自作PCユーザーがゲーム用PCの解説をします

自作ユーザーが解説するゲーミングPCガイド

NVIDIAのAIチップがタイ経由でAlibaba中国へ――Supermicro幹部ら25億ドル密輸事件の全貌

投稿日:

■事実

事件の概要

2026年3月、米司法省が25億ドル規模のNVIDIA AIチップ密輸事件でSupermicro(Super Micro Computer)関係者3名を起訴しました。

起訴されたのは共同創業者のイー・シャン・リャウ(通称ウォーリー)、台湾営業部長のルイ・ツァン・チャン(スティーブン)、ブローカーのティン・ウェイ・サン(ウィリー)です。

罪状は輸出規制法違反の共謀、米国からの物品密輸、米国政府に対する詐欺の共謀です。

リャウはカリフォルニアで逮捕・保釈済み。サンも拘留中。チャンは現在逃亡中です。

Supermicro社自体は起訴されていないが、リャウは起訴後にボードを辞任。チャンとサンは社との関係を打ち切られました。

密輸ルートと実行手口

密輸の中継地として使われたのはタイ・バンコクに拠点を置くOBON Corp.です。(裁判文書中では「Company-1」として記載)

OBON Corpはタイの国家AI戦略の公式パートナー企業であり、「Siam AI」という国家クラウド基盤プロジェクトも設立していました。

米Bloomberg報道(2026年5月8日)により、「Company-1」がOBON Corpであることが初めて公になりました。

OBONのCEOはタイの元首相タクシン・シナワット氏の甥とされる人物が務めていました。

NVIDIAのジェンスン・フアンCEOは2024年12月、バンコクで開催されたSiam AIのイベントに登壇していました。

2024〜2025年にかけて、NVIDIA H200搭載のSupermicroサーバーをOBONへ販売するかたちで中国向けに迂回輸出です。

2025年4〜5月だけで5億ドル超相当の機材が移動したとされています。

手口の詳細:偽造書類の作成、シリアル番号ラベルをドライヤーで剥がして空の筐体に貼り替えたダミーサーバーを用意し、輸出規制コンプライアンス審査をかわしました。

審査員を「友好的な」担当者に誘導し、2025年8月の審査では審査員への接待も行っていたとされています。

最終的な受け取り先としてAlibaba(阿里巴巴)の名が挙がっているが、OBON・Alibaba両社は起訴されておらず、捜査継続中です。

Alibaba側は「Supermicro、OBON、ブローカーとの取引関係はなく、禁止されたNVIDIAチップをデータセンターで使用したことは一切ない」と否定しています。

Supermicro株と企業対応

3月の起訴後、Supermicro株は約33%急落しています。

OBON Corpはある時期、Supermicroにとって売上高11位の顧客でした。

2024年6月期の四半期でOBONへの売上が約1億ドルに急増した時点で、Supermicroは一度監査と出荷停止を実施していました。

米商務省のBIS(産業安全保障局)は2025年8月、OBON向け全出荷に停止命令を発令しています。(3月の起訴時点でも有効)

輸出規制の背景とH200をめぐる状況

密輸が行われた時期、H200は中国向け販売が禁止されていました。

その後トランプ政権がH200の対中販売を解禁。ただし売上の25%が米国政府に納付される条件付きです。

ジェンスン・フアンは「NVIDIAの中国向けチップの公式販売はゼロ」と発言する一方、グローバル競争の継続を主張しています。

NVIDIAの公式パートナーであるシンガポール系企業2社も輸出規制違反で当局の捜査対象となっており、類似案件は複数存在しています。

これは米国が2022年にNVIDIAの対中輸出規制を始めて以来、最大規模の摘発事案です。

解説

「輸出規制をかければ中国に渡らない」という前提が、この事件で完全に崩れた。25億ドルという数字は規制の抜け穴から生まれた純粋なビジネスだ。

タイが今回の舞台になったことは偶然ではない。Microsoft、Google、ByteDanceが競って投資を誘致し、「AIハブ」として台頭中の国が同時に密輸の中継地になっていた構造的な矛盾がある。

「国家AI戦略の公式パートナー企業」が密輸ルートに組み込まれていたという事実は、輸出規制の信頼性に対する根本的な問いだ。政府のお墨付きがむしろカムフラージュになっていた。

ジェンスン・フアン自身がSiam AIのイベントに登壇していた。NVIDIAの立場は「コンプライアンスは各パートナーの責任」で一貫しているが、この絵面はさすがに説明が難しい。

ダミーサーバーを用意し、ドライヤーでシリアル番号ラベルを剥がして貼り替える、審査員を接待して「友好的な」人物に誘導する――これは場当たり的な犯罪ではなく、組織的で継続的なオペレーションだ。

ドライヤーで剥がしたシリアルラベルで25億ドルを動かす。家電量販店で買える工具が世界最先端の輸出規制を突破するとは、規制設計者も想定外だったはずだ。

グレーマーケットではNVIDIA B300が定価の約2倍(100万ドル)で取引されているという報告がある。このプレミアムの存在が、リスクを冒してでも密輸を実行する経済的動機を生み続けている。

H200が「禁止→摘発→その後解禁(25%税付き)」という流れを辿ったのも皮肉だ。密輸していた製品が後に合法化されるという展開は、規制の一貫性への疑問を深める。

輸出規制を抜け穴のない形で機能させるには、製品単位の追跡ではなく、実際の使用先の監視まで踏み込む必要がある。それは現実的に非常に困難であり、根本的な限界がある。

輸出規制は「買えない」ではなく「買いにくくする」ものだ。25億ドルの密輸事件はその限界を金額で証明した。

 

このニュースを取り上げたのは「絶対誰か密輸している」と前々から思っていたから。関係者は必死に自分は関係していないことを主張しているがあまりにも苦しい。

バレないように密輸スキームを組んでいたのだろうから、「私がやりました」とは誰も言わないだろう。

念のために断っておくと、起訴文書ではOBON・Alibaba両社はまだ起訴されておらず、疑惑段階だとは但し書きはしておく。