
■事実
米調査報道メディアThe Informationが2026年7月27日(月)、中国・上海拠点の国有系企業が国産の液浸式DUV(深紫外線)露光装置の量産を開始したと報道しています。
開発チームは複数の中国企業から集められたとされ、その中核はHuaweiおよびSiCarrier系列のスタートアップ「上海玉亮晟科技(Shanghai Yuliangsheng Technology)」です。
同社は2026年内に5台、2027年に約20台のDUV露光装置を生産する計画です。
初期の納入先はSMIC・華虹半導体(Hua Hong)・CXMT(長鑫存儲技術)の3社です。
対象となる28nm世代の液浸露光装置は、SMICが2025年9月から試験導入を続けています。
装置の構成部品は大半が中国製だが、一部の重要部品は依然として日本製に依存しています。
マルチパターニング技術を用いれば7nm世代、条件次第では歩留まりを犠牲に5nm世代まで対応可能とされています。
比較として、ASMLは前年に液浸DUV装置を131台出荷しており、中国製の生産規模はまだ小さくなっています。
米議会では「MATCH法(MATCH Act)」が審議中で、2026年4月にHouse Foreign Affairs Committeeを通過、上院にも同内容の法案(S. 4281)が提出済みです。
MATCH法は新規輸出だけでなく、既存導入済み装置への保守・技術支援の提供も制限対象に含む点が特徴です。
米下院決議8170(H.Res.8170)は法律上、SMIC・Hua Hong・CXMT・Huawei・YMTCを制限対象企業に指定しており、このうち3社が国産装置の初期納入先と重なります。
報道を受けてASML株が下落、米半導体関連株にも波及したと報じられています。
CXMTは2026年7月にシンハイSTAR市場へ上場し、初値が公開価格から466〜472%急騰、時価総額は約4,840億〜4,890億ドルに達しました。
CXMTは現状、EUV(極端紫外線)露光装置へのアクセスを禁じられており、既存のDRAM生産ラインはすべて旧世代のDUV露光装置とマルチパターニング技術に依存しています。
別報道(ZDNet等)によれば、CXMTはHBM(広帯域メモリ)で先行3社(Samsung・SK hynix・Micron)を追う代わりに、3D DRAM・3D IC(メモリとロジックを別ウェハで製造し垂直接続する手法)という独自路線を模索していると報じられています。
比較表
| 項目 | 中国国産DUV(上海玉亮晟) | ASML(参考) |
|---|---|---|
| 年間生産予定台数(2026年) | 5台 | ― |
| 年間生産予定台数(2027年) | 約20台 | 131台(前年実績) |
| 主要顧客 | SMIC・Hua Hong・CXMT | 台湾・韓国・米国の主要ファウンドリ等 |
| 対応プロセス | 28nm単一露光/マルチパターニングで7nm、条件次第で5nm | 最先端EUVで2nm以下にも対応 |
| 部品調達 | 大半が中国製、一部日本製 | 主にオランダ・ドイツ等の自社サプライチェーン |
ソース
- The Informationの報道を伝える一次寄りの報道:Reuters配信(globalbankingandfinance.com) https://www.globalbankingandfinance.com/china-begins-making-homegrown-duv-chipmaking-tools/
- MATCH法の詳細(H.Res.8170・S.4281等):Tom's Hardware https://www.tomshardware.com/tech-industry/semiconductors/china-begins-mass-production-of-domestic-immersion-duv-lithography-machines
解説
「MATCH法の効力を無力化する」という見出しの勢いは強いが、実態は年産5台→20台という規模であり、ASMLの年間131台という供給規模と比べればまだ焼け石に水に近い。
ただし本質的に重要なのは台数ではなく「保守・技術支援まで対象にしたMATCH法の抜け穴」を、装置そのものの国産化によって物理的に塞ぎにいっている点だ。
米国が禁輸措置の対象を広げれば広げるほど、中国側は「代替を自国で作る」インセンティブが強まるという、規制と技術的自立のいたちごっこの典型例だ。
CXMTがSMIC・Hua Hongと並んで最優先の納入先に指定されている事実は、北京がDRAM国産化を国家戦略の中核に据えていることを裏付ける。
"禁輸されて困るなら自分たちで露光装置を作ってしまえばいい"という発想は乱暴に見えるが、実際に動き出しているあたりが今の中国半導体産業の底力ではある。
CXMTが直近のIPOで時価総額4,800億ドル超という評価を得た背景には、こうした「垂直統合的な自国内サプライチェーン構築」への期待が織り込まれていると見るのが自然だ。
CXMTがHBMで真正面から先行3社を追いかけず、3D DRAM・3D ICという別ルートを模索しているのは、EUV装置へのアクセスが閉ざされている制約を「弱み」ではなく「差別化の言い訳」に転化しようとする動きとも読める。
3D DRAMが技術的に確立すれば、メモリとロジックを別々の最適プロセスで作って後から接合するという発想自体が、AI向けメモリの設計思想を変える可能性がある点は業界的に見ても軽視できない。
一方で、SMEEやSiCarrier系の国産装置は量産立ち上げにまだ時間がかかるとの分析もあり、「2028年までは装置availabilityが足枷にならない」という楽観的な予測に対しては懐疑的な見方も根強い。
"露光装置の内製化"と"3D DRAMという裏道"、この二正面作戦がどちらも本気で進んでいるという点で、CXMTを単なる「後発の安値メモリメーカー」と侮ると痛い目を見るかもしれない。
個人的にはエルピーダが今まで生き残っていたら、中国の企業をサプライチェーンに入れなくてもよかったのに・・・と思う。
日本に最先端プロセスとメモリ生産という2つの産業が残った方がサプライチェーン的にもよかったのではないかと思う。