
■事実
Mercury Researchが発表した調査レポートによると、2026年のPC市場でCPU販売台数が前年比で20%超減少しました。
同社社長ディーン・マッキャロン氏はこの状況を「醜い(ugly)」と表現しています。
Intelは直近の四半期で市場シェアを前年比6.5ポイント失い、その大半がAMDに流出しました。
Intelの全体シェアは依然として69.3%を維持しています。(x86 CPU市場全体、IoT・組み込み品含む集計)
AMDのシェア拡大は、最新世代のゲーミング・生産性向け高性能CPUが強く支持されたことが要因です。
AMD製CPUはIntelのCore Ultra 7 270K Plusなど競合製品の性能を上回ったとされています。
シェアの変動の背景には、AMD・Intel双方に共通する構造的な問題として、メモリ市場の急激な価格高騰があります。
Gizmodoの報道によれば、DDR5メモリは1年前と比較して価格が最大500%(5倍)に達しています。
AMD・Intelともにこの市場環境を歓迎しておらず、シェアの奪い合いよりも市場全体の縮小そのものが問題視されています。
表(参考データ整理)
| 指標 | 2025年同期 | 2026年(直近四半期) |
|---|---|---|
| Intel x86シェア(全体) | 約72.9% | 69.3% |
| AMD x86シェア(全体) | 約27%台 | 約34%台(IoT等含む) |
| デスクトップCPU出荷台数(前年比) | - | 20%超減 |
| DDR5メモリ価格(1年前比) | 基準 | 最大500%(5倍) |
※ 各社報道(Mercury Research調査データを引用したTom's Hardware、The Register、PCWorld等)を基に筆者整理。快科技記事とは別ソースの背景情報。
ソース:
- Gizmodo「Desktop CPU Sales Are in the Toilet, but You Already Know Who's Really Screwed」https://gizmodo.com/desktop-cpu-sales-are-in-the-toilet-but-you-already-know-whos-really-screwed-2000802804
■解説(論旨箇条書き)
「シェアを伸ばした・失った」という数字だけを見ると勝ち負けの話に見えるが、実態は縮んでいくパイの中での押し合いに過ぎない。
前年比20%減という数字は、リーマンショック級とまでは言わないが、PC業界にとって明確な「需要破壊(demand destruction)」の水準だ。
原因はCPU自体の魅力低下ではなく、周辺コンポーネント(メモリ・SSD・GPU)の価格高騰によって「PC一式」を組む・買い替えるハードルが上がったことだ。
Micronは2026年2月までに自社の一般消費者向けブランド「Crucial」の販売を終了すると発表しており、これはAI/データセンター向けHBMに生産能力を全振りするという経営判断だ。
HBMは通常のDDR5より大幅に利益率が高く、Micron・Samsung・SK Hynixにとって「個人向けメモリを売るより、AI企業に売った方が儲かる」という単純な経済合理性が働いている。
OpenAIのStargateのような大規模インフラ計画だけで、DRAM生産能力の相当割合を吸い上げているとの試算もある。(世界生産量の4割近くという見方も報じられている)
つまり「一般消費者 vs AI業界」という構図では、消費者側は価格でも供給量でも交渉力を持たない、完全な買い負け状態にある。
この2社は本来ライバル同士だが、今回に関しては「同じ地盤沈下に立たされている当事者」という珍しい構図になっている。
どちらのCPUを選んでも、結局メモリとSSDの価格が全体コストを押し上げる以上、CPUメーカー間の性能競争だけでは販売不振を解決できない。
これまで「CPUは型落ちを待てば安くなる」が通用したが、今回はCPU自体ではなく周辺部品が高騰しているため、待っても解決しない可能性がある。
AMDが旧世代のAM4プラットフォーム向けCPUを再度プッシュしているとの報道もあり、「型落ちを買う」ではなく「型落ちプラットフォームに逃げる」動きが出ている点は象徴的だ。
サーバー向けCPU出荷は逆に前年比20%増という、デスクトップとは真逆の動きを見せており、AMD・Intelともに投資の重心がデータセンター向けにさらに傾く可能性がある。
長期的には、コンシューマー向けPC市場がAI投資の「巻き添え」で構造的に縮小していく懸念がある。メモリ不足は2027年以降まで続くとの見方もあり、一時的な需給逼迫では済まない可能性がある。
CPUの性能競争でシェアを取り合っていたはずが、気づけば土俵ごとメモリ業界に持っていかれていた、というのが今回の実態に近い。
「CPU選びに悩む」より「メモリが買えるかどうかで悩む」時代になってきた、というのが今のPC自作を取り巻く空気感だ。