■事実
Socket AM4は2016年のCOMPUTEX 2016で、Zenアーキテクチャおよび初代Ryzenプロセッサとともに発表されたプラットフォームです。 2026年でちょうど10周年を迎えます。
これを記念してAMDは、Ryzen 7 5800X3D「10周年記念版(10th Anniversary Edition)」を発表しました。 北米での想定売価は349ドルで、2026年6月25日に発売予定です。 スペックは既存のRyzen 7 5800X3Dと同等で、Zen 3アーキテクチャの8コア/16スレッド、ブーストクロック最大4.5GHz、3D V-Cacheを含む総キャッシュ容量100MB、TDP105Wとなる。 新しい要素としては、Carbice製の新しいサーマルインターフェース材「Ice Pad」が標準で同梱されます。
同じタイミングで、AMDはAM5プラットフォームのサポート期限を2029年まで延長することも発表しました。 AM4で実践してきた「同じソケットを長期間使い続けられる」という方針を、AM5でも継続する形になります。
性能面では、韓国メディアによる検証が話題になっています。 AM4初代となる2016年のAPU「A12-9000」シリーズ(Excavatorアーキテクチャ)と、現行のRyzen 5000シリーズを比較したところ、CPU性能で約25倍、ゲーム性能で約8倍の向上が確認されたということです。
AM4は10年間で、Excavator・Zen・Zen+・Zen2・Zen3という5世代のアーキテクチャをカバーしてきました。 対応チップセットもA320からX570まで幅広く、この間ソケット形状自体は一度も変更されていません。
なお、AMDは2025年に入ってからもRyzen 5 5500X3DなどAM4向けの新製品を投入し続けている。 表向きは「プラットフォームの長寿命さを示す事例」として扱われているが、この裏側には別の事情があります。
2025年後半から、AI需要の急増を背景にメモリ価格が大きく上昇しています。 DDR5メモリは2025年7月から2026年1月までの間に平均で約4.4倍まで値上がりしました。 DDR4メモリも同期間で平均約3.19倍上昇しており、DDR5よりは緩やかだが、それでも大幅な値上がりとなっています。 TrendForceは2026年第2四半期のDRAM契約価格についても、前期比58〜63%の上昇を予測しています。
■解説
「AM4 10周年」という打ち出し方、パッケージも記念デザインで、話としてはすごく綺麗にまとまっている。 ただ、正直に言うと、このタイミングでわざわざDDR4世代のCPUを再投入してくる背景には、もっと生々しい事情があるのではないかと見ている。
CPU性能25倍・ゲーム性能8倍、という数字についても少し補足しておきたい。 比較の起点になっているA12-9000シリーズは、当時から決して性能が高いモデルではなく、むしろAMDのAPUの中でもかなり下の方に位置するラインだ。 10年でそこから25倍になるのは、もちろんすごいことではあるのだが、「もともとのスタート地点が低かったから、伸び率が大きく見える」という側面もある、というのは頭の片隅に置いておいた方がいいだろう。
一方で、同じソケットのまま10年間アップグレードし続けられた、という点自体は素直に評価できるポイントだ。 この10年でIntel側はソケットを何度も変更してきていますし、「マザーボードを買い替えなくてもCPUだけ交換できる」という選択肢が10年続いたのは、ユーザー側のメリットとしては大きいだろう。
ゲーム性能8倍という結果には、3D V-Cacheによる大容量キャッシュの効果もかなり寄与しているはずだ。 これは帯域の不足分をキャッシュでカバーするという、Infinity Cacheと同じ発想のアプローチで、AM4世代のCPUでもキャッシュ容量の差がそのままゲーム性能の差として出てくる構図は変わっていない。
本題のDDR4延命の話に戻ると、 DDR5が短期間で3〜5倍規模まで値上がりしている一方、DDR4も値上がりはしているものの、相対的にはまだ手が出しやすい水準にある。 新規でAM5+DDR5の環境を組むより、AM4のマザーボードをそのまま使って5800X3DクラスのCPUに載せ替える方が、トータルコストで見ると現実的な選択肢になってきている、という状況だ。
「10周年記念版」という響きは美しいが、見方を変えると「DDR4在庫、まだまだ売れます」という意味合いも含まれているのでは、という気はする。
AM5についても2029年までのサポートが約束されたが、これも「長期サポートという理念」と「メモリ規格を巡る経済的な事情」の両方が、これから何度も絡んでくる話になりそうだ。
DDR4の生産停止を受けて、メモリの値上がりがなければとっくに墓の下に収まっていたAM4だが、いましばらくは現役を続けることになるのだろう。