
■事実
8月1日、中微公司(AMEC)創業22周年記念式典にて、尹志尧会長兼総経理が発言しました。
「今後5年以内に半導体ハイエンド装置の60%以上をカバーし、世界でカバー率が最も高い半導体装置企業を目指す」との方針を表明しています。
あわせて「2035年までに規模・製品競争力の両面で世界第一梯隊(トップグループ)入りする」との長期目標も提示しています。
この構想自体は今回が初出ではなく、2025年4月1日の決算説明会でも同様の方針が示されていました。
決算説明会時点の内容:すでに37種の成熟装置が量産ラインで稼働し、まとまった受注を獲得済みです。
同説明会では「5年程度で集積回路ハイエンド重要装置の60%以上、先進パッケージング装置の70%以上をカバーする」という、より具体的な数値も語られていました。
2025年5月のメディア取材(21経済網)によれば、現状のカバー率は約30%で、これを60%へ引き上げる計画です。
対象装置の内訳はプラズマエッチング(高エネルギーCCP、低エネルギーICP、ウェハエッジ、原子レベル)/薄膜装置(PECVD誘電体、ALD、LPCVD導体、EPIエピタキシャル、PVD金属、MOCVD)/検査装置(光学・電子ビーム)/湿式装置(CMP化学機械研磨、めっき)です。
中微は現在、世界のエッチング装置市場で第4位のシェアを持つとされています。(中国語メディア報道ベース)
研究開発費は2024年に24.52億元(前年比+94.31%)、売上高比約27.05%。2026年第1四半期も前年同期比+90.53%の6.87億元です。
新装置の開発期間を従来の3〜5年から約18ヶ月に短縮、最短半年〜1年で量産化を実現できる体制になったと説明しています。
2025年に杭州衆硅の買収を発表し、「グループ化・プラットフォーム化」を進めています。
OLED向け8.6世代基板用の大型PECVD装置を18ヶ月で開発し、膜厚均一性±5%という顧客要求水準をクリアして量産ライン認証を取得しています。
尹志尧会長の経歴:Applied Materials(米国)に13年間在籍し副社長等を歴任、その前はIntel技術開発センター、さらにLam Research(米国)でエッチング技術開発を主導した経験を持っています。
中微は上海本社、プラズマエッチング装置と化学薄膜装置を主力とする半導体ハイエンド装置メーカーです。
影響を受ける可能性がある企業・国籍
- 世界の半導体製造装置市場は上位5社で合計56〜66%のシェアを占める寡占構造です。
- その5社と国籍はApplied Materials(米国)、Lam Research(米国)、KLA(米国)、ASML(オランダ)、東京エレクトロン(日本)です。
- 中微が計画する装置カテゴリと、各カテゴリで競合する主要企業(国籍)は以下の通りです。
| 装置分野 | 主要競合企業(国籍) |
|---|---|
| プラズマエッチング | Lam Research(米国)、東京エレクトロン(日本)、Applied Materials(米国) |
| 薄膜堆積(CVD/ALD/PVD等) | Applied Materials(米国)、Lam Research(米国)、ASM International(オランダ)、東京エレクトロン(日本) |
| CMP・めっき | Applied Materials(米国)、荏原製作所(日本) |
| 検査・計測(光学・電子ビーム) | KLA(米国)、日立ハイテク(日本) |
| MOCVD(化合物半導体向け) | AIXTRON(ドイツ)、Veeco(米国) |
| 露光(リソグラフィ)※中微の計画対象外 | ASML(オランダ)、ニコン(日本)、キヤノン(日本) |
- 米国政府は近年、先端半導体製造装置の対中輸出規制を強化しており、Applied Materials・Lam Research・KLAなど米国メーカーは先端ノード向け装置の対中輸出に制約を受けています。
参照ソース:
- 新浪科技: https://finance.sina.com.cn/tech/roll/2026-08-01/doc-inikvanc0464771.shtml
解説
「60%カバー」という数字は金額ベースの世界シェアではなく、あくまで「装置の種類・ラインナップのカバー範囲」を指している点に注意。中微自身のIR資料の表現も「装置種類のカバー」であり、数字の解釈を混同しないようにした方がいい。
とはいえ言葉通りに実現するなら、直接ぶつかる相手はかなり明確:エッチングではLam Researchと東京エレクトロン、薄膜ではApplied MaterialsとLam Research、検査ではKLA。つまり米国系3社+日本系1社が主な標的ということになる。
米国がすでに先端装置の対中輸出を絞っている状況下で、中微のような内製化企業が育つほど、米国装置メーカーは中国市場での存在感をさらに失っていく構造。規制強化が結果的に中国の自給化を後押ししているという皮肉な構図は指摘しておきたい。
ただし今回の発言はあくまで「宣言」であり「実績」ではない。研究開発費の伸び率や開発期間の短縮という数字自体は立派だが、実際にAMAT・Lam並みの歩留まり・信頼性・稼働率を先端ノードで出せるかどうかは別の話。中国系半導体企業の発表は「物が出て、量産で使われてから」判断すべきという立場は今回も崩さない方がいい。
尹志尧会長自身がApplied MaterialsとLam Research出身という経歴は象徴的。かつて自分が学んだ相手を、今度は追い越そうとしている構図だ。
リソグラフィ(ASML、オランダ)だけは今回の計画対象に入っていない点も見逃せない。エッチング・薄膜・検査・CMPまで内製化が進んでも、最先端露光装置だけは依然として手つかずのまま。ここがボトルネックとして残る限り、「本当の意味での自給率100%」にはまだ遠い。
独立した元社員が「いつか本家を超えてやる」と言い続けているようなもので、シリコンバレー的な師弟対決の構図が半導体業界にもある、という軽い一言だ。
数字の派手さに目を奪われがちだが、露光装置というラスボスを避けて「60%」を語っている時点で、まだ全クリアとは言えない。