■事実
NVIDIAは2026年3月、サンフランシスコで開催されているGame Developers Conference(GDC)2026において、ローカルAI動画生成ツール「ComfyUI」向けの大型アップデートを発表した。
今回の発表の柱は3点で、新インターフェース「App View」の提供開始、RTX Video Super Resolutionのノード統合、そしてNVFP4/FP8精度フォーマットへの対応拡大となる。
■ ComfyUI App View:ノードグラフの複雑さを隠蔽
ComfyUIはこれまで、スパイダーウェブ状の複雑なノードグラフを通じてAIワークフローを組む構造が主流だった。
強力ではあるものの、グラフ操作に不慣れなアーティストや初心者には参入障壁が高かったという課題がある。
新たに実装された「App View」は、パネルベースのシンプルなUIを提供し、プロンプト入力・パラメーター調整・生成実行を直感的に行えるよう設計されている。
高度な制御が必要な場合は、従来の「Node View」にいつでも切り替えることができる。
App Viewは本日(2026年3月)より利用可能となっている。
■ NVFP4/FP8:RTX 5000シリーズで最大2.5倍高速化
ComfyUIはNVFP4およびFP8データフォーマットをネイティブでサポートするようになった。
RTX 5000シリーズ(Blackwellアーキテクチャ)のNVFP4フォーマットを使用した場合、動画生成の速度は最大2.5倍向上し、VRAM使用量は最大60%削減される。
FP8フォーマットの場合は速度が1.7倍向上し、VRAM使用量が40%削減される。
NVIDIAによれば、昨年9月以降のPyTorch-CUDA最適化も含めた累計では、RTX GPUのComfyUI上のパフォーマンスはすでに40%改善されていた。
NVFP4/FP8対応済みのモデルとして、LightricksのLTX-2.3、Black Forest LabsのFLUX.2 Klein 4BおよびFLUX.2 Klein 9Bが利用可能となった。
これらのチェックポイントはHugging Faceから直接ダウンロードし、ComfyUIのテンプレートブラウザ経由でデフォルトワークフローに読み込むことで使用できる。
CES 2026(2026年1月)の時点では、LTX-2(Lightricks)、FLUX.1/FLUX.2(Black Forest Labs)、Qwen-Image、Z-Image(Alibaba)向けにNVFP4/FP8チェックポイントが提供されていた。
GDC 2026でのアップデートでは、LTX-2.3向けのNVFP4サポートが近日追加される予定であることも明らかにされた。
■ RTX Video Super Resolution:他ツール比30倍高速の4Kアップスケーラー
NVIDIAは、RTX Video Super ResolutionをComfyUIのスタンドアローンノードとして提供開始した。
これにより、生成した動画クリップを数秒で4K解像度にアップスケールできるようになった。
RTX GPUのTensor Coreを直接利用する仕組みで、処理速度は一般的なローカルアップスケーラーと比較して最大30倍高速とされている。
これまで10秒の動画クリップを4Kにアップスケールするには数分を要していたが、RTX Video Super Resolutionは数秒での処理を実現している。
エッジのシャープニングと圧縮アーティファクトの除去も同時に行う。
AIデベロッパー向けには、PyPIリポジトリで無料のPythonパッケージ(Python Wheel)とサンプルスクリプトが公開されており、自身のプロジェクトへの統合が容易にできる。
■ その他のRTXエコシステムアップデート(GDC 2026)
LTX Desktopは、LTXエンジンをベースとした完全ローカル動作のオープンソース動画エディターで、NVIDIA GPU向けに最適化されている。
クラウドにデータを送信せずAI支援編集ができる点が特徴。
LM Linkは、LM Studioを実行する複数のデバイスを接続し、ラップトップからリモートのRTX デスクトップやDGX Sparkへ推論処理をオフロードできる機能。
また、GeForce RTX 5000シリーズ向けのDLSS 4.5アップデートも近日公開予定で、Dynamic Multi Frame GenerationおよびMulti Frame Generation 6xモードが追加されるとされている。
■解説
正直、今回のNVIDIAの発表を「RTX単体の新機能」として読むより、「AMDとROCm環境との差がいかに広がっているか」を測るものさしとして読んだほうが、本質が見えてくると思っています。
まずROCm側の現状を整理しておくと、AMDは2026年1月にComfyUI Desktop v0.7.0へROCm 7.1.1をネイティブ統合し、「やっとWindowsでもワンクリックで使える」環境を整えました。
前バージョンのROCm 6.4と比較してSDXLで2.6倍、FLUX.1で5.2倍、WAN 14bで5.4倍という速度改善は確かに著しく、AMDのComfyUI対応が本格化した点は評価できます。
しかし数字だけ比べると、NVIDIAのRTX 5000シリーズが今回のGDCで示した内容の前ではかなり霞んで見えるのも事実です。
その理由の一つがNVFP4フォーマットです。
これはBlackwellアーキテクチャ固有の機能で、AMDの現行製品には対応するフォーマットが存在しません。
つまり「VRAM 60%削減・速度2.5倍」という今回の最大の訴求ポイントは、RTX 5000シリーズにしか適用されない話です。
FP8についても状況は複雑で、RX 9070シリーズ(RDNA4、gfx120x)はハードウェア的にFP8演算をサポートするものの、ComfyUIのコード上では長らくNVIDIA以外のFP8演算が無効化された状態が続いていました。
GitHubには「RDNA4でFP8を有効にしてほしい」というフィーチャーリクエストが2025年5月に上がっており、つまりハードウェアの準備はできていてもソフトウェアスタックが追いついていないという典型的な構図があります。
旧世代のRX 7900 XTXに至っては、ComfyUI上のROCm環境でFP8は非対応であり、BF16・FP16・INT8での運用が前提になります。
RTX Video Super Resolutionについても、AMD側に相当する機能はまだありません。
NVIDIAはTensor Coreを直接使って他のローカルアップスケーラー比30倍高速と主張しており、FSRがゲーミングのリアルタイム描画向けに磨かれてきたのとは用途が異なります。
この種のビデオ生成後処理の最適化にAMDが手を出せていない点は、ROCmエコシステムの厚みの差を如実に示していると言えるでしょう。
一方で、ROCmが「詰まっている」わけではないことも公平に見ておく必要があります。
かつてDirectML時代のAMD GPUはComfyUI上で「GTX 1060に負ける」という笑えない状況でしたが、ROCm化によってその差は完全に解消されました。
セットアップ面もROCm 7.1.1のWindowsネイティブ統合で大幅に改善されており、「別途特殊ドライバーが要る」「WSL2経由でしか動かない」という時代は終わりつつあります。
ただ、今回NVIDIAがApp ViewとRTX最適化をセットで発表してきた意図は、「RTXユーザーは既存の複雑さから解放され、かつAMDでは体験できない速度で動く」という一点突破のメッセージです。
要するに、ROCmはCUDA/NVFP4の土俵に上がろうとしている段階で、NVIDIAは既にその土俵を次のレイヤーに移し始めている、ってことですね。
UDNAへの移行やROCm 7.x系の整備でAMDのソフトウェアスタックは着実に前進していますが、GDC 2026の発表を見る限り、2026年時点でComfyUIをガチで使い倒したいなら「RTX 5000シリーズを選ぶのが最善」という結論はほぼ揺らがないと個人的には見ています。