
■事実
AMDが次世代グラフィックス「RDNA 4m」(GFX 11.7)の全ファームウェアバイナリをlinux-firmware.gitリポジトリにアップロードしました。
公開されたのはGFX 11.7.0およびGFX 11.7.1向けファームウェアです。(GFX 11.7.2は今回未公開)
同時にセキュリティファームウェアPSP 15.0.0/15.0.9、SDMAエンジンファームウェアSDMA 6.1.4、動画処理エンジンVPE 2.0.0のバイナリも公開されました。
これらが一斉公開されたことから、新型のVPE 2.0動画処理エンジンとDCN 4.2ディスプレイエンジンの搭載が示唆されています。
AMDは従来、ファームウェアバイナリを製品発売時または発売後に公開するのが通例でした。
今回は発売前の段階での公開であり、Linuxディストリビューション側が事前にパッケージ化して提供できる体制を整えやすくなります。
GFX 11.7(RDNA 4m)は、RDNA 3.5(GFX 11.5)とRDNA 4(GFX 12.0)の間に位置づけられるアーキテクチャです・
RDNA 4mは、Zen 6アーキテクチャベースのRyzen 500「Medusa Point」APUに搭載される見込みとされています。
AMDはRDNA 4mを搭載する具体的なAPU製品名・仕様・発売時期については公式発表していません。
比較表
| 項目 | RDNA 3.5(GFX11.5) | RDNA 4m(GFX11.7) | RDNA 4(GFX12.0) |
|---|---|---|---|
| 主な搭載製品 | Ryzen AI 300/400系iGPU、ROG Xbox Ally X、 Legion Go 2など | Ryzen 500「Medusa Point」iGPU (見込み) | Radeon RX 9000シリーズ (デスクトップdGPU) |
| FP8/BF8変換 | 非対応 | 対応 | 対応 |
| WMMA/SWMMAC命令 | 非対応 | 対応(追加) | 対応 |
| FSR4系アップスケーラ | 非公式(INT8版・Mod経由)、2026年7月から 公式FSR4.1(INT8)提供開始 | ネイティブ対応の可能性(FP8) | ネイティブ対応(公式) |
| 世代的位置づけ | 前世代 | 過渡的・ハイブリッド | 最新世代 |
*RDNA4mの仕様はLLVM/Mesaパッチから判明した内容の集約。AMD公式発表ではない。
ソース
- https://www.phoronix.com/news/AMD-RDNA-4m-Firmware-Published
解説
「RDNA 4m」という名称自体、当初は単なるマーケティング的リブランディングではとの見方もあった。GFX11系(RDNA3系統)でありながら「4m」を名乗る違和感から、ドイツのComputerBaseは「RDNA 3.75」という呼び方すら提案していた。
しかしWMMA/SWMMAC命令やFP8/BF8変換のサポートが確認されたことで、単なる名前だけでなく実質的にRDNA4寄りの機能を持つハイブリッド設計であることが裏付けられた。
この文脈を理解するには、AMDのFSR4を巡る混乱を振り返る必要がある。AMDは当初FSR4をRDNA4専用(RX 9000シリーズのみ)とし、旧世代ユーザーから強い反発を受けた。
結局AMDは2026年7月からRX 7000シリーズ向けにINT8版FSR4.1を公式提供開始、RX 6000シリーズにも2027年初頭に拡大予定と方針転換した。
つまりRDNA4mは「AI処理ブロックを持たないAPUにもFSR4級のアップスケーラを載せたい」というAMDの願望と、実際のダイ面積・コストの制約の折り合いをつけるための妥協案と読み解ける。
今回の前倒しファームウェア公開は、過去のRDNA4デスクトップGPU(RX 9070/9070 XT)で見せた「発売日にほぼ完全なLinuxサポート」という近年のAMDの姿勢の延長線上にある。
現行のROG Xbox Ally XやLegion Go 2はRDNA3.5搭載でFSR4非対応という制約を抱えている。Medusa Point世代でRDNA4m相当のFSR4対応が実現すれば、次世代ハンドヘルド機にとって大きな訴求材料になる。
もっとも、この種のニュースに実感を持てるのはLinux/SteamOS環境のユーザーに限られる。Windows環境が大多数を占める一般消費者にとっては、正直なところ体感できる変化ではない。
興味深いのは、Medusa Pointの搭載GPUを巡るリーク情報がこれまで何度も二転三転してきた点。「RDNA3.5のまま」という悲観的リークと、「MLIDリークによるNavi4(RDNA4)搭載説」が交互に浮上しては消えている。今回の「RDNA4m」という第三の答えは、その振れ幅の間を突く着地点とも言える。
筆者のROCm観(公式ロードマップと実際のnightlyビルドの乖離=建前と本音の二重構造)とも重なる構図がある。ゲーム用ドライバではAMDのオープンソース戦略はむしろ評価が高いのに対し、AI/computeのROCmでは同じ「実態は公式発表より先行/乖離している」構図でも評価が逆転している点は対比材料になりうる。
チップの名前に「m」を付けるのは今回が初めてではないが、AMDのコードネーム命名センスはそろそろ何かに頼りすぎている気がする。
ドライバのコミットログを読む方が、公式ロードマップより正直な未来予想図になっている。