■事実
AMDは2026年2月24日、Metaとの大規模なAIインフラ調達契約を発表した。
契約の柱は、AMDのInstinct GPUを合計6ギガワット(GW)分展開するという多年・多世代にわたる取り組みで、AMDの公式プレスリリースによれば最初の1GW分の出荷は2026年後半を予定している。
Metaが受け取るGPUは、Instinct MI450アーキテクチャをベースにMetaのワークロード専用に最適化した「カスタムチップ」となる。
リサ・スー CEOによれば、カスタマイズは「ワークロードを起点に設計」したものであり、チップレベル・ボードレベル・システムレベルに及ぶという。
なお、追加テープアウト(チップ再設計)は不要であり、あくまでもMI450アーキテクチャの範囲内での最適化であることもスーCEOは強調した。
GPU以外にも、MetaはAMDの次世代EPYC CPUの「主要顧客(リードカスタマー)」となる。
具体的にはZen 6ベースの第6世代「Venice」と、Zen 7ベースでワークロード特化最適化を施した「Verano」の両CPUが対象となる。
つまり、MetaはZen 6世代とZen 7世代の双方について、実質的にAMDの最大顧客のひとつとして機能することになる。
インフラ基盤には、AMDとMetaが共同でOpen Compute Project(OCP)を通じて開発したラックスケールアーキテクチャ「AMD Helios」が採用される。
■ 株式ワラントの構造
今回の契約の最大の特徴は、半導体メーカーとしては異例ともいえる「株式連動型ワラント」の発行だ。
AMDはMetaに対し、AMD普通株最大1億6,000万株を取得できる「成果連動型ワラント」を付与した。
これはAMDの発行済み株式総数の約10%に相当する。
行使価格は1株あたりわずか0.01ドルと実質的にゼロに近く、ワラントの権利確定(ベスティング)は出荷マイルストーンと連動している。
最初のトランシェは最初の1GW分GPU出荷時に確定し、以降は6GWまでの展開規模に応じて段階的に確定していく仕組みだ。
また、AMDの株価が最終的に600ドルに達した際に最終トランシェが確定するという株価条件も設けられており、両社の利害が長期的にリンクした構造になっている。
AMDは2025年10月にOpenAIとも同様の6GW・1億6,000万株ワラントの契約を締結しており、今回のMetaとの契約はその「コピー」とも評されている。
両契約が完全に行使された場合、MetaとOpenAIが合計でAMDの株式約20%を保有することになる。
■ 財務的な規模感
AMDのCFOであるジャン・フー氏は、メタ展開について「1GWあたり有意な二桁十億ドル規模の収益」が見込まれると説明した。
アナリストのウォルフ・リサーチによれば、1GWあたり約150〜200億ドルの収益を想定した場合、ワラント希薄化を考慮しても1GWあたり約3ドルのEPS(1株当たり利益)改善が見込まれるという試算が出ている。
6GW全展開では数千億ドル規模の累積収益となる計算だが、展開は複数の製品世代にまたがる長期的なロードマップが前提だ。
AMD株はこの発表を受けて約10〜14%急騰した。
■ MI450遅延懸念と今回の発表の関係
今回の契約発表の直前、業界メディアが「MI450シリーズの出荷スケジュールが遅れている可能性がある」と報じ、AMD株が一時下落する場面があった。
AMDはこの遅延報道を公式に否定し、スーCEOは「2026年後半の出荷は予定通り」と明言している。
アナリストのWedbushは今回のMeta契約発表が「遅延懸念とOpenAI計画縮小への不安を払拭した」と評価した。
■解説
正直なところ、リサ・スーCEOの立場に自分を置いてみると、この判断は理解できます。
1GWあたり数百億ドル規模の収益が目の前にちらついている状態で、コンシューマー向けGPUやゲーミング市場を最優先にしろというのは、経営者としてはむしろ難しい判断です。
AIの巨大需要が目の前にある以上、ここで勝負に出るのは理にかなった経営判断でしょう。
ただ、今回のディールを眺めながら個人的に感じているのは、近年のビッグディールの「構造そのものが変わってきている」という点です。
以前の半導体取引は「スペックを提示して、価格交渉して、買う・売る」というシンプルなものでした。
しかし今回のAMD-MetaディールやAMD-OpenAIディールを見ると、内容が未来の複数世代に及んでいること、チップを作る側がリスク(株式の希薄化)を負担していること、そしてカスタム設計まで受け持っていることが特徴になっています。
VeniceだけでなくVerano(Zen 7)まで対象になっているという事実は、MetaがAMDのロードマップを2世代以上先まで縛り込んでいることを意味します。
これはある意味で、チップの「製造側と購入側が対等に近い立場になってきている」証拠ではないでしょうか。
以前はIntelやNVIDIAが「うちのチップを使いたければこの条件で」と言える立場でしたが、今はMetaやOpenAIといった超大口顧客が「うちのロードマップに合わせてカスタム設計して、おまけに株式も出せ」と要求できるほどの交渉力を持っている。
そしてAMDはその条件を飲んでいる。
この構造が成立するのは、一定の実績と財務体力を持つプレイヤーだけです。
半導体の設計・製造という莫大な先行投資が必要な世界で、さらに株式の希薄化リスクまで引き受けられる企業は限られる。
つまり、今後このクラスのビッグディールには、NVIDIAやAMD程度の規模感がなければ参入できない「壁」ができつつあります。
直前の週、MetaはNVIDIAとも大型契約を締結しています。
MetaがNVIDIAもAMDも両方使う「複数ベンダー調達」戦略を取っているという事実は、MetaがリスクをAMDに負わせながら自分自身は分散させるという、巧みな立場を維持していることを示しています。
この賭けが大成功して繁栄をもたらすのか、あるいは将来会社を揺るがすリスクになるのかは、今の時点では断言できません。
AIバブルが維持されれば6GW分の収益がワラント希薄化コストを大きく上回るシナリオは十分ありえますが、需要が想定より早く頭打ちになった場合は、20%の株式希薄化という重荷だけが残るリスクもある。
それでもAMD経営陣は「ここで勝負しなければ二度とNVIDIAに追いつけない」という判断をしたのでしょう。
それが正解かどうかは数年後にならないとわからないですが、少なくとも「ビビって動かなかった」という批判はできない、攻めの経営であることは確かだと思っています。