■事実
OptiScaler FSR 4 INT8 4.0.2b — RDNA 2向けアップデートの概要
アップスケーラー差し替えツール「OptiScaler」の開発チームが2026年3月19日、RDNA 2(Radeon RX 6000シリーズ)向けにFSR(FidelityFX Super Resolution)4 INT8の新版「4.0.2b」をリリースした(https://github.com/optiscaler/OptiScaler)。
OptiScalerはDLSS(Deep Learning Super Sampling)、FSR、XeSS(Xe Super Sampling)に対応したゲームでアップスケーラーを差し替え・注入できるコミュニティ製のオープンソースツールだ。
今回のアップデートはRDNA 2ユーザーにとって2点の大きな改善をもたらした。
1点目はゴースティング問題の大幅改善だ。 RX 6000シリーズで使用した際に発生していた、動くオブジェクト周辺への残像やハロー現象がこれまで顕著に出ていたが、4.0.2bでは「大幅に改善された(または少なくとも有意に軽減された)」とアナウンスされている。
2点目は最新Adrenalinドライバへの正式対応だ。 従来のINT8ビルドでは最新ドライバとの互換性がなかったため、ユーザーは2023年リリースの改造済み旧ドライバを使い続けるしかなかった。 今回の4.0.2bでは最新のAdrenalinドライバ(記事執筆時点では26.2.2)での動作が確認されており、旧ドライバへのダウングレードが不要になった。
開発チームのDiscordアナウンスでは以下のように説明している。 「RDNA 2のゴースティングを修正(または大幅改善)。最新ドライバで動作する。Windowsで古い改造ドライバが不要になった。他アーキテクチャ向けには変更なし」
ただし同アナウンスでは「すべてのゴースティングが解消されるわけではない」とも注記されており、ゲームによって結果は異なる可能性がある。
Redditのコミュニティでは、旧版INT8ビルドが最新ドライバ環境下でアーティファクトを引き起こすことが問題視されていた。 今回のアップデートでその制約が撤廃されたことで、ユーザーの反応は概ね好意的だ。
FSR 4 INT8の技術的背景
AMDの公式FSR 4はRDNA 4(Radeon RX 9000シリーズ)専用として提供されており、FP8演算のハードウェアアクセラレーションユニット(WMMA命令)を活用している。 このハードウェアユニットはRDNA 2/3には搭載されていない。
一方、INT8演算はDP4a命令として多くのGPUで広く使用されており、RDNA 2/3でも動作する。 FSR 4のINT8版ビルドは、2025年夏にAMDが誤って公開したドライバに含まれていたことでその存在が明るみに出た。 このリークにより、RDNA 2/3でもFSR 4が技術的に動作することが証明されていた。
性能面では、RDNA 4がFP8ハードウェアアクセラレーションによって高速処理できるのに対し、RDNA 2でINT8版FSR 4を使用した場合はFSR 3.1比で10〜20%の性能低下が報告されていた。 今回の4.0.2bでは、このパフォーマンスオーバーヘッドも大幅に削減されたとされる。
RDNA 3(RX 7000シリーズ)はFP8演算の部分的なサポートを持つが、AMDはRDNA 2/3の両アーキテクチャをFSR 4の公式サポート対象から除外している。
OptiScalerの最近のFSR 4対応拡張
OptiScalerは直近1ヶ月でも精力的にFSR 4対応を拡張している。
RDNA 2/3向けINT8対応のほかに、先月はVulkanベースのゲームへのFSR 4対応も追加した。 AMD公式のFSR 4は現時点でVulkanタイトルに未対応だが、OptiScalerはDOOM: The Dark AgesやIndiana Jones and the Great Circleなど、VulkanかつマンダトリーRTを採用したタイトルへの対応を実現している。
ただしOptiScalerの開発チームは、今後リリース予定のFSR 4.1については明確に線引きをしている。 FSR 4.1のINT8対応について問われた際、チームは「AMDが公式に実装しない限り、INT8対応は行わない」と回答している。
AMDの公式スタンスと沈黙
AMDはFSR 4をRDNA 4専用技術として位置づけており、RDNA 2/3向けFSR 4 INT8の正式サポートについての回答は2026年2月時点でも「現時点で共有できるアップデートはない」という一言にとどまっている。
2025年12月にリリースされたFSR「Redstone」アップデートでは、MLベースのフレーム生成やレイ再構成などの新機能が追加されたが、FSR 4 INT8は含まれなかった。 Redstone公開時の互換性表では、RDNA 2/3向けアップスケーラーは依然「FSR 3.1(アナリティカル)」のみとされている。
AMDは2025年後半に旧世代GPUのドライバ方針を変更し、RDNA 2以前のGPUをセキュリティアップデートと不具合修正のみを受け取る「メンテナンスモード」に段階的に移行させた。 FSR 4のような新機能は事実上RDNA 4ユーザーのみに提供される形となっている。
一方NVIDIAは、CES 2026においてDLSS 4.5を発表し、2018年発売のRTX 2000シリーズにまでさかのぼって対応を提供している。 FP8アクセラレーションはRTX 4000シリーズ以降に限られるが、旧世代ユーザーにも選択肢を与えている点が対照的だ。
解説
正直に言って、今回のOptiScaler 4.0.2bリリースは「AMDが本来やるべきことをコミュニティが肩代わりした」という構図をまた一度見せられた出来事でした。
AMDがINT8ビルドをうっかりリークした時点で、技術的な実現可能性はすでに証明されていました。 ゴースティングが残っていたのも、パフォーマンスが低下していたのも、AMDが最適化に手を入れていないからです。 その穴をコミュニティが埋め、しかも古い改造ドライバが不要になるというドライバ互換性の問題まで解決してしまった。 「AMDがやらないなら俺たちがやる」という精神は見事ですが、これはAMDにとって相当恥ずかしい状況でもあります。
NVIDIAとの対比が痛すぎる
今回の騒動でもっともダメージが大きいのは、NVIDIAとの対比がまざまざと浮かび上がる点です。
NVIDIAはDLSS 4.5を2018年発売のRTX 2000シリーズにまで提供しています。 古いGPUでFP8アクセラレーションが使えないのはDLSSも同じ事情で、それでもNVIDIAはユーザーに「選択肢」を与えています。 パフォーマンスが落ちるかもしれないが使いたければ使える——この姿勢がユーザーの信頼につながっています。
AMDはその選択肢すら用意していない。 技術的に動作することがリークで証明され、コミュニティが実装し、ゴースティングまで直してしまったにもかかわらず、AMDは「現時点で共有できるアップデートはない」と繰り返すだけです。
これはビジネス決断であって、技術的制約ではない
個人的には、RDNA 2/3へのFSR 4対応除外はビジネス上の意思決定だと見ています。
RX 9000シリーズへの差別化要素としてFSR 4を囲い込みたい意図があるのでしょう。 しかしその判断が、ブランドへのダメージという形で跳ね返ってきています。
「7900 XTXが自分の初めてのAMD製品であり最後にもなった。NVIDIAも好きではないが、少なくともドライバサポートと新機能が長期間続くことは分かっている」——こういった声がRedditで多数見られます。 これはAMDが長年かけて積み上げてきたユーザーからの信頼が崩れつつあることの証左です。
RDNA 2のFSR 4非対応を「技術的な判断」として説明しようとしたAMDの論理は、コミュニティが4.0.2bをリリースした時点で完全に崩壊しました。 「品質が不十分だから提供しない」というAMDの主張も、OptiScalerがゴースティングまで直してしまった今となっては説得力がありません。
Steam Machineへの余波
個人的に気になっているのは、Valve Steam Machineとの関係です。
Steam MachineはRDNA 2ベースのAPUを採用する見通しですが、FSR 4 INT8の公式サポートなしにリリースされる可能性があります。 OptiScalerのようなサードパーティツールなしではFSR 4が使えない状況が続くとすれば、Steam Machine向けのゲーム体験にも影響が出るはずです。 ValveとAMDがこの問題に正式な回答を出すのかどうか、注視が必要でしょう。
OptiScalerへの敬意と問われるAMDの覚悟
OptiScalerコミュニティの貢献は純粋に素晴らしいと思います。 公式サポートが途切れたユーザーに対して、ゴースティング修正・ドライバ互換性改善・Vulkan対応拡張と、次々に問題を解決してきた。 このコミュニティがなければ、RDNA 2ユーザーはFSR 3.1で打ち止めになっていました。
一方で、非公式ツールに頼り続けなければならない現状はAMDのブランドを静かに傷つけ続けています。 AMDがコミュニティの後追いを続ける限り、「Radeonを買っても新技術はどうせ使えない」という印象が定着していくでしょう。
コミュニティがAMDの代わりにAMDユーザーを救い続ける——この構図が続く限り、Radeonへの不信感は積み重なっていくばかりです。
当サイトはZludaやpip版ROCmのセットアップバッチファイルを公開し、メジャーとは言えない環境でのAMD GPUによる生成AI活用を後押ししてきました。 Radeonを貶したいわけでは、まったくありません。
だからこそ言いたいのですが、FSR 4をRDNA 2/3に提供しないという判断は、長い目で見てAMDとRadeonというブランドにとって確実にマイナスに働きます。 この事実に早く気づいて、きちんと公式サポートとして展開してほしいと切に願います。

