
はじめに
テック系YouTubeチャンネル「Moore's Law is Dead」のポッドキャスト「Broken Silicon」に、10年以上の国防業界経験を持つ電気・RF技術者マット氏が登場した。彼は米国政府で8年、民間防衛企業で2年の経験を持ち、通信システム、レーダー、電子戦などを専門とする。今回は現在進行中のDRAM不足が国防分野に与える影響、そしてCES 2026で発表予定のAMD Ryzen 9850X3DやIntel Panther Lakeへの期待について詳しく語った。
DRAM不足が防衛予算に与える深刻な影響
マット氏によれば、DDR5の価格高騰は防衛関連組織の予算に直接的な打撃を与えている。政府のIT基盤コスト、つまり職員が日常業務に使うコンピューター、VoIPシステムなどの基本コストが上昇しているのだ。
「DDR5価格の上昇により、基本的なITコストが増加しました。これは各軍事部門や組織が議会承認を得る予算提案に影響します。基本コストが増えれば、実際の任務遂行、研究開発、エンジニアリング、調達に使える資金が減少するのです」とマット氏は説明する。
さらに深刻なのは、防衛予算には「資金プールの奪い合い」という側面があることだ。様々な組織が限られた予算を巡って提案を競い合うが、全体的な資金が減れば、採択されるプログラムの数も減少する。重要なのは、DDR5を直接使用しないプログラムでさえ、この影響を受けるという点だ。
マット氏は「HP、Dellなどの主要エンタープライズベンダーが今年の値上げを発表していないため、まだ影響の本格化は感じていませんが、サーバー、ノートパソコン、すべてで価格上昇が段階的に来ると予想しています。非常に近い将来です」と警告した。
サプライチェーン攻撃の危険性
マット氏は、部品不足が国家安全保障にもたらす別の脅威についても警告した。それはサプライチェーン攻撃の機会が増えることだ。
「不足が発生すると、人々は安い取引を探し始めます。もし敵対国が中間者攻撃を仕掛けたいなら、システムを格安で提供することで実行できます」
彼はイスラエルのポケベル事件を例に挙げた。「ああ、ポケベルが大量に安く手に入る。なぜ安いのか?」という状況だ。これは米国が他国に対して行う可能性もある戦術だという。中国向けのNvidiaグラフィックスカードを例に、「ベトナムの卸売業者を装ったCIA工作員が5090を格安で販売する」というシナリオも容易に想像できると指摘した。
政府調達の複雑な現実
防衛産業における調達プロセスの複雑さについて、マット氏は率直に語った。
「最大の違いは、大量の形式的手続きがあることです。政府が入札を募集し、選択し、サプライヤーを評価する方法を定めた法律のリストがあります。このプロセスは非常に長期化する可能性があります」
彼によれば、政府と取引できる企業は限られており、外国企業との取引も制限される。これによりコストが上昇し、プロセスが遅延する。官僚主義は遅く、大きなオーバーヘッドを伴うため、すべてが高額で時間がかかるのだ。
興味深いことに、マット氏は官僚主義の問題点を指摘しつつも、その存在理由も説明した。「意図は良いのですが、問題がいくつかあります。現在、政府が構築されているのは監査プロセスを中心にしています。良いアイデアかどうかに関わらず、ほとんどの手続きは監査を通過するために存在しています」
本来は調達を支援するために官僚機構が作られたはずだが、時間とともに役割が逆転し、現在では調達が官僚機構の型に合わせなければならなくなっているという。
IntelとAMDの勢力図の変化
マット氏は、政府のITニーズにおける最大の要因は「数量とコスト効率」だと説明した。長年、Intelはこの面で優れていたが、AMDのZen世代とThreadripperの登場で状況が変わった。
「私は政府調達チェーンの外に出て、AMDシステムを購入する例外措置を取りました。Intelシステムを購入すれば税金の無駄遣いになり、より悪いシステムにより多くのコストがかかり、私の時間も無駄になると正当化したのです」
現在では、サーバーや計算クラスター向けにはAMDがほぼ支配的だという。「サーバーやコンピュータークラスター系は、ほぼAMDに支配されています」とマット氏は断言した。
日常のオフィスマシンではまだIntelが多いが、AMD Ryzenシステムも増えている。DellやHP Enterpriseが提供するようになったからだ。ただし供給量が限られているため、契約の大部分は依然としてIntel製品が占めている。
マット氏は自身がHP ZBook G1A(Strix Halo搭載)について言及し、「Strix Haloがプレミアムなワークステーション型ラップトップの選択肢になっています」と評価した。
重要なのは、AMDの競争力がIntelの製品改善も促したという点だ。「かつての終わりなきクアッドコア停滞から脱却しました。10年前のIntelの最安値製品はひどいものでしたが、現在はその最低ラインがはるかに高くなり、毎年改善されています。IntelかAMDかに関わらず、製品が良くなったことで全体的に生産性が向上しました」
AI技術の軍事利用の実態
消費者向けに宣伝されるチャットボットとは異なり、防衛分野でのAI活用は大きく異なるとマット氏は強調した。
「LLMではありますが、チャットボットではありません。大きな影響を与えているのは情報収集、特に諜報データ内のパターンを探すことです」
信号情報(SIGINT)の量は膨大で、すべてのデータを精査するアナリストが十分にいない。AIは物体認識、追跡、関心のある信号の発見、膨大な通話データの分析などに使われている。
また、エンジニアリングの最適化にも大きな役割を果たしている。例えば航空機の空力特性とステルス性のバランスを最適化する際、AIは人間が従来の数学ツールや設計原則では思いつかないような解決策を見つけ出すという。「AIはさまざまなパラメータの組み合わせを試して問題を最適化するため、人間が考えるような設計にはならず、全く異質なものになりますが、非常に優れた性能を持っています」
さらに、ウォーゲーミング(戦争シミュレーション)にも広く使われている。「コンピューター上のリアルタイムストラテジーゲームのようなものですが、実際の性能パラメータを使用します。どうやって敵との戦闘に勝ち、最短時間で最大の殺傷力を発揮し、最小の犠牲者で済ませるか、最適化したい動作パラメータに応じて戦うのです」
マット氏は自身の会社がプライベートなOpenAIモデルのエンクレーブにアクセスできることにも言及した。「政府の機密データを入力できます。公開のChatGPTには入れられませんが、会社のローカルサーバーでホストされているChatGPT-4を使えます」
ただし、AIの有効活用には批判的思考力が不可欠だと警告した。「AIが嘘をついているときを見抜き、誤った方向に導かれているときに気づく必要があります。AIが提供する解決策を分析する意欲が必要です。そうでなければ、自分が理解していないシステムを実装することになり、トラブルに巻き込まれます」
AMD Ryzen 9850X3D:RAM不足時代の救世主
CES 2026で発表予定のAMD Ryzen 9850X3Dについて、マット氏は大きな期待を寄せた。特にDRAM不足の状況において、3D V-Cache技術が重要な意味を持つと指摘した。
「9850X3DはAMDにとって優れたマーケティングポイントです。RAM不足の世界で、3D V-Cacheがあれば最速のRAMをデスクトップに搭載する必要がないと言えるからです」
さらに重要なのは、将来的な拡張性だ。「来年、最速のRAMを入手したい場合でも、このチップは来年の高速RAMを使えます」とマット氏は説明する。
実用的なアドバイスとして、マット氏は「今年ゲーミングPCを組むなら、V-Cacheチップを勧めます。最速のRAMは必要なく、より遅い、価格高騰が少ないものを買えばいいのです」と述べた。
ホストも補足し、「9850X3Dなら16GBのDDR5シングルスティックで済ませられ、年末に価格が妥当になったらアップグレードできます。DDR5-9000でも素晴らしく動作するでしょう。ちなみに、それでもIntelのどの製品よりゲーミング性能で35〜40%速いはずです」と付け加えた。
これは、RAM不足と価格高騰という現実的な問題に対する、AMDの技術的な解決策として評価されている。
Intel Panther Lake:信頼回復への道
Intel Panther Lakeについて、マット氏は何が必要かについて明確な意見を持っていた。重要なのは、単純なベンチマーク性能ではないという。
「Intelはゲーミングやシングルスレッド性能でAMDを打ち負かす必要はないと思います。Raptor Lakeでその設計を限界まで押し上げて自滅しました。どんな指標でも2位を受け入れられなかったからです。しかし誰も気にしていません」
マット氏が強調したのは、基本的な要素の確実性だ。「本当に注力すべきは基本です。バッテリー寿命、効率の向上です。これは常にあらゆるシステムにとって優れた売りポイントです」
特に深刻な問題として、iGPUのドライバーサポート不足を挙げた。「現在、統合グラフィックスの新しいドライバーサポートがないRaptor Lakeのリブランド品を販売しており、これはばかげています」
マット氏自身、現在使用しているIntelラップトップのGPUがサポート終了していることに不満を表明した。「私の現在のIntelラップトップは、GPUがサポート終了しています。これはAMDマシンでは起きていません。レガシーであっても、優れたドライバーサポートがまだあり、アップデートを受けています」
さらに、IntelがNvidiaとのパートナーシップを発表したことについても懸念を示した。「将来のAPUにNvidia GPUを搭載すると発表しましたが、これは長期的なサポートへの信頼を与えません。彼らは『Panther Lakeを2年後にサポート停止するわけではない』と明言する必要があります」
マット氏が求める具体的な改善点は以下の通りだ:
- ハイブリッドコアアプローチを機能させる:「eコアは嫌いです。エンジニアとして私には異なる要件があります。平均的な消費者にはおそらく問題ないでしょうが、とにかく機能する必要があります」
- iGPUドライバーを優れたものにする:長期的なサポートの約束が必要
- バッテリー寿命の向上:プラットフォーム全体での消費電力削減
- グラフィックス戦略の明確化:「CESで最も重要なことは、グラフィックスに関する混乱を解消することです。嘘をつくのをやめてもらえますか?」
マット氏は個人的な購買意欲についても語った。「もし彼らがiGPUのサポートに関する私の懸念を和らげてくれれば、おそらく購入をためらわないでしょう。最速である必要はありません。私にとってはバッテリー寿命と、優れた堅実な設計で効率的であること、そしてサポートされることです。それが私が求めているすべてです」
CES 2026への期待と展望
マット氏は、DRAM不足がCESへの期待感を減退させたと正直に認めた。「DDR5不足のせいで、かなり意欲が削がれました。このハードウェアに興奮できるかもしれませんが、RAMが入手できないか、欲しいおもちゃが高価で手の届かないものになっているなら、楽しくありません」
それでも、いくつかの明るい話題もある。特にディスプレイ技術については楽観的だ。「OLEDディスプレイがいくつか登場します。モニターはより良く、より安くなっています。それは常に私にとって刺激的です」
実際、マット氏は「2026年はシステムではなくモニターをアップグレードする年になりそうです」と述べ、最近のディスプレイ技術の進歩を高く評価した。「Samsungは第4世代の量子ドットを出しています。すべて素晴らしいものです。前世代の価格が下がることを意味します。RAMが買えないなら、モニターを買いましょう。素晴らしいですよ」
不確実性の時代における製品発表について、マット氏は明確性の重要性を強調した。ホストがLeo from Gruと引用して述べたように、理想的なのは「これが新しいRyzen AI 388 Strix Haloラップトップです。8コア、40コンピュートユニット、価格は1,500ドル(または1,200ドル、2,000ドル)で、この日に発売されます」という明確な発表だ。
「市場の不確実性の中で、製品発表における確実性を示す企業が好意を得るでしょう。価格が希望より100ドル高くても、500ドル高くても、価格と発売日が分かっていて本当なら、それは彼らに多くの信頼をもたらすと思います」とマット氏は同意した。
まとめ
DRAM不足は単なる消費者問題ではなく、国家安全保障に直接的な影響を与える重大事だ。防衛予算の圧迫、サプライチェーン攻撃のリスク増大、そして重要なプログラムへの資金配分の困難化など、その影響は多岐にわたる。
CES 2026で発表される製品では、AMD Ryzen 9850X3Dが3D V-Cache技術により、RAM不足時代の現実的な解決策として期待されている。一方、Intel Panther Lakeは、ベンチマーク性能よりも基本的な信頼性、バッテリー寿命、長期的なドライバーサポートで信頼を回復する必要がある。
技術面では、AMDの台頭により政府システムの選択肢が広がり、Intel製品の質も向上した。AI技術は防衛分野で重要な役割を果たしているが、消費者向けとは全く異なる用途—情報収集、エンジニアリング最適化、ウォーゲーミング—で使われている。
最終的に、マット氏のメッセージは明確だ。ハードウェア市場の変動や企業の行動に不満があるなら、消費者保護や規制を重視する政治家に投票することが最も効果的な解決策だということだ。個人の小さな行動よりも、政治的手段を通じた変革の方が、はるかに大きな影響を与えるのである。
そして、RAM不足の中でも、ディスプレイ技術の進歩という明るい話題があることを忘れてはならない。2026年は「モニターをアップグレードする年」になるかもしれない。