
■事実
NVIDIAのジェンスン・フアンCEOが2026年5月の決算説明会で、自社CPU「Vera」が既存のGPU事業(BlackwellおよびRubinで2025〜2027年に見込む累計1兆ドル規模の売上予測)とは別枠で、新たに2000億ドル規模の市場(TAM)を開拓すると表明しています。
フアン氏は「Veraだけですでに今年200億ドル分のスタンドアロン販売実績(見通し)がある」と説明、2027会計年度中にVera単体で200億ドルの売上を視野に入れていると発言しています。
NVIDIAのコレット・クレスCFOも「Veraは当社にとって新たな2000億ドル規模の市場を開く」とコメントしています。
フアン氏は「Veraは(NVIDIAの製品群の中で)売上高2位の柱になる」との見通しを示しています。
Veraは「AIエージェント専用に設計された世界初のCPU」を掲げるNVIDIA初の完全自社設計CPUコア(コード名Olympus)で、命令セットはArm v9.2互換だが、従来のGrace CPUで使っていたライセンス供与型のArm Neoverseコアとは異なる独自マイクロアーキテクチャです。
主な仕様:88コア・176スレッド(Spatial Multithreading)、LPDDR5Xメモリで最大1.2TB/sの帯域、トランジスタ数227億個、Rubin GPUとの接続にNVLink-C2C(1.8TB/s)を採用、TDPは250〜450Wの範囲で構成可能です。
販売形態はスタンドアロン、またはRubin GPUとセットの「Vera Rubin」プラットフォームの両方。Vera Rubin NVL72ラックは72基のRubin GPUと36基のVera CPUで構成しています。
Vera Rubinは2026年6月1日(GTC Taipei)に量産段階入りを発表、主要パートナー(AWS、Google Cloud、Microsoft Azure、Oracle Cloud、CoreWeave、Lambda、Nebiusなど)への供給は2026年後半を予定しています。
前世代のGrace CPUは累計出荷約250万個に達しており、Veraはその後継として位置づけられています。
NVIDIA自身の発表値では、Veraはx86 CPU比で最大1.8倍高速にタスクを完了できるとしています。
第三者検証(Phoronixによるベンチマーク、NVIDIA本社での実施・NVIDIA側がテスト項目を選定)では、幾何平均でAMDの最上位EPYC(Turin/Turin Dense系、EPYC 9575Fなど)に対して約11%、Intelの最上位シングルソケットXeon(Granite Rapids世代、Xeon 6980P)に対して最大55.3%高速という結果です。
一方でコード単体コンパイル(Gem5)の「コアあたり性能」では、AMD EPYC 9575FのみがVeraを上回った項目もあり、全項目で一方的に勝っているわけではありません。
NVIDIAはこれまでサーバー市場でIntel XeonやAMD EPYCと組み合わせて使われるGPUアクセラレータの供給元という立場だったが、Veraによって初めてCPU単体でXeon・EPYCと正面から競合する製品を投入したことになります。
フアン氏は台湾でのぶら下がり取材で、2000億ドル市場の予測には中国市場も含まれるとの認識を示しました。
Vera単体製品の商用提供は2026年秋以降、システムベンダー・クラウドパートナー経由での提供を予定。正式な価格はまだ公表されていません。
導入検討・採用企業としてNYSE、Anthropic、OpenAI、SpaceX、ByteDance、CoreWeave、Lambda、Nebius、Nscale、Oracle Cloud Infrastructure(OCI)などの名前が挙がっており、OCIは数十万個規模の導入を計画していると報じられています。
NVIDIAの2026年5月時点(第1四半期決算)でのサプライチェーンへの発注コミットメントは1190億ドルに達し、前四半期の952億ドルから急増しています。
対抗するAMDは次世代EPYC「Venice」(Zen 6アーキテクチャ)をすでに量産開始、2026年後半の投入を予定です。
対抗するIntelはXeon 6+「Clearwater Forest」(最大288コア、Intel 18Aプロセス)をすでに投入済みで、さらに次世代「Diamond Rapids」も準備中です。
参考データ:AMDは2017年時点でサーバー用CPU市場シェア0%だったが、2026年第1四半期末までに約40%近くまで拡大した実績があり、Intelはこれに対抗してXeon 6の一部モデルで最大30%の値下げを実施しています。
NVIDIAはPC分野でもArmベースCPUへの再挑戦を進めており、Microsoft・Dell・HPと共同でAIエージェント向けPCを展開する計画。ただし2013年のTegraベースSurface RTでは、Microsoftが9億ドルの評価損を計上し、Dellなど他のパートナーも撤退した過去があります。
ベンチマーク比較
| 項目 | NVIDIA Vera | AMD EPYC(Turin系最上位) | Intel Xeon(Granite Rapids最上位・単一ソケット) |
|---|---|---|---|
| 幾何平均性能(Phoronix計測) | 基準 | Veraが約11%上回る | Veraが約55.3%上回る |
| コア/スレッド数 | 88コア/176スレッド | モデルによる(例:EPYC 9575F) | モデルによる(例:Xeon 6980P) |
| アーキテクチャ | 独自Arm互換(Olympus) | x86 | x86 |
| コード単体コンパイル性能(コアあたり) | — | EPYC 9575Fが上回る項目あり | — |
※NVIDIA主催・NVIDIA選定のテスト項目に基づく結果である旨の注記を推奨
■解説
そもそも今回の発表を「NVIDIAのCPUがAMD EPYCやIntel Xeonを打ち負かした」という単純な性能比較として読むのは筋が悪いという前提から入る。
VeraとRubin GPUを繋ぐNVLink-C2Cは完全にNVIDIA独自の技術で、AMDのCPUやIntelのCPUと物理的に組み合わせることができない設計になっている。
つまりVera Rubinは「CPU単体を選んで買う」製品ではなく、CPU・GPU・ネットワークまで含めた「システム一式」として売られる製品だという点がまず大前提だ。
同様にAMDも自社GPU(MI400系)とEPYC CPUを組み合わせた独自のラックシステム「Helios」を投入予定で、要するにこれはCPU単体の椅子取りゲームではなく「どの陣営のフルスタックを丸ごと買うか」という囲い込み合戦という理解が実態に近い。
なので「NVIDIA CPU+AMD GPU」や「AMD CPU+NVIDIA GPU」のような組み合わせは、新規の大規模導入ではほぼあり得ないというのが現実的な見立てだ。
唯一Intelにわずかながら分があるとすれば、既存データセンターに広く残っている「Intel XeonホストにPCIe接続でNVIDIA GPUを挿す」という従来型構成が当面残ること。ただしこれも新規の大型投資では今後先細りしていく構成だ。
ベンチマーク数値(PhoronixがNVIDIA本社でNVIDIA選定の項目のみ計測した結果)についても、そもそもテスト条件をNVIDIA側が選んでいる時点で「Veraが勝ちやすい土俵での結果」である可能性が高く、数字を鵜呑みにするのは危険という視点を忘れずに。
ここで新規に大型のAI基盤投資をする場合のTCOの話に踏み込む:単体のFLOPS/ドルだけでなく、CUDAという20年近い歴史を持つソフトウェア資産・開発者の習熟度・検証済みライブラリの充実度まで含めたコストで見る必要がある。
AMDのMI350X/MI400系はスペック上NVIDIAに匹敵する数字を出すこともあるが、ROCmのエコシステム成熟度がCUDAに追いついていない以上、実運用での移植・チューニングコストが結局乗ってくる。
市場規模で見ても、AI アクセラレータ市場でのNVIDIAとAMDの売上比はおおよそ10倍前後の差があり、「TCOで見ても新規投資はほぼNVIDIA一択」という結論はそこまで乱暴な話ではない。
Intelについてはさらに厳しく、AI専用アクセラレータ「Gaudi」はそもそもNVIDIAのNVL72に相当する「ラック単位でコヒーレントに統合されたシステム」を出したことがなく、比較の土俵にすら立てていないというのが実態だ。
Intel自身の次世代ロードマップも「Crescent Island」という単体GPUの話にとどまっており、ラックスケール統合という土俵に乗ってくるのはまだ先の話だ。
なので「AMDはNVIDIAの10分の1、Intelは100分の1」という規模感の話ですらなく、Intelに関してはそもそも同じ競技に出場していないと表現する方が正確だ。
こうして整理すると、NVIDIAが「2000億ドルの新市場」と言っているのは、AMD・Intelという既存プレイヤーからシェアを奪うという意味ではなく、AIエージェント時代に新規で組まれる予算そのものを陣営ごと総取りしにいっているという構図として読むのが妥当だ。
CUDAロックインという既存の強みが、CPU〜GPU間の物理的な結合(NVLink-C2C)という形でハードウェアレベルにまで拡張されてきているのが今回のVeraの本質的なポイントだ。
NVIDIAのArmベースCPU戦略は2013年のSurface RTで一度大コケしている過去があり、「二度あることは三度目の正直になるのか」という皮肉めいた視点は引き続き有効だ。
結局のところ今回の話は「CPU性能でIntel・AMDに勝った」という矮小な話ではなく、「AI基盤という椅子取りゲームで、Intelはそもそも椅子取りに参加すらできていない」という、もう少し身も蓋もない現実を示す出来事だったと言えそうだ。