■事実
WCCFtechの報道(DigiTimes発の業界筋情報を引用)によれば、中国DRAMメーカーCXMT(長鑫存儲/ChangXin Memory Technology)の生産能力はすでに2027年末まで予約で埋まっている状態です。
主要マザーボードベンダーがすでにCXMT製DDR5モジュールへの対応最適化を進めており、多くのベンダーが供給確保に動いているます。
「RAMポカリプス」と呼ばれる世界的なメモリ調達難の中で、CXMTへの発注が急増している構図です。
大手PCメーカーはすでにCXMTメモリのテストを完了済みとされる一方、供給確保の競争が激化しており、CXMTは最大手顧客への優先出荷を進めていると報じられています。
Dell・HP・Lenovo・Appleが優先的に供給を受ける見込みの企業として名指しされており、中小ブランドは取り残される可能性があります。
Appleは中国市場向け製品でCXMTメモリ使用の許可を米当局に働きかけているとも報じられています。
地政学リスクの緩和も追い風となっている。CXMTは2026年半ば時点で米商務省のEntity List(禁輸対象リスト)に正式追加されていない状態が続いており、これがPCベンダーの長期発注判断を後押ししたとの分析があります。
一方でCXMTは2026年7月27日に上海証券取引所STARマーケットへ上場予定(IPO調達額は約579億元・約86億ドルとされ、アジア最大級・中国半導体史上最大のIPOとなる見通し)です。
CXMTの2026年第1四半期売上高は前年同期比約700%増(約73億ドル)に達しており、2025年通年の売上高(約86億ドル)にほぼ匹敵する規模を1四半期で記録
業界推計では、CXMTの世界DRAM市場シェア(出荷ビット基準)は2025年の約9%から2027年に約12%へ拡大する見通しです。
一方で、複数のメモリベンダーはCOMPUTEXの取材に対し「CXMT製DDR5は安くない」と証言しており、価格はSamsung・SK Hynix・Micronとほぼ同水準との報告もあります。
Samsung・SK HynixもAI向けHBM生産へ投資を優先しており、両社は民生用DDR5の供給逼迫が2027年まで続く可能性があると顧客に警告しています。
ソース
https://wccftech.com/pc-vendors-race-to-lock-in-cxmt-dram-supply-as-memory-orders-stretch-through-2027/
解説
「CXMTがあれば安いDRAMにありつける」という期待は既に崩れつつあり、今回の争奪戦は「価格」ではなく「量の確保」そのものが目的になっている点を強調したい。
HBM需要がAIデータセンター向けに民生用メモリ生産枠を圧迫している構造は一時的な品薄ではなく構造的な問題である。(GDDR7・DDR5・NAND横断で発生している事象の一環としてCXMT争奪戦も位置づけられる)
Samsung・SK Hynix・MicronがAI向け高マージン品に生産を振り向ける一方、CXMTは「西側3社が手薄にした民生用DRAM市場」に食い込む形で急拡大しており、AI需要の副産物として中国メーカーが漁夫の利を得ている構図だ。
Dell・HP・Lenovo・Appleといった大手が優先されるという点は、メモリ不足下では「体力のある企業がまず確保する」という当たり前の力学が働いていることを示している。
Appleが中国市場限定とはいえCXMT製メモリの採用を模索している点は、米中対立下でもビジネス上の実利が優先される好例として読み解ける。
IPOのタイミングもかなり戦略的で、地政学リスクが完全に消えていない今のうちに資金調達を急いでいる印象が拭えない。
「エンティティリストに載るか載らないか」というギリギリの綱渡りをしながら、その隙に世界最大級のIPOを成立させてしまうあたり、なかなか大胆な経営判断だと感じる。
メモリ不足という災い転じて、CXMTにとっては絶好の市場参入機会になっている、という皮肉な巡り合わせで締めるのもありだ。