
■事実
訴訟の概要
2026年6月25日、カリフォルニア北部連邦地裁に集団訴訟が提起。17名の原告(個人消費者14名+中小企業3社)が Samsung・SK hynix・Micronを被告とした。事件番号3:26-cv-06345、担当判事はノエル・ワイズです。
訴状はシャーマン反トラスト法第1条を根拠に、3社が協調してHBM(高帯域幅メモリ)へ生産をシフトするという名目のもと、汎用DRAMの供給を意図的に制限し、過去4年間でDRAM価格を約700%引き上げたと主張していします。
原告は供給制限の停止と懲罰的3倍賠償を求めています。
市場構造と価格高騰の実態
2026年第1四半期時点で、Samsung(シェア38%)・SK hynix(29%)・Micron(22%)の3社が世界DRAMシェアの約90%を独占する寡占構造が訴訟の核心にあります。
2026年Q1のDRAM価格はQ4 2025比で約90%急騰。過去に類を見ない動きです。
32GB DDR5キットの価格は2025年半ばの約95ドルから、2026年Q2には550〜600ドルへと約480%高騰しています。
Jefferiesの試算では、Q3にさらに40〜50%、Q4に30〜40%の追加上昇を見込んでおり、2028年以前に実質的な緩和は見込めないとしています。
HBMシフトの経済的論理
HBM1モジュールの販売価格は約60〜100ドルで、同容量の汎用DDR5の約5〜10ドルと比較して利益率は3〜5倍。生産能力が制約されている状況では、合理的なメーカーが高収益品を優先するのは必然です。
3社は合わせて生産能力の約93%をAIデータセンター向けHBMに充てており、汎用RAM向けの残余生産が大幅に減少しています。
HBM 1ギガバイトの生産には汎用DDR5の約3倍のウェハ容量が必要で、「ゼロサムゲーム」の構造が生まれている——AI向けHBMスタックに割り当てられたウェハ1枚は、中級スマートフォンのLPDDR5Xモジュール1枚分の生産機会を失うことを意味します。。
原告側の主要な法的論拠
競争市場であれば価格上昇は追加供給を呼び込むはずで、3社のうち少なくとも1社が汎用DRAMの増産に動くべきだと原告は主張。3社が同時に同方向へ動いた事実が協調行動の証拠と訴えます。
訴状は2000年代のDRAM価格カルテル事件を前例として援用している。Samsungは2005年に3億ドルの罰金を支払い有罪を認めた。SK hynix(当時はHynix)も同年1億8,500万ドルの罰金を支払った。Micronは当局に内部告発し、罰金を免除されました。
2018年にも同じ3社が価格カルテルでクラスアクション訴訟を受けている(棄却)。今回の訴訟は3度目の法的挑戦となります。
被告側の反論と今後の見通し
MicronはAI需要の急増が価格上昇の真因であり、自社は協調など行っていないと否定し、法廷で争う姿勢を表明しくした。
被告側の防御として、SK hynixが2027年に韓国で新ファブを開設、MicronもアイダホでDRAM生産ファブを稼働予定など、新規生産能力の拡大を進めている実績が提示される見込みです。ただし新規容量の多くはハイパースケーラーとの複数年契約で既に予約済みで、一般消費者への恩恵は2028年以降と見られます。
比較表
| 項目 | 2005年事件 | 2018年訴訟 | 2026年訴訟(今回) |
|---|---|---|---|
| 対象期間 | 1998〜2002年 | 2016〜2018年 | 2022〜2026年(主張) |
| 根拠 | シャーマン法第1条 | シャーマン法第1条 | シャーマン法第1条 |
| 主な手口(主張) | 直接的な価格協定 | 生産調整 | HBMシフトを名目とした汎用DRAM供給制限 |
| 結果 | Samsung $3億・SK hynix $1.85億の罰金、有罪 | 棄却 | 係争中 |
| Micronの対応 | 司法取引・免責 | 共同被告 | 否定・争う姿勢 |
| 価格上昇幅 | 協定期間中に数倍 | 約3倍(2年間) | 約700%(4年間・主張) |
解説
法的な核心は「平行行動か、意図的な共謀か」の立証にある。3社が同時に同じ方向へ舵を切ったのは事実だが、それが「各社の合理的判断の一致」なのか「意思疎通のある協調」なのかを証明するのは極めて難しい。
HBMへの生産シフトは個社の判断として完全に合理的——利益率3〜5倍の製品を優先するのは経営として当然。原告は「少なくとも1社が汎用DRAMを増産すべきだった」と主張するが、その1社になることを全社が避けたという「囚人のジレンマ的均衡」が自然に成立した可能性もある。
一方で2005年の有罪歴は原告にとって強力な材料。裁判所心証の形成に影響する可能性が高く、「同じことを繰り返す業界」という印象を判事に与える効果がある。
2018年のクラスアクションは失敗に終わったが、当時と今回の違いは「被害の可視性」——AppleがRAM価格高騰を理由に値上げを公表したことで、消費者が価格上昇を直接体感しており、訴訟への共感・参加が広がりやすい。
訴訟の結末がどうであれ、メモリ価格の高止まりは2027〜2028年まで続く見通しは変わらない。ユーザーの財布に対する実害は今この瞬間も進行している。
この件は「RAMageddon」の流れを一本の糸でつなぐ象徴的な出来事——Xbox値上げ、Apple価格改定、Steam Machineの1,000ドル超え、Nintendo Switch 2値上げ、すべてが同じメモリ価格高騰を源流とする。
「相談してないけど3社全員同じ判断をしました」が通るかどうかは、テスト前に3人が全問同じ誤答を書いた場合の言い訳と構造がよく似ている。
訴訟の行方は数年単位の話だが、お財布への判決はすでに下っている。
昔はたくさんあったRAMの製造メーカーだが、あまりにも厳しすぎる環境から統廃合が進み3社になってしまった。
市場原理に任せた競争の末に競争相手が消えた。
メーカーから見ると、勝っても負けても訴えられるのはなかなか理不尽な話だろう。
ここまで統廃合が進むと談合しなくても同じ方針になることもある。この提訴が認められるかどうかは微妙だろう。
特に今は空前のAIブームによるRAM不足が深刻化している。同じような条件で各メーカーに大量の発注が同時に来ていてもおかしくない。
特に相談していなくとも同じ結論になってもおかしくはない。