
■事実
AMDの主張:Zen6にPコア・Eコアの区別はない
AMDが7月末、TSMC 2nmプロセスを初採用したZen6アーキテクチャのEPYCを正式発表しました。
発表後、一部メディアがZen6 EPYCとインテル次世代Xeon「Diamond Rapids」のコア数を比較し、Zen6が見劣りするとの指摘が出ました。(Diamond Rapids最大192基のPコア vs Zen6 Classic最大96基)
AMDのコンピューティング&エンタープライズAI製品担当上級副社長Madhu Rangarajan氏が反論し、Zen6にはインテルのようなPコア・Eコアの区別はなく、高周波数コアと通常周波数コアがあるだけだと説明しています。
同氏はこれらのコア間で意味のある違いは周波数のみであり、アーキテクチャ・命令セット・IPC性能は共通であると強調しています。
AMDはZen4世代からZen4c、Zen5世代からZen5cという高密度コアを展開しており、いずれも本家コアと同一のアーキテクチャ・命令セット・IPC性能を共有し、ダイ面積・動作周波数・電力効率・キャッシュ容量のみが異なる設計を一貫して採用しています。
対照的にインテルのPコア・Eコアは、それぞれ異なるマイクロアーキテクチャ(Panther Cove系Pコア、Darkmont系Eコアなど)を採用する非対称設計で、命令セットレベルでも差異があります。
比較表
| 項目 | AMD EPYC Venice(Zen6) | インテル Xeon Diamond Rapids |
|---|---|---|
| 製造プロセス | TSMC 2nm | インテル18A-P |
| 高性能コア最大数 | 96基(Zen6 Classic) | 192基(Pコア) |
| 高密度コア最大数 | 256基(Zen6c) | ―(別ラインのClearwater Forestが最大288基のEコア構成) |
| SMT対応 | 対応 | 非対応(インテル側の事情は解説参照) |
| コア種別間の違い | 周波数のみ(アーキテクチャ・命令セット・IPCは共通) | マイクロアーキテクチャ自体が異なる非対称設計 |
ソース:
https://news.mydrivers.com/1/1142/1142393.htm
解説
①コアの作り方という視点の違い
単純な「コア数」だけを見るとAMDが見劣りするように映るが、そもそも「コアの作り方」自体がインテルとAMDで根本的に違う、という話だ。
インテルのPコア・Eコアは別々に設計された、いわば別物のコア。命令セットレベルでも機能差がある「本当の意味での大小コア」構成だ。
一方AMDのZen6/Zen6cは同じ設計図から生まれた双子のような存在で、性能差は基本的にクロック周波数の違いにすぎない。
「Pコア・Eコアはいません、ただの高速版と普通版です」と言われると、なんだかスマホの上位・下位モデルの話みたいに聞こえてきて、身構えていたコア戦争が急にカジュアルな話に変わる。
②インテルはなぜソフトウェアで苦労したのか
ここで気になったのが、インテルのPコア・Eコア方式を支えている裏側の話です。インテルは2024年のLunar Lake/Arrow Lake世代(Lion Coveコア)でHyper-Threading(HT)を廃止したが、エンジニアのOri Lempel氏いわく、Eコアがすでにこの役割をより高い電力効率・面積効率で担えるようになったから、とのことだ。
ただこれを支えるThread Director(Pコア・Eコアへのスレッド振り分け機構)は、チップ単体の機能ではなく、マイクロソフトとの数年がかりの共同開発を前提にした仕組みだった。マイクロソフトのエンジニアChris Kleynhans氏は、Windows 11開発初期からインテルと緊密に連携してきたと証言している。
それでも足りない部分は、ゲームタイトルごとに手動でプロファイルを作る追加ツール「APO」で埋めるという力技。対応タイトルはごくわずかにとどまっているのが実情だ。
インテルのPコア・Eコア方式は、実はチップの設計だけの話ではなく、マイクロソフトを巻き込んだ数年がかりのソフトウェアプロジェクトだったということだ。
HTの廃止も、単なる省電力化というより「Pコア・Eコア・HTスレッドという3段階の優先順位づけを1段シンプルにする」という、スケジューリングの複雑さそのものへの対処という側面が大きかったように見える。
③AMDが同じ土俵に乗らない理由
一方AMDは、自社の異種コア混載APU(Strix Point:Zen5+Zen5c混載)に対してさえ、Thread Director相当の仕組みを持たず、CPPCという軽量なコア優先度ランキング情報をOSに渡す方式で済ませている。
個人的には、これはROCmを巡る状況とよく似た構図だと見ています。CUDAが10年以上にわたるNVIDIAの継続的なソフトウェア投資の産物であるのと同じく、Thread Directorもインテルとマイクロソフトが作り込んだソフトウェア資産だ。
AMDがこの手の「ハードウェア以上にコストのかかるソフトウェア投資」を避け続けているのは、CPUでもGPUでも一貫したパターンではないだろうか。
ただしこれはAMDが公式に認めている理由ではない。Zen4c発表時にAMDが語ったのは「クラウド向けの密度最適化」という前向きな理由づけで、この点は正直に書いておきたいところだ。
ソフトウェアが弱いなら初めから作らなければいい、という開き直りが結果的に功を奏している辺り、ある意味「戦わない者は負けない」を地で行っている気がする。
ちなみにインテルのサーバー向けXeonは、Pコア・Eコアを同一パッケージに混在させていない。Granite Rapids/Diamond RapidsはPコアオンリー、Sierra Forest/Clearwater ForestはEコアオンリーという形で製品ラインを完全に分離しており、この「ソフトの複雑さ」問題自体、実はサーバー領域にはほぼ存在しない話だ。
④Appleを意識した効率化は結果を出した
インテルがHTを廃止した背景を掘っていくと、Lunar Lake発表時に性能/ワット曲線でApple M3を唯一の他社比較対象として明示的に提示していたことが分かかる。薄型軽量ノートPC市場でのApple対抗を鮮明にした格好だ。
実際、Lenovoの実機ベンチマークでは、Lunar Lake搭載「Yoga Slim 7i Aura Edition」がMacBook Pro M3 Maxをバッテリー駆動時間で5時間以上上回る結果を記録している。狙い通りに機能した数少ない事例と言えそうだ。
同時期のComputex 2024では、QualcommのArm版Windows PC向けチップ「Snapdragon X Elite」も同様に強く意識された競合だった。
Lunar LakeのHT撤廃は、思いつきの技術判断ではなく、Apple・Qualcommという具体的な相手を見据えた狙い撃ちだったと見ている。
一方でデスクトップ向けのArrow Lakeは、Lunar Lakeと同じLion Coveコア設計をFoverosパッケージング技術でそのまま流用したものだ(インテル担当者Michael Hallock氏いわく「市場投入スピードと電力効率を両立する一石二鳥の判断」)。デスクトップ市場でAppleと直接戦う必然性は薄いので、Arrow LakeのHTなしは独立した経営判断というより、コスト都合の産物に近いのではないかと見ている。
ちなみに次世代デスクトップ向けNova Lake(2026年末投入予定)も、リーク情報を見る限り引き続きHT非搭載とのこと。クライアント側は当面「Eコアで数を稼ぐ」路線を継続する構えのようだ。
⑤複雑さのツケとその代償
ここでもう一つ気になったのが、インテルCEOのLip-Bu Tan氏が2025年7月に表明した「SMT(同時マルチスレッディング)の再導入」の話だ。これはデータセンター向け(Granite Rapids以降のXeon)に関する発言で、氏は「SMTから離れたことで競争上の不利益を被った」と明言している。
クライアント向けでのマルチスレッディング相当機能の本格復帰は、2028年投入予定とされる「Coral Rapids」世代まで持ち越される見通しとのことだ。
つまり現状は「データセンターだけHT復活、クライアントは当面なし」というちぐはぐな状態なのだが、当のLip-Bu Tan氏自身が同時期、次世代製品ファミリー全体について「クリーンでシンプルなアーキテクチャ、良好なコスト構造、簡素化されたSKU構成」を目指す方針を語っているのが興味深いところだ。つまり現状は理想形ではなく、走りながら継ぎ接ぎしている最中だと会社自身も自覚している。
サーバー側のSMT撤廃は、率直に言って失策だったと評価してよいと思います。AMDのEPYCが一貫してSMTを維持し続ける中、インテルだけがこの武器を自ら手放し、後になって競争上の不利益を認めて方針転換を余儀なくされた。
シンプル化を掲げた舌の根も乾かぬうちに、セグメントごとに違う答えを出しているあたり、有言実行にはもう少し時間がかかりそうだ。
⑥財務状況から見た余裕のなさ
この迷走ぶりが特に気になるのは、インテルの足元の財務状況を見た時です。2026年第2四半期決算では、売上高が前年同期比25%増となる一方、Intel Foundry部門は単体で21億ドルの営業損失を計上。CHIPS Act関連の125億ドルの非資金的エスクロー費用計上により、GAAPベースの純損失は110億ドルに達した。
ファウンドリ部門が四半期ごとに20億ドル規模の赤字を垂れ流している状況で、セグメント別に場当たり的な軌道修正を重ねる余裕が本当にあるのか、率直に疑問は残る。
ただし本業の収益性を示す非GAAP営業利益率は前年同期の-4%から+17%へ改善し、営業キャッシュフローも前年比242%増の70.1億ドルとなっている。GAAPベースの110億ドルの純損失という数字だけを見て悲観しすぎるのもフェアではない。
18Aプロセスの歩留まりも前四半期の65%から85%へ改善(TSMCのN2は約90%)しており、製造面の立て直しは別軸で着実に進んでいるようだ。現金・投資額297億ドルに対し負債505億ドルという数字は、決して楽観できる状況ではないが・・・。
⑦総合評価
サーバー向けEPYCのシェア拡大は、コア設計の巧拙よりもTSMCの先端プロセスをAMDが押さえ続けた製造面の優位性が主因という見立ての方が説得力があり、「ソフトの単純さ対決」が効いてくるのはあくまでゲーミングPC市場を中心としたクライアント領域だと見るのが妥当のように思う。
ハードとソフト、どちらに賭けるかという経営判断の違いが、コア設計からシェア争いまで、あちこちに影を落としているのは、なかなか興味深い話ではないだろうか。