
■事実
Phison CEO潘健成(Pua Khein-Seng)氏が、NANDメーカー幹部との対話内容を明らかにしました。
新規生産ラインを投資から量産開始まで持っていくのにかかる期間について、当初「2年程度」と見込んでいたところ、実際の回答は「4年」でした。
この結果を踏まえ、業界推計としてNAND供給不足は少なくとも今後4年間、つまり2030年頃まで継続するとの見通しが示されました。
Phisonは現在、CSP(クラウドサービスプロバイダー)やAI企業向けにエンタープライズSSDを今後2年間安定供給するための「戦略在庫」を構築中です。
ただし需要があまりに高く、量産体制が追いつくまでにはさらに年数を要する状況です。
潘氏は、市場では「価格上昇後はすぐに設備投資を増やして増産できる」と誤解されがちだが、実際の新規生産ライン立ち上げには市場の想定よりはるかに長い時間がかかると強調しました。
Phisonは将来的な供給不足を見込み、戦略在庫の大量売却を控える方針です。これは長期的な取引先との関係にも影響する可能性があります。
AI・クラウド各社はDRAM側の仕様(搭載容量など)を調整する動きを見せている一方、NAND側の需要はそれほど縮小していません。
エージェント型AIや生成AIの普及により、クラウド上での大容量データ保存需要はむしろ拡大傾向です。
Phisonの2026年第2四半期の売上総利益率は65.3%と過去最高を記録しています。
ただしNAND調達コストの上昇により、利益率の大幅な改善は見込みにくい状況です。
Phisonは「Phison 3.0」戦略のもと、NANDコントローラー・ストレージモジュール中心の事業からAIストレージ・エッジAI・AIプラットフォーム分野へ軸足を移していく方針を示しています。
表
| 時期 | TLC 1Tb NANDスポット価格 | 1TB M.2 Gen4 SSD 小売実勢価格(目安) |
|---|---|---|
| 2025年7月 | $4.80 | 約70〜80ドル |
| 2025年11月 | $10.70 | ― |
| 2026年半ば | ― | 約180〜250ドル |
ソース
- https://www.ctee.com.tw/news/20260814700082-430501
解説
潘氏は2025年11月時点でも「TLC 1Tb NAND単価が同年7月の4.80ドルから11月には10.70ドルまで倍以上に高騰し、2026年分の生産能力はメーカー各社ですでに完売済み」と発言していた。
今回の「4年」発言はその延長線上にある警告で、驚きの新事実というより「悪化ペースが想定通り」という印象の方が近い。
消費者向け1TB M.2 Gen4 SSDの実勢価格は、2025年半ばの70〜80ドル程度から2026年半ばには180〜250ドル程度まで上昇したとの推計もあり、これはPCパーツショップの店頭でも体感できる水準の変化だ。
Silicon MotionのCEOは「小売SSD市場はほぼ消滅した」と表現しており、NAND各社がAIサーバー・OEM向け供給を優先する構図が、自作PC市場のパーツ調達を直接圧迫している。
SK hynixのCEOも「需要が供給を上回る状況は2030年以降も続く」「2027年は業界史上最も供給が逼迫する年になる」と発言しており、DRAM・NAND双方でメーカー側の見通しが揃いつつある。
ただしメモリ業界は過去に少なくとも9回の激しいブーム・バストサイクルを繰り返してきた業界でもある。
過去のサイクルでは、増産投資が数年後に一斉に稼働し始めた途端、供給過剰と価格暴落が起きるパターンが繰り返されてきた。
今回のサイクルが「特別に長い」と語られる理由は、AI需要の急拡大に加え、各社が長期契約で数量・価格を事前に固定するようになり、四半期単位で急変してきた過去の需給サイクルより見通しが安定しているとされる点にある。
とはいえ2027〜2028年にかけて、複数の新規増産ラインがほぼ同時期に稼働し始める見通しもあり、「本当に4年間価格が一本調子で上がり続けるのか」は業界自身の設備投資判断次第という不確実性が残る。
「2年でできると思ったら実は4年でした」という話は、要するに社内の見積もりが甘かったことをCEO自らが公の場で白状しているようなもので、半導体業界の「言うは易く作るは難し」を地で行くエピソードだ。
2023年頃から半導体各社の設備投資の多くが、利益率の高いHBM(AI向け高帯域幅メモリ)に振り向けられ、相対的にNAND投資が手薄になっていたところにAI由来の需要増が重なったのが、今回の逼迫の構造的な背景だ。
SamsungはMLC NAND生産の終了を2025年3月に発表し、2026年6月に最終出荷を完了しており、一部セグメントの供給能力はさらに絞られている。
一般ユーザーにとっては「SSDが高い」で済む話ではなく、今後数年はPC自作の予算配分そのものを見直す段階に入りつつあるという受け止め方が妥当だ。
「メモリは安くなるまで待て」がもう通用しない時代というのはここ数か月で何度も書いている気がするが、今回はCEO自らが自社の見積もりミスを認めた形である点が新しい。