■事実
韓国の情報サイト・Quasar Zoneに掲載された「GALAX GeForce RTX5060 Black OC V2」のレビュー分解記事(https://quasarzone.com/bbs/qc_qsz/views/2075258)において、基板上にMicron製のGDDR7メモリが搭載されていることが確認された。
これはRTX5000シリーズへのMicron製GDDR7搭載が公に記録された初めての事例となる。
当該情報はハードウェア情報アカウント「Unikoshardware」(https://x.com/unikoshardware/status/2027290107729023194)によってSNS上でも拡散された。
確認されたメモリチップの型番は「MT68A512M32DF」で、Micron公式のGDDR7パーツカタログに記載されているMT68A512M32DF-28:Aと一致する。
このチップは16Gb(2GB)構成のGDDR7で、転送速度は28GT/sに対応している。
RTX5060の基板上には2GBチップが4枚搭載されており、合計8GBのVRAM構成となっている。
RTX5000シリーズのGPUには従来、Samsung製およびSK hynix製のGDDR7が使用されてきており、Micronチップの採用が実機で確認されたのは今回が初めてである。
今回の発見により、RTX5000シリーズのGDDR7調達先はSamsung、SK hynix、Micronの3社体制となった。
RTX5080を除くRTX5000シリーズ全体は28GT/s動作のGDDR7を使用しており、今回確認されたMicron製チップも同一の速度規格に準拠している。
なお、RTX5080のみ30GT/s動作の高速グレードのGDDR7を採用している。
以前よりMicronがRTX5000シリーズ向けのGDDR7供給に参入する見通しが報じられており、28GT/sおよび32GT/sのオプションが予定されているとされていたが、特定モデルへの搭載確認は今回が初となった。
現時点では、Micron製チップが特定のモデル・地域・基板リビジョンに限定されるのかどうかは確認されていない。
少なくとも1枚のRTX5060がMicron製GDDR7を搭載した状態で流通していることが今回明らかになったかたちだ。
■GDDR7不足の深刻化と価格高騰
2025年後半から、GDDR7を含むDRAM全般の需給逼迫が深刻化している。
NVIDIAのGPU価格は2025年10月以降、少なくとも15%上昇しており、現時点でも価格の安定化は見られていない。
NVIDIAのCFOであるコレット・クレスは決算説明会において「供給が拡大することを望んでいるが、数四半期は非常に逼迫した状況が続くと考えている」と発言しており、改善には早くとも2026年末までかかるとの見通しを示している。
NVIDIAは2026年上半期のRTX5000シリーズ生産量を、2025年同期比で30〜40%削減する方向で調整していると複数の情報筋が報告している。
特にメモリ消費量の多いモデルへの影響が先行して表れており、RTX5060 Ti 16GB版の製造縮小、RTX5070 Tiの供給制約が相次いで報告されている。
RTX5060については生産量が少なくとも6ヶ月間にわたり大幅に削減される可能性があるとも伝えられており、「近い将来、入手困難になる可能性がある」という見方も業界内に広がっている。
一方でNVIDIA自身は、GPUの廃番報道などを「ミスインフォメーション」と否定しており、Blackwell GPUの出荷は継続していると強調している。
ASUSもRTX5060 TiやRTX5070 Tiが「製品終了(EOL)」になったとする噂を否定している。
■なぜGDDR7が足りないのか——AI需要との構造的競合
GDDR7不足の根本的な原因は、AI向けデータセンター需要の急拡大によるDRAM製造キャパシティの奪い合いにある。
業界アナリストの分析によれば、2026年のAI関連メモリ消費量は全世界のDRAM生産能力の約20%を占める見込みとされている。
高帯域幅メモリ(HBM)はNVIDIAのAIアクセラレーター向けに大量消費されており、HBM 1GBの製造には通常のDRAM 1GBの製造と比較して約4倍のウェーハ生産能力を消費するとされる。
GDDR7についても通常のDRAMと比較して約1.7倍の製造キャパシティを必要とするとの試算がある。
SamsungとSK hynixは2025年10月、OpenAIの大規模AI基盤プロジェクト「Stargate」向けに月間最大90万枚のDRAMウェーハを供給するという覚書を締結しており、この規模は全世界のDRAM生産量の約40%に相当するとされる。
SK hynixは自社のHBM・DRAM・NAND生産キャパシティが2026年分まで事実上売り切れ状態になっていると2025年第3四半期決算で明らかにしている。
MicronのCEOであるサンジャイ・メローラ氏は2025年12月の決算説明会において、現時点でコア顧客の需要の55〜60%しか満たせていないことを認めており、メモリ供給逼迫は2026年以降も続く見通しだと警告している。
DDR5の契約価格は2025年初頭の1枚あたり7ドル前後から19.5ドル以上にまで上昇しており、Samsungは32GB DDR5モジュールの価格を149ドルから239ドルへと値上げしている。
GDDR7においても、AI向けDRAM生産が優先されることで製造リソースが消費者向けGPUメモリから引き離されており、価格上昇と供給不足が続いている。
■Micronの消費者市場撤退とGDDR7への注力
Micronは2025年12月、消費者向けメモリ・ストレージ事業(Crucialブランド)から撤退し、AIデータセンター向け顧客に注力するという方針を発表している。
一方でMicronは2026年2月26日、GPU向けの次世代GDDR7として24Gb(3GB)構成・36GT/s動作のモジュールを発表した。
この転送速度はRTX5000シリーズで現在使用されているGDDR7(28〜30GT/s)を大幅に上回るものであり、512ビット構成のメモリバスと組み合わせた場合には理論上2TB/sを超える帯域幅を実現できるとされている。
なお、Samsungも2025年11月に24Gb・36GT/sのGDDR7量産を開始済みと発表しており、両社のロードマップが同一の仕様に収束しつつある。
Micronの新ファブ(米国ID1ファブ)は2027年まで本格稼働の見込みがなく、現時点ではGDDR7の急増する需要に対応できる製造キャパシティの追加に限界がある状況だ。
RTX5090 Laptop GPUにはすでに24GbチップのGDDR7(3GB×8枚構成で24GB VRAM)が採用されているが、デスクトップ向けのRTX5000シリーズに36GT/s版が採用される予定は現時点でアナウンスされていない。
NVIDIAの次世代アーキテクチャ「Rubin」への採用が見込まれており、36GT/s版GDDR7の本格展開は2026年末から2027年にかけてになる見通しだ。
解説
「Micronがついに登場した」という感じの今回のニュースですが、正直な感想を言うとこれ単体での影響はそこまで大きくないと思っています。
RTX5000シリーズの供給難は本質的にGDDR7の「絶対量が足りない」という問題であって、調達先が2社から3社に増えたからといって、すぐに解決するような話ではないんですよね。
もっと根本的に言えば、Samsung・SK hynix・Micronという3社の主要DRAMメーカーが揃ってAI向けのHBMやDDR5の製造を最優先にしており、GDDR7に回せるキャパシティが構造的に削られているという問題があります。
これは供給企業の数を増やしても解決しない、産業構造レベルの話なんですよ。
特にMicronについては「消費者市場から撤退してAIデータセンターに集中する」と宣言した直後に今回の話ですからね。
Micronがゲーミング向けGPUのメモリ供給にどこまで本気で力を入れるつもりなのかは、個人的にはかなり疑問があります。
あくまで余剰キャパシティをRTX5000向けに振り向けている、という程度の関与にとどまる可能性も十分ある。
今回確認されたのも「流通の中に1枚存在した」という段階の話で、全体的な供給量に占める割合はまだ極めて小さいはずです。
一方で注目しているのは、Micronが同じタイミングで発表した24Gb・36GT/s版GDDR7の動向です。
現行のRTX5000シリーズは28〜30GT/sで動いているので、36GT/sへの移行は単純計算で20〜28%の帯域幅向上になります。
512bitバスで理論上2TB/sを超えるというのはRTX5090の約1.79TB/sと比較しても大きなジャンプで、次世代GPUの性能向上に直結する話です。
ただこれも「製品が出てくるのは早くとも2026年末〜2027年」という話で、現在困っているユーザーにとっては遠い未来の話にしかなりません。
今のGDDR7不足の構造を整理すると、「AIブームでHBMの需要が爆発的に増加→DRAMメーカーがHBM製造にキャパシティを集中→GDDR7の製造に使える設備・人員が減少→GPU向けメモリが不足→GPU価格が上昇、供給が減少」という連鎖反応が起きています。
しかも厄介なことに、AI関連の設備投資は2026年も65%増加すると予測されており、この需要は短期間で収束するような話ではないんですね。
Micronが自社の決算で「コア顧客の需要の55〜60%しか満たせていない」と認めているくらいですから、業界全体としてどれほどの需給ギャップが生じているかがわかります。
日本のユーザー視点で言うと、2026年にPCを新調しようとしている方にはかなり厳しい状況が続きそうです。
RTX5000シリーズは在庫が少なく価格は高止まり、DDR5やSSDも値上がり傾向と、ほぼ全方位でコストが上がっています。
RTX5060 Ti 16GBのような「コスパの良いミドルレンジ」の供給が特に絞られているのは、NVIDIAが同じメモリ量でより高価なGPUを優先して作ろうとしているためでもあります。
急いでいない方は2026年末〜2027年まで待つのが合理的かもしれません。
少なくとも現状の供給難・価格高騰は「数ヶ月で収束する」ような気配はなく、NVIDIAのCFOが「2026年末の改善が最善シナリオ」と言っているくらいですから。