AMDが沈黙を続ける中、コミュニティMODツール「OptiScaler」がFSR 4のVulkan対応を先行実装した。 2026年2月23日に公開されたテストビルド「v0.9.0-pre10」が、DX12ブリッジを介してVulkan APIゲームへのFSR 4(FidelityFX Super Resolution 4)導入を可能にしている。 AMDのRadeonチームがここ数ヶ月ドライバ周辺の更新に注力しているのとは対照的に、ゲーマーが実際に求めていた機能をコミュニティが先に実現した格好だ。
■事実
AMDがFSR 4を発表してから約1年が経過するが、同アップスケーラーはいまだにVulkan APIを使用するゲームに対応していない。
FSR 4は2025年初頭にRDNA 4アーキテクチャ(Radeon RX 9000シリーズ)専用技術として登場したAIベースのアップスケーラーで、AIモデルの推論処理に特化したFP8(8ビット浮動小数点数)演算を活用しており、従来のFSR 3.1と比べて大幅な画質向上を実現している。
実際のテストでは、FSR 4のパフォーマンスモードがFSR 3.1のクオリティモードを上回る画質を発揮するケースも確認されており、AMDにとって重要な競争優位点となっている。
AMDは2025年9月8日にリリースしたドライバ「AMD Software 25.9.1」において、署名付きFSR 3.1 DLLを統合したDirectX 12対応タイトルを自動でFSR 4に切り替える「ドライバアップグレード」機能を追加した。
このドライバのリリースにより、Radeon RX 9000シリーズユーザーが利用できるFSR 4対応タイトルが一気に85タイトル以上に拡大するとAMDは発表した。
しかしこのドライバアップグレード機能には明確な制限が設けられている。 AMDの公式ガイドラインでは「開発者向けガイドラインに従って署名付きのFSR 3.1 DLLを統合しているDX12対応ゲームが対象」と定められており、Vulkan APIを使用するタイトル、サードパーティ製プラグインを使用するタイトル、署名のないFSR 3.1 DLLを使用するタイトルはいずれも対象外となっている。
つまり、VulkanタイトルはAMDの公式ルートではFSR 4の恩恵を一切受けられない状態が約1年にわたって続いていた。
こうした状況を打開したのが、オープンソースのアップスケーラー置換ツール「OptiScaler」のコントリビューターたちだ。
Redditユーザー「u/eduhfx」が発見・共有したテストビルド「v0.9.0-pre10」の変更ログには以下の内容が記載されている。
「Added Vulkan w/Dx12 support – FSR4 VK w/Dx12, FSR 2.1 VK w/Dx12」
このテストビルドは2026年2月23日にGitHub上で公開されており(https://www.reddit.com/r/radeon/comments/1rch6tt/fsr4_is_now_on_vulkan_but_not_thanks_to_amd/)、関連コミットとして2026年2月7日付けの「Added FSR2.1.2 w/Dx12 to Vulkan upscalers」という作業履歴も公式GitHubのActions(https://github.com/optiscaler/OptiScaler/actions/runs/22304029291)で確認できる。
OptiScalerが実装した手法は、ネイティブなVulkanサポートではなく「インターオペラビリティモード」と呼ばれる互換レイヤーだ。
具体的には、Vulkanゲームのアップスケーリング処理をバックグラウンドで起動したDX12デバイスに橋渡しし、そこからFSR 4エンジンに処理を渡すという仕組みになっている。
OptiScalerの公式ドキュメントによれば、このDX12バックエンドを経由した場合、最大約10%程度のパフォーマンスオーバーヘッドが発生する可能性があるとされている。
また、これはネイティブ実装ではなく互換パスであるため、ゲームによって動作の差異や予期せぬ問題が生じる可能性も排除できない。
今回の対応によって恩恵を受ける可能性があるタイトルとして、Vulkan APIを採用した「Doom: The Dark Ages」や「Indiana Jones and the Great Circle」などが挙げられており、これらのゲームでFSR 4アップスケーリングが利用できるようになる見込みだ。
OptiScalerはミドルウェア型のMODツールで、ゲームのアップスケーラーインターフェイスにフックして別のバックエンドへリダイレクトする仕組みを持つ。
ゲームがFSR 2+、DLSS(Deep Learning Super Sampling)2+、またはIntel XeSS(Xe Super Sampling)を搭載している場合、OptiScalerがそのAPIの入力を取得し、FSR 4などの別のアップスケーラーへ変換する。
ただし開発チームは、アンチチートシステムを使用するオンラインタイトルでの使用については公式ドキュメントで警告しており、BANリスクがある旨を明記している。
今回の機能追加はテストビルド段階であり、正式な安定版はまだリリースされていない。 テストビルドはOptiScalerの公式GitHubのActions欄(要ログイン)または公式Discordサーバーのテストビルドチャンネルから入手できる。
FSR 4のVulkan対応について、AMDは現時点でいかなる公式コメントも発表していない。
AMDをめぐっては、Vulkan対応の問題だけでなく、旧世代GPU向けのFSR 4 INT8対応についても長期的な沈黙が続いている。
AMDは2025年8月に誤ってFSR 4のソースコードを一時的に公開してしまい、そのコードにINT8(8ビット整数)演算を使った実装が含まれていたことが明らかになった。
INT8対応はRDNA 2世代(Radeon RX 6000シリーズ)以降のGPUでも動作することが技術的に可能であり、コミュニティによる実証テストでRDNA 3(RX 7000シリーズ)およびRDNA 2でもFSR 4が動作することが確認されている。
しかしAMDはこのINT8版のFSR 4を旧世代GPUへ正式提供することについて「情報なし(no news)」との立場を崩しておらず、旧世代GPUユーザーの不満が高まっている。
AMDは2025年12月にFSR 4の大型アップデート「Redstone」をリリースし、MLベースのフレーム生成やレイ再生成などの機能を追加したが、INT8版の公式サポートは今回も含まれず、2026年2月時点でFSR 4はRDNA 4専用のままとなっている。
正直、AMDのこの状況はなかなか理解しがたいですね。
FSR 4がリリースされてほぼ1年。DX12ゲームへのドライバアップグレード機能こそ2025年9月に実装されたものの、Vulkan対応は今もゼロのまま。
そしてそのVulkan対応を、コミュニティのボランティア開発者がテストビルドとはいえ実現してしまったわけです。
「コミュニティがやれることをAMDが先にやれない」というのが、この問題の核心です。
AMDは普段、Redditなどのコミュニティを積極的にチェックし、ユーザーの声を製品やドライバに反映させることで知られています。
しかし今回のFSR 4のVulkan対応やRDNA 2/3向けINT8対応のように、特定のケースになると一転して頑なに沈黙を守るのが不思議でなりません。
営利企業として「RDNA 4の売上を守りたい」という動機はわかります。
でも個人的には、RDNA 2/3をFSR 4に対応させたとして、RDNA 4の売上に対する影響はさほど大きくないのではないかと見ています。
それよりも「AMDはサポート期間が短い」という企業イメージが定着してしまう損失のほうが、長期的にははるかに大きいのではないでしょうか。
ここで引き合いに出さざるを得ないのがNVIDIAです。
「売らんかな」という姿勢でゲーマーを振り回すことも多いNVIDIAですが、旧世代GPUへのドライバサポートはほぼ10年にわたって継続するという事実があります。
AMDが「ユーザーに寄り添う企業」として差別化していくなら、この点は真剣に見習うべきでしょう。
技術的な障壁があることは理解できます。ネイティブVulkanサポートは、DX12ブリッジを使った互換レイヤーより実装がずっと複雑です。
でも今回OptiScalerが証明したのは、DX12インターオペラビリティという「迂回路」が現実に機能するということ。最大10%のオーバーヘッドがあるとしても、FSR 4とFSR 3.1の画質差を考えれば十分許容範囲内でしょう。
Doom: The Dark AgesのようなVulkanネイティブの大型タイトルが今後も増えていく中で、FSR 4がVulkan非対応のままでは、DLSSとの差はどんどん広がっていくばかりです。
AMDの幹部には、目先の売上以上に「ブランドへの信頼」がいかに大きな資産であるかを、冷静に再評価してほしいと思います。
コミュニティが無償で証明したことを、公式実装として全ユーザーに届ける。それだけのことが、なぜこんなに難しいのでしょうか。