intelのXeディスクリートGPUプロジェクトリーダー、Raja Koduri氏は最近、同社の5 nm EUVの発表に伴い、韓国のSamsung Electronicsのシリコン製造施設を訪問しました。
これは、Koduri氏がサムスンの10nm以下の受託製造製品のポートフォリオを検討してXeディスクリートGPUを大量生産する可能性があるという推測できます。
Intel自身のファウンドリ事業は、10nmノードを実現するために、同社の主力事業者であるクライアントおよびエンタープライズプロセッサ事業からの圧力が強くなっています。
競合するAMDがすでに7 nmを実装していることを考えると、Koduri氏のGPUはIntelの10 nmよりも高いトランジスタ密度を活用する必要があり、NVIDIAは将来の世代のGPUで10 nm以下になると予想されます。
ソース:techpowerup - Intel Courting Samsung to Manufacture Xe GPUs?
解説:
AMDでGPU設計チームを率いてNaviを設計し、その後、intelに移籍したRaja Koduri氏が韓国のサムスン電子の半導体工場を訪問したというニュースが入ってきました。
GPUは現在一番競争の激しいPCパーツだと思います。
GPU業界の覇者であるnVidiaは2年に一度の世代交代で、20-30%ほどの性能を改善しています。
現世代はTuringですが、一つ前のPascalは製造プロセスが進んだこともあり、Maxwellと比較すると大幅な(30%以上の)性能の改善がありました。
nVidiaの次の世代のRTX3000シリーズは7nmになると思いますので、かなりの性能向上がなされると私は予想しています。
intelは現在CPUの製造において14nmより上の製造プロセスの立ち上げ(10nm)に四苦八苦しており、2020年にはTSMCが5nmのリスク生産を始めることもあり、半導体業界の巨人として業界に君臨してきたintelが製造プロセスで周回遅れになるという異常事態になっています。
intelは今まで他社より優れた製造技術で他社より一世代性能の高いCPUを製造し圧倒してきました。
そうして業界を制するところまでシェアを伸ばしてきたわけですが、自分が今まで使ってきたビジネスモデルを今回は他社にやられるという状態になっています。
何故そうなったかはスマートフォンやタブレットがITデバイスの主流となり、その流れに乗り遅れたiintelはこうしたモバイルデバイスSoCの製造から締め出され、資金が他社(TSMC)に集中したからというのは私が何度も解説してきたこともあり、当サイトの読者さんならすでに承知のことと思います。
CPUのトランジスタ当たりの性能というのはすでに飽和しており、トランジスタ数が増えても性能がリニアに伸びていかない状態になって久しいです。
そのため、ある時点からマルチコア化という方向に舵を切ることになりました。
ちなみに、x86のCPUがマルチコア化に舵を切るきっかけを作ったのもAMDです。Athlon64X2など名前を聞いたら懐かしいと思う方もいるのではないかと思います。
intelは10nmに投資してしまった以上、投資を回収するために周回遅れになっても10nmの製品を市場に投入せざるを得ません。
CPUの進化は頭打ちになっているので周回遅れになっても設計などでカバー可能な範囲でしょう。
しかし、似たような回路の集合体で、単位面積当たりの密度とトランジスタの性能がモロに全体の性能に直結するGPUに関しては周回遅れでは戦えないと判断したのか、Raja Koduri氏が韓国サムスン電子の工場を訪問したようです。
これは、intelの単体GPUである、Xeに最新プロセスである5nm EUVを使うためではないかとみられてるとのことです。
intelは半導体業界の盟主として長らく君臨してきましたが、SSDなどではライバル関係にあるサムスン電子の工場を訪問するというのは、すでにプライドにはこだわっていられない状況などでしょう。
元記事ではこれを"Courting"(ご機嫌伺いをする、求愛する)と表現しています。
Kaby LakeやCoffee Lake(Core i7-8700K)あたりまでは、我が世の春を謳っていたintelですが、そこから急転直下、CPUの供給がショートして、製造プロセスの遅延が全体の事業の足を引っ張るという皮肉な事態になっています。
半導体業界というのは半年先はどうなるかわからないこういうハプニングがまだまだ起きる余地が残っているので面白いです。
Xeに5nm EUVを使うというのはAMDやnVidiaのGPUを圧倒する性能を持つ製品を投入する可能性があるということで、これも非常に期待が大きいです。
intelがGPU市場にシェアを打ち立てれば、RTXのような独自の仕組みを構築できる可能性や、先日の記事で説明したようにPCI Expressの仕様そのものを変更してマルチGPUの概念を丸ごと塗り替えてしまうことも可能でしょう。
このインパクトとか破壊力というのは計り知れないものです。
2-3年後には「GPUはintel以外は考えられない」という状況になっている可能性があるということですよ。
Raja Koduri氏はPS5に搭載される予定のNaviを設計された方ですので、可能性としては十分にあると思います。
intelはユダヤ・イスラエルとも非常に関係の深い企業なので、この辺の政治力もintelの強さの秘密でしょう。
今までintelは圧倒的な資金力からの一世代上の製造プロセスと高度な開発能力、マンパワーを投入して必ず最後に勝者となってきました。
スマホ・タブレット勢の圧力に負けてこのまま脱落するのか、今までのように逆境を跳ね返して逆転するのか、目が離せない状況になってきたと言ってもよいでしょう。