
■事実
GeForce RTX 5090は2025年1月30日に発売されたNVIDIAのフラッグシップGPUだ。 定格消費電力(TGP)は575Wで、前世代のRTX 4090の450Wから大幅に増加している。 発売からわずか10日後、最初のコネクタ溶損報告がRedditに投稿された。 以降、ほぼ毎週のように新たな溶損事例が報告され続け、2025年12月末時点でも問題は解消されていない。
コネクタ溶損の仕組み
RTX 5090が採用する「12V-2x6」コネクタは、前世代の「12VHPWR」コネクタを改良した規格だ。 センスピンを約1.5mm短くし、電源/グランドピンを0.25mm長くすることで、接触不良を抑制する設計になっている。

しかし、ケーブル側の構造は12VHPWRと12V-2x6で実質的に同一のままだ(画像4参照)。 ドイツの著名なオーバークロッカー、Der8auerが実施したテストでは、RTX 5090に575Wの負荷をかけてからわずか4分で、電源側コネクタのホットスポットが153℃に達することが確認された。 GPU側でも90℃近くまで上昇している。
より深刻なのは、16本あるピンへの電流分布が均等でない点だ。 12V-2x6の設計では1ピンあたり約9〜9.5A(108W前後)の電流を処理できる仕様だが、Der8auerのテストでは特定の2本のケーブルにそれぞれ23Aと11Aという、許容値をはるかに超える電流が集中していた。 一方、残り4本には2〜8Aしか流れておらず、電流分布が著しく偏っていた。
この問題の背景には、RTX 4090・5090世代での設計変更がある。 RTX 3090 Tiまでは2ピンごとにシャント抵抗器を配置して電流バランスを調整していたが、RTX 4090以降はコスト削減のため、6本の電源ピンすべてを1〜2個のシャント抵抗器にまとめる設計に変更された。 このため、GPUはピン間の電流不均衡を検知できず、過負荷状態のまま動作を継続してしまう。 最悪の場合、6本中5本が断線しても残り1本に全電力が流れ続ける構造になっている。
溶損事例のタイムライン
RTX 5090の溶損報告は発売直後から現在まで途切れなく続いている。 2025年2月10日に最初の事例が報告された後、3月には水冷RTX 5090でも150℃超を記録、4月にはMSI RTX 5090のコネクタプラスチックが膨張して破損、5月にはMSIの特殊デュアルカラー12ピンコネクタが溶損、7月にはゲームプレイ中に正しい接続状態でも溶損、10月にはMSI RTX 5090が交換後も再び溶損、12月には発火によりAIOクーラーにまで焦げ跡が及ぶ事例が報告された。 これだけ継続的に問題が発生しているにもかかわらず、NVIDIAはコネクタの設計変更を行っていない。
溶損事例のパターン
報告された溶損事例を分析すると、いくつかの共通パターンが見えてくる。
最も多いのが変換アダプター使用時だ。 「4×8ピンから16ピンへの変換アダプター」を使用した場合、接続点が増えることで電力分布の偏りが生じやすくなる。 ZOTACは4×8ピンアダプターを使用する際、1本のケーブルで2つの8ピンコネクタをまとめて接続するのではなく、1つの8ピンポートに1本ずつケーブルを用意するよう明示的に指示している。
次いで多いのがケーブルの曲げ方の問題だ。

コネクタから35mm以内でケーブルを急角度に曲げると、特定のピンへの接触が弱まり、電流集中が起きやすくなる(画像3参照)。 コネクタ接続部から35mmは真っすぐ延ばした状態を維持することが推奨されている。
また、純正ケーブルを正しく接続していても溶損したという報告も複数ある。 2025年12月24日に発生した事例では、ATX 3.1準拠の電源ユニットに付属する純正12V-2x6ケーブルを使用していたにもかかわらず、9ヶ月後にコネクタが発火している。 コネクタのプラスチックハウジングが完全に溶けた塊となり、GPUから取り外せない状態になった。
MSIが対策として導入した「黄色チップ付きアダプター」も、ある週数を経てコネクタから抜け始めるという問題が確認されており、抜本的な解決には至っていない。 なお、MSIの電源ユニットに付属する16ピン直結ケーブル(アダプターではない)については、溶損報告がほとんど出ていないという対照的な結果も出ている。
NVIDIAとAIBの対応
NVIDIAは発売から約1年が経過した現在も、コネクタの設計変更を行っていない。 公式見解として繰り返しているのは「コネクタをしっかりと均等に奥まで差し込んでください」という内容にとどまる。
一方、AIBは独自の対応策を講じている。 MSIは自社のMPG AI電源ユニットに「GPU Safeguard+」機能を搭載し、異常を検知した際に自動的に消費電力を575Wから430Wに制限する機能を実装した。 ただし、この機能はMSI Afterburner v4.6.7以降とMPG AI電源ユニットの組み合わせでのみ動作する。
ASRockは12V-2x6コネクタ用のL字型ケーブルを発売し、コネクタ近傍でのケーブルの屈曲を物理的に防ぐ設計を採用した。 NTCセンサーによる過温度保護機能も内蔵しているが、対応するのはASRockの新型電源ユニットに限られる。
サードパーティ製保護デバイス
コネクタ保護を目的としたサードパーティ製デバイスも登場している。

※ 画像はイメージです。実際の製品とは異なります。
Thermal Grizzlyの「WireView Pro 2」(画像1)は、コネクタにインラインで接続するモニタリングデバイスだ。 リアルタイムで電流値・電力・温度を測定し、液晶ディスプレイに表示する。 価格は約140ドル(約2万円前後)。

※ 画像はイメージです。実際の製品とは異なります。
Aqua Computerが開発した「Ampinel」(画像2)は、GPUのコネクタ上部に直接装着するタイプの保護デバイスだ。 負荷バランシング機能を搭載しており、ピン間の電流分布を均一化することを目的としている。 WireView Pro 2より低価格で提供されている。
RTX 5090ユーザーが取るべき対策
現時点で推奨される対策をまとめると以下の通りだ。
電源ユニットはPCIe 5.1/ATX 3.1準拠のものを選び、最低でも1000W、理想的には1200W以上を用意する。 ネイティブの12V-2x6ケーブルが付属するATX 3.1対応電源であれば、変換アダプターを使わずに済む。
8ピンから16ピンへの変換アダプターは可能な限り避ける。 やむを得ず使う場合はZOTACのガイドライン通り、8ピン1ポートにつき1本のケーブルを用意する。
コネクタ接続後、ケーブルをコネクタから35mm以内で曲げないよう注意する。 ケースの空間に余裕がない場合は、ASRock製のL字型ケーブルなどの使用を検討する。
WireView Pro 2やAmpinelといったモニタリングデバイスの導入を検討する。 コネクタが異常発熱する前に問題を検知できる可能性がある。
■解説
正直なところ、この問題が発売から1年以上経っても解決されていないのは、かなり異常な状況だと思っています。
RTX 4090のコネクタ溶損問題が2022年から報告されていて、NVIDIAは「12V-2x6に変えたから大丈夫」と言いつつRTX 5090を出した。 でも発売10日で同じ問題が再発した。
個人的に問題の本質だと感じているのは、「コネクタの接触不良が原因なのか、設計そのものに欠陥があるのか」という点が、1年以上経っても公式には明確にされていないことです。
Der8auerのテストで示された「6本のケーブルに電流が均等に流れない」という現象は、接続方法の問題というより回路設計の問題に見えます。 RTX 3090 Ti世代まであったシャント抵抗器の配置が変更されてから、こういう問題が頻発している。 コスト削減の結果がこれだとしたら、40万円超のGPUを買ったユーザーとしてはかなり理不尽な話です。
変換アダプターを使った場合に溶損率が上がるというのも、理屈的には納得できます。 4本の8ピンケーブルから電力をまとめる構造は、それぞれのケーブルの品質や接続具合でバランスが崩れやすい。
ただ、純正ケーブルを正しく使っても溶損した事例があるのが本当に厄介なところで。 「使い方が悪かった」という言い訳が通用しない事例が複数ある以上、NVIDIAが設計側の問題を認めないのは不誠実だと感じます。
MSIのGPU Safeguard+は面白い方向性だと思います。 ただ「異常を検知したら430Wに絞る」というのは対症療法であって、根本解決ではない。 しかも専用の電源が必要というのは、対応の敷居が高い。
WireView Pro 2の約2万円という価格は、40万円超のGPUを守るための保険料と考えれば悪くはない。 でも本来ならNVIDIA側が解決すべき問題に対してユーザーが追加出費を強いられているわけで、これを「良い解決策」と呼ぶのはちょっと違う気がします。
気になるのは、中国向けのGeForce RTX 5090 Dでも同様の溶損報告が2025年6月に出ていることです。 地域や販売チャネルに関係なく発生しているという点で、特定のバッチや流通上の問題ではなく、コネクタ設計そのものに起因している可能性が高い。
今後RTX 5000シリーズの下位モデルが出てくる中で、同じコネクタ設計が踏襲されるのかどうかは注目すべき点です。 RTX 5060 TiやRTX 5070といった、よりボリュームゾーンの製品に同じ問題が広がれば、RTX 4090の時より大きな社会問題になりかねない。
要するに、RTX 5090はパフォーマンス面では文句なしに最強ですが、電源周りについては「40万円のリスク管理を自分でやれ」という状況が1年以上続いているわけです。 購入済みの方はATX 3.1対応の電源環境整備とケーブル管理を最優先に、これから購入を検討している方はWireView Pro 2やAmpinelといったモニタリングデバイスの追加予算も含めて検討してみてください。