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富士通、Rapidusに1.4nm NPU製造を委託へ——FugakuNEXTを純国産チップで構築

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※ 画像は記事の内容をもとにしたイメージです。必ずしも現実を反映していない場合がありますのでご注意ください。

 

■事実

日経アジアは、富士通がRapidusを製造パートナーとして、世界初となる1.4nmプロセスのNPU(AI専用アクセラレータ)を開発する計画を報じた(https://asia.nikkei.com/business/tech/semiconductors/japan-s-fujitsu-to-develop-cutting-edge-1.4-nm-chips-for-ai-processing)。

製造はRapidus株式会社に委託され、チップ設計から製造まで日本国内のリソースで完結する形となる。

経済産業省(METI)が開発費の一部を負担する見込みだ。

この取り組みは、経済安全保障上の懸念が高まるなかでAI能力を国内で確保するための第一歩と位置づけられている。

FUJITSU-MONAKA-Xと富岳NEXT

開発されるNPUは、富士通が次世代スーパーコンピュータ「富岳NEXT」向けに開発中の「FUJITSU-MONAKA-X」プロセッサと組み合わせて使用される。

富士通は2025年6月、理化学研究所(RIKEN)から富岳NEXTの基本設計契約を受注した。

富岳NEXTはシミュレーションとAI処理を統合したハイブリッドHPC/AIシステムとして設計されており、RIKEN・富士通・NVIDIAの3社が共同で開発を進めている。

NVIDIAのGPUはNVLink Fusionを介してMONAKA-XのCPUに接続され、高帯域幅の連携動作を実現する設計だ。

メモリ帯域幅はCPUサイドが少なくとも7PB/s、GPUサイドが800PB/s以上を目標としており、現行の富岳と比較してGPU側で約4.9倍の改善を見込んでいる。

FUJITSU-MONAKA-Xのスペック

FUJITSU-MONAKA-Xは、ARMv9-AアーキテクチャとArm Scalable Vector Extension 2(SVE2)を採用した次世代Armプロセッサだ。

3Dチップレット構造を採用し、1ソケットあたり最大144コアを統合する。

サーバー向けArmプロセッサとして初めてArm Scalable Matrix Extension 2(SME2)を実装し、AI処理性能を大幅に強化する。

富士通の開発ブログによれば、MONAKA-Xは2029年の導入を予定しており、1.4nmプロセスと統合NPUを備えた構成となる。

PCIe 6.0およびCXL 3.0に対応し、超低電圧動作による省電力設計と機密コンピューティング対応のセキュリティ機能も実装される。

なお、先行する「FUJITSU-MONAKA」(MONAKA-Xの前世代)は2nmプロセスを使用し、2027年のリリースを予定している。

MONAKAはCoreダイに2nmプロセス、SRAMダイとIOダイに5nmプロセスを使い分けるヘテロジニアス集積構造を採用し、最先端プロセス使用面積を30%未満に抑えることでコストを最適化している設計だ。

Rapidusの製造ロードマップ

Rapidusは北海道千歳市のIIM-1ファブで、2nmゲートオールアラウンド(GAA)プロセスの試作を開始している。

2nmプロセスは「2HP」と命名され、トランジスタ密度は237MTr/mm²を達成。TSMCのN2プロセスと同等の論理密度だ。

2027年後半(会計年度)に2nm量産を開始し、月産6,000枚からスタートして2028年中に25,000枚規模へ段階的に増産する計画を提出済みだ。

1.4nmについては、2026年度からR&Dを本格化し、2027年度に北海道内に第2ファブの建設を開始、2029年の量産開始を目標としている。

同サイトでは1nm半導体の研究開発も並行して進める予定で、2030年前後の量産を視野に入れている。

2026年2月時点で、60社以上がRapidusの2nmチップの利用に関心を示しており、AI・ロボティクス・エッジコンピューティング分野の顧客が中心だ。

顧客獲得においては、米IBMおよびカナダのチップ設計スタートアップTenstorrentが有力候補として挙がっている。

2026年3月4日、CanonがRapidusと2nm画像処理半導体の共同開発契約を締結した。デジタルカメラや監視機器向けの画像処理チップを千歳ファブで試作する計画で、EDA大手Synopsysも参画する。R&D費用は最大400億円を見込み、そのうち約3分の2をNEDOが補助する。

製造プロセスの開発にはIBM、ASMLおよびキヤノンをはじめとする国内外のサプライチェーンパートナーが参画している。

Rapidusはこれまでに官民合計で累計1,676億円の資金調達を達成しており、日本政府のNEDOを通じた補助金も継続的に投入されている。

Rapidusの総投資額は最終的に約3.5兆円規模になると試算されており、政府補助金はその約2割に相当する。

残る約8割の資金調達は今後も継続課題であり、国内外の民間資本をどう確保するかがプロジェクトの焦点となっている。

競合他社の1.4nm動向

TSMCは1.4nmに相当するA14プロセスの第1ファブを台湾・中部科学工業園区で建設中であり、2028年後半の量産開始を目標としている。

IntelはIntel 14Aプロセスが約1年前倒しで18Aに近い性能と歩留まりを達成したと報告している。

Samsungは1.4nmプロセスの量産時期を当初の2027年から2029年に延期し、2nmの歩留まり改善を優先する方針に転換した。

Rapidusが計画通りに進んだ場合、主要ファウンドリと同等かそれに近いタイムラインで1.4nmを顧客に提供できる見通しとなる。

■解説

正直なところ、「2029年に純国産1.4nm」というのはかなり強気なロードマップです。

Rapidusはまだ2nm量産さえ開始していない段階で、1.4nmの製品顧客を具体的に発表したということになります。

ただし、これを無謀と切り捨てるのも早計です。

重要なのは、富岳NEXTという「確定した大口顧客」をアンカーとして持てたことです。

ファウンドリビジネスにおいて、量産ラインが立ち上がる前に具体的な顧客と製品を持てるかどうかは、事業の生死を分ける問題です。

TSMCの初期成長が、AppleやNVIDIAとの緊密な協業関係によって支えられていたことを想起すれば、この意味は自ずと見えてきます。

スーパーコンピュータはもともと半導体産業の牽引役でもあります。

「富岳」の前身にあたる「京」コンピュータは、Fujitsu SPARC64プロセッサを使用していましたが、そのプロセスの歩留まりと製造経験は後の製品に受け継がれました。

富岳NEXTが同じような役割をRapidusにとって果たせるかどうか、ここが今後の注目点です。

もう一点気になるのは、富岳NEXTがNVIDIAのGPUをNVLink Fusionで統合するという事実です。

「純国産」を強調しつつも、AIワークロードの主戦場はCUDAエコシステムが握っているため、NVIDIAを完全に排除するのは現実的に不可能という判断でしょう。

これは現実主義として評価すべきで、理想論より実利を取る姿勢はプロジェクトの持続性を高めます。

CPUとNPUを国産化して、GPU部分はNVIDIAと協業する。

この分業体制は、日本の強みを生かしながらNVIDIAのソフトウェア資産も活用できる、現時点での最適解に見えます。

技術的に難しいのは、やはり歩留まりです。

2nmの量産が始まった時点で初めて、Rapidusの製造能力の実力値が市場に明らかになります。

1.4nmは2nmの経験を踏まえて開発されるわけですから、2nmの歩留まりがそのまま1.4nmへの信頼性評価に直結します。

2028年の2nm量産立ち上がり局面が、このプロジェクト全体の命運を左右すると見ています。

地政学的文脈も切り離せません。

米中の半導体摩擦が激化するなかで、日本が独自のファウンドリエコシステムを持つことは経済安全保障上の意味合いが大きい。

TSMCの熊本進出が話題になりますが、あれはあくまでTSMCが主役であって、日本が製造能力の主権を持つことにはなりません。

Rapidusが成功した場合に初めて、日本は自前の最先端プロセスを持つ国として名乗りを上げられます。

「失われた30年」と呼ばれた期間に半導体製造から撤退を余儀なくされた日本にとって、富岳NEXTとRapidusの組み合わせは単なるプロジェクトを超えた象徴的な意味を持ちます。

うまくいけば、1970〜80年代のNEC・富士通・日立が世界市場を席巻した時代以来、初めて日本製チップがグローバルなHPCランキングのトップを争う日が来るかもしれません。

問題は「うまくいけば」という前提条件の重さです。

Samsungでさえ2nmの歩留まり改善に苦戦して1.4nmを延期している現実を見れば、後発のRapidusがそれ以上のスピードで追い上げるハードルがどれほど高いかは想像に難くありません。

資金調達の課題も残っています。総投資額の約3.5兆円に対して、政府補助が確定しているのはその2割程度。残りの民間資本をどう集めるかは依然として未解決です。

ただし、こうした困難はRapidusの関係者も十分に承知しているはずです。

承知の上で、富士通という国内最大の顧客を獲得し、富岳NEXTというナショナルプロジェクトを軸に据えた。

TSMCが量産を担い、Rapidusがエッジを攻める——そんな役割分担が数年後に成立していれば、日本の半導体エコシステムは本物になるでしょう。

TSMCの熊本ファブは成熟ノードの大量生産を得意とし、Rapidusは最先端ノードの試作・少量生産に特化する。

この棲み分けは競合ではなく補完であり、日本のサプライチェーン全体にとってプラスに働く可能性があります。

不確実性は高いが、可能性はある——今のRapidusをそう評価しています。

Canonの2nm委託契約が成立したことで、「顧客が集まらない」という懸念は一定程度払拭されつつあります。

画像処理という明確なユースケースを持つ国内大手が最初の顧客として名乗り出たことは、Rapidusのビジネス上の信頼性を高める意味で重要です。

ただ、個人的にひとつ引っかかっているのがNPUの立ち位置です。

「このNPU、何に使うんですか?」という疑問が拭えません。

そしてMONAKA-X自体の仕様も、正直なところ意味不明です。

CPUに向けた問いとまったく同じです。富岳NEXTはNVIDIA GPUをNVLink Fusionで接続するとも発表しているわけで、「国産NPU+NVIDIA GPU+MONAKA-X CPU」という三層構造の役割分担が今ひとつ見えない。

「NVIDIA GPUが全部やってくれるのに、わざわざ国産NPUで何をするの?」という問いに対する答えが、現時点のソースからは読み取れません。

さらに踏み込むと、NPUのメモリアドレス空間が64bit対応かどうかも不明です。

これは実用上かなり重要な問いで、32bitなら扱えるメモリ空間は最大4GBに制限されます。最近のLLM推論では数十GBのウェイトを扱うのが当たり前なので、32bitでは話になりません。

逆に64bit対応で大容量HBMと直結できるなら、GPUに近い使い方になりますが——そうなると「GPUとの差別化は何?」という問いが再浮上します。

現時点で不明な仕様を列挙すると、メモリアドレス空間、MONAKA-XとのインターコネクトプロトコルとNPU間の帯域幅、NVIDIA GPUとの具体的な役割分担、そして対象ワークロードの定義と、核心部分がほぼ全部「未公開」という状態です。

経済安保の文脈で国産シリコンを一枚挟む象徴的意義はある。しかし技術的ユースケースの説明は現時点で著しく不足しており、評価は今後の仕様開示待ちです。