自作PCユーザーがゲーム用PCの解説をします

自作ユーザーが解説するゲーミングPCガイド

AMDの適応型SoC、初のパッケージ上メモリ統合を実現。32GB LPDDR5X搭載、寿命15年

投稿日:

■事実

今回の発表の中身

AMDは2026年6月30日(米国時間)、新製品「Versal Premium Gen 2 Memory on Package(MoP)」を発表しました。

MoPは、従来基板上に別途配置していたLPDDR5Xメモリをチップと同一パッケージ内に統合する実装方式です。

最大32GBのLPDDR5Xを統合し、最大288GB/sのメモリ帯域を実現しました。参考として、AMDの統合APU「Strix Halo」の最大帯域256GB/sを上回る数値です。

従来の外付けメモリ実装と比較して、基板面積を最大60%削減できるとAMDは説明しました。

LPDDR5Xの動作速度は最大9,000Mb/sです。

PCIe 6.0(64GT/s)およびCXL 3.1をハードIPとして統合。AMD EPYCサーバー向けCPUと組み合わせることで、CXLメモリプーリング・拡張モジュールへの接続が可能です。

セキュリティ機能として、PCIe 6.0で新規導入されたPCIe IDE(Integrity and Data Encryption)、プログラマブルロジックを消費しないDDRメモリ暗号化、400G対応のハードウェア暗号化エンジンを搭載しています。

動作温度は産業グレードの-40℃〜110℃に対応です。

製品供給保証期間は15年以上。AMDはこれについて、データセンター主導で短サイクルの製品更新が続くHBMからの脱却が理由と説明しています。

想定用途は、フィジカルAI、ネットワーキング、計測機器、業務用ビデオ編集、防衛・航空宇宙分野向けの秘匿通信システム(3U VPX)などです。

通常版(非MoP)のVersal Premium Series Gen 2はすでに量産出荷中。MoP版は2026年末にサンプル出荷開始、量産出荷は2027年後半を予定しています。

開発環境は既存のAMD Vivado・Vitisツールチェーンをそのまま利用可能で、標準版からの移行に設計のやり直しは不要とされています。

背景:これまでのオンパッケージメモリの経緯

AMD/Xilinxのオンパッケージメモリ搭載製品は今回が初めてではありません。2018年発売の「Virtex UltraScale+ HBM」FPGAが最初の事例で、最大16GBのHBM(第1世代)をパッケージ統合していました。

その後継として「Versal HBM」シリーズが登場し、最大32GBのHBM2eをオンパッケージで搭載。いずれもVersal Premiumファミリーの派生系列という位置づけです。

今回のGen 2 MoPは、この「オンパッケージメモリ=HBM」という組み合わせを初めてLPDDR5Xに置き換えた製品となります。

業界メディアServeTheHomeの報道によれば、今回の発表日は奇しくも「Versal HBM製品の受注最終日」と重なっており、AMDがHBM版の受注を事実上締め切るタイミングでの方針転換発表だったと指摘されていまする

HBM供給网の実情として、第1世代HBMはSK hynixのみが量産し、HBM2世代からSamsung・Micronが参入した経緯があります。データセンター向けAI需要の急拡大により供給がひっ迫し、価格・供給ともに不安定化しています。

Versalシリーズ自体の背景

Versalは「ACAP(Adaptive Compute Acceleration Platform)」という名称で2019年に発表された製品カテゴリで、FPGAファブリック・Arm CPUコア・AIエンジンを1チップに統合するアーキテクチャです。

AMDは2020年10月27日、Xilinxの買収を発表(当初発表時の取引額は全株式交換で約350億ドル)。2022年2月14日に買収完了、最終的な取引額は株価変動により約490億〜500億ドル規模となりました。

買収完了後、XilinxのCEOだったビクター・ペン氏はAMD社内の新設部門「Adaptive and Embedded Computing Group(AECG)」の社長に就任しました。

Xilinxブランドは2023年6月に正式統合され、Xilinx単独ブランドとしての表記は終了しました。ただしSpartan・Artix・Kintex・Virtex・Zynq・Versalといった製品ファミリー名称はそのまま継続使用されています。

2023年には、18.5百万ロジックセルを搭載する「Versal VP1902」が“世界最大のFPGA”として発表され、2024年前半に量産開始しました。この製品はチップレット技術を用いており、その源流は2011年発表のVirtex-7 2000T(シリコンインターポーザーによるチップレット統合FPGAの先駆け)まで遡ります。

比較表①:Versalオンパッケージメモリ製品の変遷

製品 発表/発売時期 オンパッケージ
メモリ
最大
容量
位置づけ
Virtex UltraScale+ HBM 2018年 HBM(第1世代) 16GB Xilinx時代、オンパッケージメモリFPGAの先駆け
Versal HBM Versal Premium派生
として登場
HBM2e 32GB AMD/Xilinx統合後のVersal製品ラインに編入
Versal Premium Gen 2
(標準版)
2024年後半 なし(外付けメモリ) 現行の量産出荷中モデル
Versal Premium
Gen 2 MoP
2026年6月30日発表 LPDDR5X 32GB HBMから初めて離脱した新方式。
2026年末サンプル出荷、2027年後半量産

比較表②:HBM方式 と LPDDR5X MoP方式の特性比較

項目 HBM方式
(Versal HBM)
LPDDR5X MoP方式
(Gen 2 MoP)
帯域幅 HBM2eとして高帯域(数百GB/s〜) 最大288GB/s
供給安定性 データセンター需要と競合し逼迫傾向 民生向けにも広く使われ供給網が厚い
製品ライフサイクル データセンター主導で世代交代が速い 15年以上の長期供給が可能
想定用途 高帯域が必須な用途 計測機器・防衛通信・産業機器など
長期運用前提の用途
コスト/供給リスク 高騰・調達難のリスクあり 相対的に調達リスクが低い

 

解説

「AMD Versal」と聞いてもピンとこない読者が多いと思うが、正体は旧Xilinx製FPGA/adaptive SoCブランドの現在地。GPUのRDNAやCPUのZenと同じく、AMDの製品系譜の一つとして捉えると分かりやすい。

今回の一番の読みどころは「32GB」でも「288GB/s」でもなく、HBMからLPDDR5Xへの明確な方向転換そのもの。しかも発表日がHBM版の受注締め切りと重なっているという偶然(あるいは必然)が、この転換の本気度を物語っている。

データセンター向けAI需要にHBMの生産能力が根こそぎ持っていかれている今の状況を考えると、組み込み・防衛・通信インフラ向けの少量長期供給が前提の製品にHBMを使い続けるのはそもそも無理筋だった、という見方もできる。

15年以上の供給保証という数字は一般消費者向け製品の感覚からするとピンとこないが、レーダーシステムや通信基地局のような「一度設置したら簡単に交換できない」機器を相手にする以上、これは譲れない要件。HBMの短命な世代交代サイクルとは根本的に相性が悪い。

288GB/sという帯域は、奇しくも同じAMD製品であるStrix Halo(256GB/s)を上回る。組み込み向け製品がコンシューマー向けAPUの帯域を超えるというのは面白いねじれ現象で、用途によってはローカルAI推論用途への転用に興味を持つ人もいるかもしれない(ただし32GBに収まるモデルという制約はつく)。

「HBMは高帯域だが供給が不安定、LPDDR5Xは帯域控えめだが枯れていて長期調達しやすい」というトレードオフは、AI半導体全体を覆う構図の縮図とも言える。派手さのないFPGA製品の発表が、実は現在の半導体業界が抱える構造問題を最も素直に映し出しているとも言える。

Xilinx買収から丸4年が経ち、当初「データセンター・エッジ・組み込みデバイスにまたがる1350億ドル市場を狙う」と語っていた構想が、地味ながら着実に製品化されてきている印象。派手なAIチップ競争の裏で、こうした産業・防衛向け製品ラインも粛々と世代交代している。

「世界最大のFPGA」という肩書きを持つ会社が、メモリでは意外と“身の丈に合った”選択をしているのが妙にほほえましい。

華やかなAIチップ戦争の陰で、レーダーや通信基地局を黙々と支え続ける縁の下の力持ち、という立ち位置がVersalシリーズの本質なのかもしれない。