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日本政府がSamsungとSK hynixに対してメモリ半導体工場の誘致オファーを提示していることが明らかになった。 経済的な観点では韓国国内への投資を大幅に上回る条件とされているが、政治的・国家的な制約が両社の決断を阻んでいる。 韓国の大手メモリメーカーが「魅力的」とされるオファーを辞退している背景には、日韓関係の複雑な歴史と、韓国国内の政治的混乱が絡み合っている。
■事実
韓国メディア「朝鮮Biz」の報道によれば、日本政府はSamsungとSK hynixに対して、日本国内へのメモリ工場建設を促す具体的なインセンティブを提示していることが判明した。
このオファーには、資金的な補助金・税制優遇にとどまらず、物流インフラの整備やサプライチェーン全体の支援を含む包括的なパッケージが含まれているという。
同報道に掲載された試算によれば、日本でメモリ工場を建設した場合のTCO(総保有コスト)は、韓国での建設と比較して「半分程度」になる可能性があるとされている。
TCOの大幅な削減が見込まれる背景には、日本政府が打ち出す多層的な支援策がある。 CHIPS法のような資金補助と物流・サプライチェーン整備を組み合わせることで、韓国国内と比較して実質的な工場建設・運営コストを大幅に圧縮できるとされている。
現在、世界のメモリ供給はAI需要の急拡大によってひっ迫した状態が続いており、供給体制の早急な拡充が業界全体の課題となっている。 こうした状況を踏まえれば、経済合理性の面では日本への投資は理にかなった選択肢に映る。
しかし両社の反応は消極的だ。 SK hynixはすでに日本でのDRAMサプライチェーン構築に関する報道を公式に否定しており、Samsungも日本への新規工場建設計画を明らかにしていない。
業界関係者によれば、投資を阻害しているのは経済合理性の問題ではなく、政治的・外交的な制約が大きく影響しているとされる。
日韓両国の間には、2019年に日本が実施した半導体材料3品目(フォトレジスト、高純度フッ化水素、フッ化ポリイミド)の対韓輸出管理強化を端緒とした貿易摩擦の記憶が根強く残っている。 この措置は安全保障上の理由から行われたが、韓国の産業界と政界に深刻な不信感を残し、韓国政府はその後、半導体材料の国産化支援に年間1兆ウォン(約920億円)を拠出するなど、日本依存からの脱却を図る方針に転換した。
さらに2024年12月には韓国で戒厳令が宣布され、政治的混乱が現在も続いている。 この状況が、大型の海外投資を推進するための政策意思決定を困難にしている要因のひとつとみられている。
一方、日本の半導体産業の再興を目指す政策は急速に具体化している。
2026年2月、TSMCのCC・ウェイCEOが高市早苗首相と会談し、熊本第2工場(JASM Fab 2)の製造プロセスを当初計画の6〜12nmから3nmへ大幅に引き上げる計画を正式発表した。 総投資額は約1兆7,000億円(約170億ドル)に達する見通しで、日本政府はすでに7,320億円の補助金を承認済みであり、追加支援も検討されている。
この熊本工場の3nm対応により、日本は台湾・米国アリゾナに次ぐ世界3番目のTSMC最先端製造拠点となる。 NVIDIAをはじめとするAI顧客向けの最先端チップ供給拠点としての役割が期待されており、ウェイCEOは「この工場が日本のAIビジネスの礎となる」と表明している。
また、国産ファウンドリーを目指すRapidusも北海道千歳市で2nmチップの量産化に向けた開発を進めており、High-NA EUV(超高開口数極紫外線露光)装置を活用したパイロットラインが2025年4月に稼働を開始している。 量産目標は2027年度とされており、TSMCの3nmとは顧客層が異なるため競合しないとの見方が日本政府内では主流だ。
MicronはすでにMicronとして広島県の工場に追加投資を行っており、日本政府の半導体支援策が外資企業にも有効に機能していることを示している。
SamsungとSK hynixはむしろ韓国国内での大型投資を優先している姿勢が鮮明だ。
Samsungは平沢(ピョンテク)のP5工場を2028年稼働目標で建設中であり、SK hynixも2027年半ばの稼働を目指してM15X工場の建設を進めている。 SK hynixはM15Xの生産開始を当初予定から約4ヶ月前倒しで実現しており、HBM4向け1b DRAM生産がすでに始まっているとされる。
Samsungは2026年のHBM生産能力を約50%拡大し、月間25万枚ウェーハの処理を目指す計画を持つ。 SK hynixはHBM市場で世界シェアの過半数を握っており、両社はNVIDIAが2026年後半向けに要求している16段積みHBM4の供給競争に全力を注いでいる。
2025年10月には、SamsungとSK hynixがOpenAIと月間90万枚のDRAMウェーハを供給する意向書(LOI)に署名しており、AI向けメモリ需要への対応が両社の最優先経営課題となっている。
半導体市場全体では、2025年の世界半導体売上が過去最高の7,917億ドル(前年比25.6%増)に達したことが半導体産業協会(SIA)から発表されており、2026年中に1兆ドル超えが見込まれている。 こうした好況下でも、メモリの供給ひっ迫は当面継続するとの見方が業界で広まっており、供給拠点の地理的分散は長期的な戦略課題として各社に突きつけられている。
■解説
率直に言って、この話は「経済合理性 vs 政治的制約」という、現代半導体産業の地政学を象徴する典型例です。
TCOが韓国の半分以下になるというのは、単純な経済計算では見逃せない数字です。 メモリ工場の建設コストは1棟あたり数兆円規模に達することも珍しくない時代に、半額になるというのは経営的には非常に重い意味を持ちます。
でもこれほどの大型投資は、コスト計算だけでは決められません。 国家の政治的意向、世論の反応、そして歴史的な経緯が複雑に絡み合っています。
2019年の輸出管理問題は、韓国産業界に「日本に依存することのリスク」を痛感させました。 その記憶がある中で、今度は逆に日本への大型投資を決断することが政治的にどれほど難しいか、想像に難くない。
加えて2024年末の戒厳令と政治危機が韓国の意思決定環境をさらに複雑にしています。 大型の対外投資には政府レベルでの調整とコンセンサスが不可欠ですが、それが機能しにくい状況が続いています。
個人的に注目しているのは、日本が「TSMC、Rapidus、Micron、そして今度は韓国メモリ勢にも」という形で、あらゆる方向から半導体産業の再建を進めているという点です。
補助金の規模も政府の意思の強さも、数年前の日本とは全く異なる次元に来ています。 TSMCの熊本工場誘致が成功したのも日本側の積極的な支援策があってこそで、その姿勢がSamsungとSK hynixへのオファーにも反映されているわけです。
Micronが日本への投資を選択した事実は重要な示唆を与えています。 Micronには日韓間の政治的しがらみがない。純粋なビジネス判断として日本の補助金と安定した投資環境を選んだわけです。
韓国の2社にとっては、HBM4競争という眼前の緊急課題と、日本という選択肢の長期的な生産拠点分散との間で難しい優先順位づけが求められています。
メモリ供給のひっ迫が数年単位で続くとみられる中、コスト競争力の観点から、いつまでも政治的理由だけで先送りにできるかどうか。 地政学的環境の変化や韓国の政治情勢が落ち着いた段階で、この判断が再び俎上に載る可能性は十分あると見ています。