■事実
IMECとこのロードマップについて
2025年に「ロジックデバイスロードマップ」を公開し、2020年代から2040年代にかけての半導体プロセス技術の進化予測を示しました。
このロードマップが示す年号は「量産開始年」ではなく、「研究開発の完成(技術確立)の目安年」である点に注意が必要です。
IMECはベルギーに本部を置く、世界最大規模の独立系ナノエレクトロニクス研究機関です。
ムーアの法則の鈍化
微細化が鈍化した背景として、チップレット技術や2.5D/3Dパッケージングの普及が挙げられます。ただしこれらにも電力・発熱・コストの限界があります。
TSMCがSystem-on-Wafer(SoW)パッケージング技術を発表しており、CoWoSを大規模AIチップ向けに拡張しています。
1998年〜2010年まではロジック密度は年率約50%の割合でスケーリングしていました。(SRAMセル面積が毎年ほぼ半減)
2010年〜2026年はスケーリング速度はリニア(線形)成長へ減速し、飛躍的な密度向上は止まっています。
現在〜近未来:ナノシートFET時代(〜2031年)
TSMC A16/A14/A13/A12、IntelのA14(14A)など複数の2nm以下世代の技術が計画済みです。
2028年はA14(1.4nm) 2031年はA10(1.0nm)——いずれもナノシートFETで対応で、A10がナノシート時代の最終世代と予測されています。
2025年のVLSI学会で、IMECは「フォークシートFET(Outer Wall Forksheet)」をナノシートとCFETを橋渡しする中間アーキテクチャとして発表しています。
2025年はTSMC N2(2nm)が量産開始し、FinFETからナノシートFET(GAA:ゲート・オール・アラウンド)への世代交代をしました。
ナノシートFETはゲートがチャネルを全周囲から覆う構造で、電流漏れを抑制しながら電流制御性能を向上させています。
sub-1nm時代:CFET(補完型FET)の登場(2034〜2040年)
CFET時代においても、チャネル長の短縮に伴う「短チャネル効果(電流リーク)」は課題として残ります。
A2ノードでは導電チャネル長が10nm以下となるため、Si(シリコン)チャネルの厚みも10nm以下に抑える必要が生じます。
2034年はA7(0.7nm)——CFETを採用する最初のプロセスノードとなり、同時に「サブ1nm時代」の幕開けです。
CFETとは、ナノシートFETのn型(電子)とp型(正孔)を垂直に積み重ねた構造で、同一面積にトランジスタをより密集させられます。
CFETによってCMOSロジック回路のトランジスタ密度は最大80%向上する可能性があります。
2036年はA5(0.5nm)、2040年はA3(0.3nm)——CFETをさらに洗練させた世代です。
2D材料時代(2043〜2046年)
2043年はA2(0.2nm)——2D FET(二次元材料を使ったトランジスタ)の初登場です。
2D材料とは原子一層〜数層の極薄半導体(MoS₂やWSe₂など)のこと。極薄チャネルでの漏れ電流を本質的に抑制できる利点があります。
現状の課題はn型に最適な材料(MoS₂)とp型に最適な材料(WSe₂)が異なり、一つの材料でCMOSを構成できていません。
さらに研究の大半がラボ規模(cmサイズ)であり、300mmウェハへの産業スケールへの移行が未解決です。
2046年はsub-A2(0.2nm以下)——2D FETのさらなる発展形で、これがロードマップの終点です。
BEOL(配線層)のロードマップ
BEOL(Back-End-of-Line)はトランジスタをつなぐ配線層の技術を指します。
現在(2025年、N2)は銅(Cu)配線、メタルピッチ24〜26nmで、デュアルダマシン/シングルダマシンプロセスです。
2028年(A14)はメタルピッチ20〜22nmで、銅プロセスの改良で対応します。
2031年(A10)はメタルピッチ18〜20nmで、ルテニウム(Ru)配線+エアギャップ+セミダマシンプロセスへ移行開始します。
ルテニウムは銅より電子散乱が少なく、極細配線での抵抗増加を抑制できる。バリア層不要(バリアレス)のビアも実現可能です。
2034年(A7)はメタルピッチ16〜18nmで、セミダマシン(サブトラクティブ)プロセスが本格化します。
2025年のIITC学会で、IMECはルテニウムを使った16nmピッチ配線(抵抗値656Ω/µm)のデモに成功したと発表します。
2037年(A5/A3)はメタルピッチ12〜16nm。PtCoO₂(白金コバルト酸化物)などの代替材料が研究対象になります。
電力供給ロードマップ
2026〜2027年頃はIVRをPCB内部へ内蔵し、48V→12V→0.8VのDC-DC変換をより効率的に実施する構成です。
2028〜2032年頃はIVRをチップパッケージ内部に統合。2.5D MIMキャパシタやSiパワーデバイスなどの次世代技術を活用します。
現在は電圧調整回路(IVR:統合電圧レギュレータ)をマザーボードのPCB上に搭載しています。
解説
「0.2nm」という数値はもはや原子数個分のスケールで、トランジスタが原子と会話し始めるのはいつだろうか。
2046年のsub-0.2nmが実現する頃、それを作る人々は今まだ学校に通っている世代——半導体業界のスパンの長さが、この仕事の重さと面白さを物語っている。
このロードマップのどこかでAIがシンギュラリティを起こしているはずだが、それは半導体の微細化という物理の世界にも及ぶのだろうか?
ロードマップの「年号」が量産年でないことは重要な注意点——研究者向けの技術完成目標であり、実際に手元のPCに載るのは数年後と見ておくのが妥当だ。
ムーアの法則の「年率50%密度向上」が2010年を境に止まったことは、業界では公然の事実で、チップレット普及はその穴埋め策だった、という文脈で読むとスッキリする。
チップレット・3Dパッケージング戦略はあくまで「応急処置」——微細化そのものの代替にはなれないという見方が、このロードマップの前提にある。
CFETは「縦に積む」ことで面積を節約する発想で、「同じ土地に高層ビルを建てる」イメージだ。トランジスタの3D化とも言える。
2D材料(MoS₂、WSe₂)の課題は根深い——n型とp型で最適材料が違うという問題は、従来のシリコンが「両方こなせる万能選手」だったことの有り難みを痛感させる。
2034年のA7(サブ1nm)まで実に9年で、2043年のA2まで18年。半導体ロードマップの時間軸がいかに長期戦かを再認識させる数字だ。
BEOLの銅→ルテニウム移行は「配線の抵抗問題」が深刻になってきたことの証拠で、トランジスタだけ微細化しても、配線が追いつかなければ性能向上にならない。
ルテニウムは白金族の希少金属——コスト面での課題は今後の議論になるが、現状の代替案の中では最有力候補だ。
電力供給のIVR内蔵化は地味だが重要。電圧変換ロスの削減はデータセンター・AI計算機の省エネに直結する。
ロードマップ総括表
| 年代 | ノード | トランジスタ構造 | BEOLメタルピッチ | 主な新技術 |
|---|---|---|---|---|
| 2025 | N2(2nm) | ナノシートFET(GAA) | 24〜26nm(Cu) | GAAへの世代交代 |
| 2028 | A14(1.4nm) | 改良ナノシートFET | 20〜22nm(Cu) | — |
| 2031 | A10(1.0nm) | ナノシートFET(最終世代) | 18〜20nm(Ru) | Ru配線・エアギャップ・セミダマシン開始 |
| 2034 | A7(0.7nm) | CFET(初登場) | 16〜18nm(Ru) | サブ1nm時代突入・CFET本格採用 |
| 2036 | A5(0.5nm) | 改良CFET | 12〜16nm | — |
| 2040 | A3(0.3nm) | 改良CFET | 12〜16nm | — |
| 2043 | A2(0.2nm) | 2D FET(初登場) | 未定 | 2D材料(MoS₂/WSe₂)導入 |
| 2046 | <A2(0.2nm以下) | 2D FET(発展型) | 未定 | ロードマップの最終地点 |
ソース:https://eu.36kr.com/en/p/3780133515039747