
マルチフレーム生成の現状とMODの登場
マルチフレーム生成(Multi Frame Generation、MFG)は、GPU業界における最新のパフォーマンス向上技術だ。
現在、NvidiaはRTX 5000シリーズでのみこの機能を提供している。
IntelはPanther LakeのArc B統合GPUにMFGドライバーを提供したが、Arc B搭載ディスクリートGPUへの対応はまだ実現していない。
つまり、消費者向けGPUでMFGを利用できるのは、事実上Nvidiaだけという状況だ。
RTX 2000シリーズやRTX 3000シリーズのユーザーは、DLSSフレーム生成すら使えない。
FSRフレーム生成やLossless Scalingのようなサードパーティツールに頼るしかない。
RTX 4000シリーズユーザーはフレーム生成を利用できるが、2倍生成に限定されている。
こうした状況の中、MOD開発者たちは独自の解決策を模索してきた。
DLSS Enabler 4は、その最新の成果だ。
このMODは、FSR 3.1フレーム生成の上に3倍および4倍のマルチフレーム生成を実装している。
特筆すべきは、制御可能なレンダリングパイプラインとしてフレーム生成を扱っている点だ。
従来のブラックボックス的アプローチとは異なり、より細かな制御が可能となっている。
DLSS Enabler 4の主要機能
DLSS Enabler 4は、いくつかの革新的な機能を提供する。
まず、FSR 3.1マルチフレーム生成が実装されている。
これは、3倍および4倍のフレーム生成を可能にする。
コンテキスト認識型の補間アーティファクト防止機能も搭載している。
重要なのは、ポストフィルタリングではなく、フレーム生成パイプラインに入る前にアーティファクトを解決するアプローチだ。
半透明HUD要素の特殊処理も実装されている。
ゲーム内のインターフェース要素が、フレーム生成によって崩れることを防ぐ。
アダプティブフレーム生成機能も含まれる。
ランタイムでのアップスケーラー切り替えにも対応している。
プロジェクトは完全に無料で、誰でもアクセス可能だ。
現時点では、NvidiaGPUで最も安定して動作する。
インストールの問題もほとんど発生しない。
ただし、Nvidia GPUでこのMODを使う意味はあまりない。
公式のDLSSフレーム生成が既に利用できるためだ。
AMD・IntelGPUへのサポートは現在も積極的に開発・改良中だが、基本的には動作する。
インストール方法と注意点
DLSS Enabler 4のインストールは、やや複雑なプロセスを要する。
まず、Nexus ModsからLSS Enabler 3.02をダウンロードする必要がある。
次に、LSS Enabler 4.0.0.4テクニカルプレビューの更新ファイルをダウンロードする。
3.03ベータインストーラーには新しいOptiscalerが含まれているが、動作しないケースが多い。
したがって、3.02バージョンを使用することが推奨される。
インストール手順は、Optiscalerと同様の方法だ。
MODにはOptiscalerが同梱されている。
ゲームフォルダのbin\x64ディレクトリにインストールする。
Cyberpunk 2077の場合、version.dllではなくwinmm.dllとしてインストールすることが推奨される。
AMD・IntelGPUを使用する場合は、インストール時に「AMD・IntelGPUサポートを有効化」を選択する。
Nvidia GPUユーザーはこのオプションを選択してはいけない。
LSS Enabler 3をインストール後、LSS Enabler 4のzipファイルを展開する。
ファイル名をwinmm.dllに変更し、ゲームフォルダにコピーして置き換える。
ただし、そのままでは動作しないケースがある。
ゲーム起動時に、DXGI.dllファイルとの競合が発生する可能性がある。
その場合、競合するDXGI.dllファイルを削除する必要がある。
Cyberpunk 2077では、起動時にフラットライン(クラッシュ)が頻繁に発生する。
何度も試行を繰り返す必要がある場合が多い。
これは、あくまで実験的なMODであるためだ。
どうしても起動しない場合は、「Nvidiaシグネチャチェックを無効化」する必要がある。
レジストリファイルを実行し、NvidiaのDLL署名チェックを無効にすることで、MOD動作が可能になる。
AMD Radeon 26.1.1ドライバーには問題があるという報告もある。
25.12.1ドライバーの使用が推奨される場合がある。
実際の動作とパフォーマンス

ゲーム内でDLSS Enabler 4を使用する際、2つのキーコンビネーションが利用できる。
Insertキーを押すと、Optiscalerメニューが開く。
Optiscalerは統合されているため、アップスケーラーの設定が可能だ。
マルチフレーム生成オプションが表示されない場合、Optiscalerのフレーム生成設定で「FSR FG via DLSSG」を選択する必要がある。
これが最初のステップとなる。
もう1つのキーコンビネーション(キーボードレイアウトにより異なる)で、新しいメニューが表示される。
このメニューには、アダプティブフレーム生成、VSync、FPS制限、スクリーンスペースレイトレーシングなどのオプションがある。
ステータスバーを有効にすると、画面上にFPSとフレーム生成出力が表示される。
これにより、現在のパフォーマンス状況を常時確認できる。
スクリーンスペースレイトレーシングは、特に注目すべき機能だ。
有効にすると、グラフィックスが即座に改善される。
FPSへの影響は比較的小さい。
例えば、141-142 FPSで動作していた状態から、レイトレーシング有効化後でも大きな低下は見られない。
特に、車などの反射表面での改善が顕著だ。
オクルージョン、ライティング、シャドウの品質が大幅に向上する。
特にアンビエントオクルージョンの改善は目覚ましい。
ゲーム内のレイトレーシング設定と併用することも可能だ。
LSS Enablerのスクリーンスペースレイトレーシングは、ゲーム内設定を無効にしても機能する。
床や壁の描画品質が大幅に向上し、反射も改善される。
197 FPSから177 FPSへの低下という、比較的小さなパフォーマンスコストで、大きな視覚的改善が得られる。
マルチフレーム生成の画質とパフォーマンストレードオフ
4倍マルチフレーム生成を使用すると、期待される画質向上は得られない。
車輪などの動く物体で、顕著なモーションアーティファクトが発生する。
FSRアルゴリズムは機械学習を使用していないため、4倍生成時の品質低下は避けられない。
Lossless Scalingを使用する場合よりも悪化するケースもある。
したがって、4倍生成は実用的とは言い難い。
3倍マルチフレーム生成の場合、状況は若干改善される。
しかし、奇数倍の生成であるためか、カメラ移動時にスタッタリングが発生することがある。
特に、レイトレーシングと併用すると顕著だ。
レイトレーシングを使用せず、LSS Enablerのスクリーンスペースレイトレーシングのみを使用する場合、3倍生成は比較的スムーズに動作する。
しかし、ゲーム内レイトレーシングを有効にすると、再びスタッタリングが発生する傾向がある。
車輪のアーティファクトに関しては、3倍生成の方が4倍よりもはるかに良好だ。
日常使用のためのMODとして推奨できるかと言えば、答えは否定的だ。
しかし、DLSS Enabler 4には別の大きな利点がある。
Optiscalerが統合されているため、FSR 4.0.2の使用が可能だ。
FSR 4のINT8バージョンDLLファイルがあれば、RX 7000・RX 6000シリーズでFSR 4を利用できる。
これは、非常に大きな価値がある。
AMD公式がRDNA 3・RDNA 2へのFSR 4サポートを提供していない中、MODによる実現は重要な意味を持つ。
FSR 4の非公式サポートの意義
AMDは公式には、FSR 4をRDNA 4(RX 9000シリーズ)専用としている。
しかし、リークされたFSR 4ソースコードには、RDNA 3向けのINT8実装が含まれていた。
この発見により、MOD開発者たちはRX 7000・RX 6000シリーズでのFSR 4動作を実現した。
WMMA_RDNA3_WORKAROUNDと呼ばれるコマンドを使用することで、RDNA 3でのFSR 4動作が可能になる。
これは、RDNA 4で改善されたマトリックス乗算命令をエミュレートするものと思われる。
RX 6000シリーズでも、ドライバーファイルの簡単なスワップでFSR 4を有効化できる。
具体的には、amdxc32.dllとamdxc64.dllの2つのファイルを、古いAdrenalinドライバー(23.9.1)のものと置き換えるだけだ。
RX 6800でのテストでは、RX 9070と視覚的にほぼ同等の画質が得られたという報告がある。
ゴーストやアーティファクトも最小限に抑えられている。
パフォーマンスへの影響もほとんどない。
これは、公式サポートされていないRDNA 2 GPUで非常に印象的な結果だ。
Valve Steam Deckのような、カスタムRDNA 2 APUを搭載したデバイスでもテストされている。
ここでも結果は好意的で、FSR 4によってより鮮明な映像が得られている。
CPUの制限により生のフレームレートは制約されるものの、画質向上は明確だ。
RDNA 3でのFSR 4使用は、若干異なる結果を示す。
Cyberpunk 2077でのRX 7900 XTXテストでは、画質向上が確認された。
しかし、パフォーマンスへの影響が約35%と大きい。
これは、RDNA 3にWMMAアクセラレータが存在しないためだ。
それでも、XeSSなどの他のアップスケーラーと比較して「はるかに美しい」という評価もある。
既に100fps程度を達成しているゲームでは、パフォーマンス低下を許容できる可能性がある。
アダプティブフレーム生成とFPS制限
DLSS Enabler 4には、アダプティブフレーム生成機能も含まれている。
しかし、この機能は現状では安定して動作しない。
「Auto」と「3倍」の間で切り替わるとされているが、実際には不安定だ。
画面表示が大きく乱れるケースが報告されている。
一方、FPS制限機能は比較的良好に動作する。
例えば、FPS上限を136に設定すると、実際にその値に制限される。
フレームペーシングも良好だ。
最大フレームレートを追求しないことで、レイテンシが実際に減少する。
多くのシナリオで、これは望ましい結果と言える。
ただし、HUD要素の問題は残っている。
これは通常のFSRでも発生する問題であり、マルチフレーム生成特有の問題ではない。
対応ゲームと互換性
DLSS Enabler 4は、DirectX 12をネイティブサポートし、DLSS 2・DLSS 3に対応しているゲームで動作する。
Cyberpunk 2077では、紹介された方法で動作が確認されている。
Titan Quest 2でも、ある程度の動作が確認された。
いくつかの問題はあるものの、基本的には機能する。
ただし、全てのゲームで動作するわけではない。
一部のゲームでは、全く動作しないケースもある。
ゲームによって結果が大きく異なるため、個別のテストが必要だ。
アンチチート機能を持つゲームでは使用できない。
DLLインジェクション技術を使用しているため、アンチチートに検出される可能性がある。
オンラインゲームでの使用は、BANのリスクがあるため推奨されない。
シングルプレイヤー専用ツールとして扱うべきだ。
一部のアンチウイルスソフトウェアは、インストーラーを誤検知する可能性がある。
これは、DLLインジェクション技術を使用しているためだ。
解説

正直に言って、このDLSS Enabler 4というMODは、技術的には非常に興味深いプロジェクトですね。
MOD開発者たちが、公式サポートを待たずに独自の解決策を提供している点は評価に値します。
特に、AMD GPUユーザーにとって、FSR 4やマルチフレーム生成へのアクセスを提供している意義は大きいでしょう。
ただし、現実的な使い勝手という点では、かなり厳しい評価をせざるを得ません。
インストールプロセスが複雑すぎるんですよ。
3.02をインストールして、4.0.0.4を上書きして、ファイル名を変更して、競合ファイルを削除して、という手順は一般ユーザーには敷居が高いです。
Cyberpunk 2077で何度も起動に失敗するというのも、実用性を大きく損ねています。
「5百万回試行した後にようやく起動できた」という表現は冗談混じりでしょうが、実際に安定性に問題があることを示しています。
4倍マルチフレーム生成の画質が実用に耐えないというのも、大きな問題です。
車輪のアーティファクトが顕著に発生するなら、ゲームプレイ体験を損ねます。
フレームレートが上がっても、画質が大きく劣化するなら本末転倒でしょう。
3倍生成でもスタッタリングが発生するということは、フレームペーシングに問題があるということです。
滑らかさを求めてフレーム生成を使うのに、逆にスタッタリングが増えるのでは意味がありません。
「日常使用には推奨しない」という結論は、まさに妥当だと思います。
一方で、スクリーンスペースレイトレーシング機能は非常に魅力的ですね。
197 FPSから177 FPSへの低下という、わずか10%程度のパフォーマンスコストで、大幅な視覚改善が得られるのは素晴らしいです。
特に、アンビエントオクルージョンの改善が顕著というのは、画質重視のユーザーには大きな価値があります。
ゲーム内レイトレーシングを無効にしても、LSS Enablerのスクリーンスペースレイトレーシングで十分な視覚効果が得られるなら、パフォーマンスと画質のバランスが取りやすくなります。
この機能だけでも、MODを試す価値があるかもしれません。
FSR 4の非公式サポートについては、複雑な感情を抱きます。
技術的には素晴らしい成果です。
RX 6000シリーズでRX 9070と同等の画質が得られるというのは、驚くべきことです。
特に、ドライバーファイルの単純なスワップだけで実現できるというのは、エレガントな解決策と言えるでしょう。
しかし、これは同時にAMDの戦略に対する痛烈な批判でもあります。
MOD開発者がこれほど簡単に実現できることを、なぜAMD公式が提供しないのか。
RDNA 2・RDNA 3ユーザーを置き去りにする判断は、理解に苦しみます。
「オープンソース」「プラットフォーム非依存」を掲げてきたAMDの哲学に反しているように見えます。
特に、RX 6000シリーズでパフォーマンスへの影響がほとんどないという報告は重要です。
これは、技術的な制約というよりも、AMDの戦略的判断である可能性を示唆しています。
新製品のセールスポイントとして、FSR 4を独占したいという意図があるのかもしれません。
しかし、これは長期的には悪手だと思います。
既存ユーザーを大切にしない姿勢は、ブランドロイヤルティを損ねます。
Nvidiaが少なくともRTX 2000シリーズ以降に多くの機能を提供している中、AMDがRDNA 4だけに制限するのは競争力を失います。
Steam Deckのような人気デバイスがRDNA 2を搭載している現状で、FSR 4サポートを提供しないのは機会損失でしょう。
ハンドヘルドゲーミング市場は急成長しており、ここでの優位性確立は重要なはずです。
RDNA 3でのパフォーマンス低下(35%)は確かに大きいですが、それでもオプションとして提供すべきです。
ユーザーに選択肢を与えることが、オープンなエコシステムの利点のはずです。
「画質重視で35%の性能低下を受け入れる」という選択をユーザーに委ねるべきでしょう。
Nvidiaとの比較も避けられません。
NvidiaはDLSS 4でマルチフレーム生成を提供していますが、RTX 5000シリーズ限定です。
これは、Blackwell世代の新しいハードウェア機能(Flip Metering、強化されたディスプレイエンジン)に依存しているためです。
技術的な制約が明確に存在する状況です。
一方、AMDのFSR 4は、ソフトウェアベースのアプローチです。
RDNA 4のWMMAアクセラレータは確かにパフォーマンス向上に寄与しますが、MODで実証されたように絶対的な必要条件ではありません。
この違いは重要です。
Nvidiaの制限は主にハードウェア由来、AMDの制限は主にソフトウェア/戦略由来と見られます。
ユーザーからすれば、技術的制約による制限の方が受け入れやすいでしょう。
「新しいハードウェアが必要」という理由は理解できますが、「新しいGPUを買わせたい」という理由は受け入れがたいです。
最終的に、このDLSS Enabler 4というMODは、現状では「実験的プロジェクト」の域を出ていません。
安定性、互換性、画質のいずれにおいても、日常使用には課題が多すぎます。
しかし、技術的な可能性を示した点では大きな価値があります。
そして何より、AMD公式の姿勢に対する強烈なメッセージになっています。
「ユーザーが求めている機能を、MOD開発者が無償で提供できるのに、なぜ公式が提供しないのか」という問いかけです。
AMDには、この声に真摯に向き合ってほしいと思います。
RDNA 2・RDNA 3ユーザーへのFSR 4公式サポート提供を強く期待します。