
MicronはGDDR7メモリの新仕様として、24Gb(3GB)ダイ密度と36Gbpsのデータ転送速度を実現した次世代モジュールを公式ブログで発表した。
Micronの公式発表(https://www.micron.com/about/blog/memory/dram/the-new-performance-bottleneck-how-more-gpu-memory-unlocks-next-gen-gaming-and-ai-pcs)によれば、この新モジュールはゲーミングとAIワークロードの両方を念頭に置いて設計されており、現世代GDDR7の性能を大幅に上回る。
36Gbpsという転送速度は、現在市場で最速とされるRTX 5080の30Gbpsと比較して約20%の向上にあたる。
また24Gbというダイ密度は現行の16Gb比で50%増であり、同じバス幅でも搭載可能なVRAM容量が一気に1.5倍になる計算だ。
たとえば512ビットバスでこの規格を採用した場合、メモリ帯域幅は2,304GB/s(2.3TB/s)に達する。
現在デスクトップ向け最大GDDR7構成を誇るRTX PRO 6000 Blackwellは96GBのVRAMを28Gbpsで動作させており、帯域幅は1.8TB/sとされているが、36Gbps化されれば同じ容量のまま2.3TB/sまで引き上げられることになる。
| メモリ規格 | GDDR7 | GDDR6X | GDDR6 | GDDR5X |
|---|---|---|---|---|
| 代表製品 | RTX 5090 | RTX 4090 | RTX 2080 Ti | GTX 1080 Ti |
| ダイ容量 | 16〜64Gb | 8〜32Gb | 8〜32Gb | 8〜16Gb |
| 転送速度(Gbps/pin) | 28〜48 | 19〜24 | 14〜16 | 11.4 |
| 帯域幅(GB/s/モジュール) | 112〜192 | 76〜96 | 56〜64 | 45 |
| 代表的システム帯域幅(GB/s) | 1536〜2304 | 912〜1152 | 672〜768 | 547 |
| 代表的フレームバッファ | 24GB(16Gb)/ 36GB(24Gb) | 24GB | 12GB | 12GB |
バス幅別の36Gbps時メモリ構成と帯域幅
128ビット構成では576GB/s・12GB(4モジュール)、256ビット構成では1,152GB/s・24GB(8モジュール)、512ビット構成では2,304GB/s・48GB(16モジュール)となる。
ゲーミングへの恩恵
Micronはゲーミング用途における具体的な改善点を以下のように挙げている。
テクスチャのポップイン(突然表示される現象)やアセットの頻繁な入れ替えが減少し、高解像度ディスプレイ向けの大容量フレームバッファに対応、さらには広大なオープンワールドでのロードが少なくなるとされる。
現代のゲームはGPUにかつてないほどの負荷をかけている。
リアルタイムレイトレーシングはジオメトリ・マテリアル・ライティングマップ・シャドウなど膨大なデータセットへの継続的なアクセスを必要とし、高リフレッシュレートや超高解像度テクスチャはフレームごとに処理すべきデータ量をさらに倍増させる。
GPUメモリがこれらすべてを一度に保持できない場合、テクスチャのポップインや中間フレームのスタッター、レイトレーシング集中シーンでの急激なフレームレート低下が起こる。
DLSS(Deep Learning Super Sampling)などのAIフレーム生成・アップスケーリングも、メモリが逼迫した状態ではモデルや中間バッファが競合するため動作が不安定になる。
AI用途については、オンデバイス推論の高速化、CPU・GPU・NPUが連携するハイブリッドワークフローの低レイテンシ化、ニューラルグラフィックスや生成AIモデルのスループット向上、そして省電力化などが挙げられている。
競合他社の動向
Micronに先行する形で、Samsungはすでに2025年11月から24Gbモジュールの量産を開始しており、36Gbpsチップをパートナー各社にサンプル提供済みだ。
さらにSamsungは32GbダイによるGDDR7、最大42.5Gbpsの転送速度実現についても示唆している。
Micronも将来的には36Gbpsを超えるさらなる高速化を検討していると明らかにしており、GDDR7の性能限界はまだ先にある。
供給不足という現実の壁
一方で、技術的な進化とは裏腹に、足元では深刻な供給不足が業界全体を悩ませている。
RTX 5000シリーズの目玉として期待されていたRTX 50 SUPERラインナップは、この24Gbモジュールを活用してVRAM容量を増強するとみられていたが、現在も発売の見通しが立っていない状態だ。
報道によれば、NVIDIAは2026年前半にRTX 5000シリーズの生産量を前年同期比で30〜40%削減する方向で調整を進めているとされており、特にRTX 5070 TiとRTX 5060 Ti 16GBへの影響が先行すると伝えられている。
このRTX 5060シリーズに関しては「2026年Q4まで供給悪化が続く」という情報もある。
根本的な原因はAI向けデータセンター需要の急拡大で、メモリメーカーがより利益率の高いHBMやサーバー向けDRAMの生産に能力を割いているためだ。
GDDR7の3GBモジュール自体はすでにRTX 5090ラップトップやRTX PRO 6000 Blackwellで実用されているが、「健全な供給量と適正価格での入手」が困難な状況が続いている。
こうした状況を踏まえると、Micronの新モジュールが実際に消費者向けGPUに採用されるのは、2026年末から2027年上半期になるとみられている。
解説
正直なところ、今回のMicronの発表を読んで最初に思ったのは「これはゲーマーに向けた話なのか?」という疑問でした。
36Gbpsや24Gbというスペックは確かに魅力的ですが、それが実際にゲーマーの手元に届くまでの道のりを考えると、素直に喜べない状況になっています。
現在のゲーミングGPU市場を一言で表すなら「逆行」です。
2021年発売のRTX 3060が2026年に再生産されるという話が出てきています。
Steamのハードウェア調査では2025年12月時点でもRTX 3060が利用率トップに居座っており、それはユーザーが好んで使い続けているというより、「買い替える理由がない、あるいは買い替えられない」状況を反映していると見るべきでしょう。
RTX 5000シリーズは供給が細く価格は高騰し、RTX 50 SUPERはキャンセルの様相を呈しています。
さらにRTX 6000については当初2027年と言われていたのが、今や2028年にずれ込む可能性が出てきています。
そうなると、RTX 5000シリーズは実質3年間、最新世代のまま市場に居続けることになります。
かつての2年サイクルからすれば、まるまる1世代分の遅れです。
皮肉なのは、こうした状況のなかでDLSS(Deep Learning Super Sampling)4.5が発表されたことです。
AI生成フレームをさらに高度化したDLSS 4.5は技術的に見れば間違いなく進化していますが、それを十分に活かせるGPUが店頭に並んでいない、あるいは並んでいても手が出ない価格になっている。
「最新のAI描画技術を使いたければ、まず最新GPUを定価の1.5倍で買ってください」という状況です。
CPUについても同様の逆行が起きています。
2025年末のクリスマスシーズン、アメリカのAmazonではDDR4対応のAM4向けCPUが売り上げランキング上位を占めました。
最新のAM5プラットフォームではなく、数世代前のエコシステムが市場を牽引しているということです。
これは消費者が「最新技術を求めていない」のではなく、「最新技術が現実的な選択肢として機能していない」ことの表れだと思っています。
こうした流れをNVIDIAはどう正当化しているかというと、答えは明快で「AI需要への対応」です。
個人的にはこれを「AI税」と呼んでいますが、データセンター向けメモリが優先されることで、ゲーマーはより古い、より遅い、しかし手の届く製品を使い続けることを強いられています。
NVIDIAの業績は過去最高を更新し続けているので、企業として心配する必要はまったくありません。
しかし、最新技術の普及という観点では確実にマイナスです。
DLSS 4.5が動くGPUが普及しなければ、ゲームエンジン側もそれを前提とした開発に踏み切れません。
RTX 3060の再生産が象徴するのは、「最先端の技術革新」と「一般ゲーマーの現実」の間に、これほど大きな乖離が生じたことが過去にほとんどなかったという事実です。
メモリ市場の混乱が収まるまでの間に、いったいどれだけの旧世代GPUが出荷され続けるのか。
Micronが発表した36Gbps・24GbのGDDR7が実際にゲーマーのPCに搭載されるころには、それはすでに「最新技術」ではなくなっているかもしれません。