
「待てば安くなる」はPCパーツ購入の基本原則だったが、AIバブルが続く限り、DDR5に関してはその法則が2028年まで通用しないかもしれない。
メモリ不足と中国製メモリの動向
CXMTは2025年Q2時点でグローバルDRAM売上シェア約4%、2025年Q4時点で約7.7%まで急伸しており、メモリ不足の救世主になるのではないかと期待している人もいるだろう。
生産能力ベースのシェアはすでに10%台に入っているとの分析もある。2026年Q1には約49億ドルの純利益を計上し、中国半導体企業で過去最高益という急成長ぶりだ。
しかし、残念ながら、現時点ではCXMTがメモリ高騰の救世主にはなりえないというのが実情だ。
ただし残り約91%超はSamsung・SK Hynix・Micronの3社が握っており、構造上の非対称性はまだ圧倒的だ。
CXMTがメモリ高騰の救世主になるのが難しい3つの要素
EUVが使えない問題が根本的な天井になっている
CXMTはEUV露光装置(ASMLが独占製造)を輸出規制により調達できない。
現在は旧世代のDUV多重露光でDDR5を製造していますが、これは歩留まり・コスト・スケーラビリティの面でEUVに劣る。
EUV不使用のまま次ノードへの微細化に追従するには限界があり、2025年Q4時点でCXMTの能力増強がほぼ頭打ちになっているとの分析が出ている。
CXMTもHBMを狙っている
皮肉なことに、CXMTも利益率の高いHBM市場参入を目指してサンプリングを始めている。
仮にCXMTがHBM量産に成功すれば、コンシューマー向けDDR5の生産能力はCXMT内でも分散することになる。「中国メモリが増産→コンシューマーDDR5が潤う」という単純な流れにならない可能性がある。
需要の絶対量が不足している
CXMTを含むすべての新規生産能力を足しても、AI向けHBM需要の伸びがそれを上回るペースで進んでいる。
2026年にAIがグローバルDRAMウェハー容量の20%を消費し、かつ毎年拡大しているという構造が変わらない限り、供給側の増強は追いつきにくい状況だ。
CXMTの台頭は確かにあるが、AIがメモリを食う速度の方が速いというのが実情だろう。
