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AnthropicがUKスタートアップ「Fractile」と交渉中——SRAM内蔵推論チップが既存GPUを100倍高速・10分の1コストで置き換えるか

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■事実

Fractileとは何か

2026年3月にステルスから脱し、Kindred Capital・NATO Innovation Fund・Oxford Science Enterprisesが共同リードする1,500万ドルのシード資金調達を発表しています。

※ スタートアップのステルスとは製品やサービスを正式にリリースするまで、競合他社に事業内容や技術を隠して秘密裏に運営する手法のことです。

Fractileのチームはそれまで非公開で開発を進めており、NVIDIA・Graphcore・Imagination Technologiesの出身者で構成されています。

AnthropicがUK拠点のスタートアップ「Fractile」とAI推論チップ調達に向けた初期交渉に入っています。(The Informationが報道)

Fractileは2022年にWalter Goodwin博士(オックスフォード大学AIロボティクス専攻PhD)が創業しています。

 

Memory Compute Fusion Architecture(メモリコンピュートフュージョンアーキテクチャ)

Fractileの技術コアは「Memory Compute Fusion Architectureです。(メモリコンピュートフュージョンアーキテクチャ)」

通常のAIチップはGPUコアとHBMメモリが分離しており、データ転送がボトルネックになります。

Fractileの設計ではSRAM(Static Random Access Memory:定期リフレッシュ不要の高速メモリ)をチップ内部に組み込み、計算とデータを同じ場所で処理する「In-Memory Compute(インメモリコンピュート)」方式を採用しています。

DRAMへのデータ往来を最小化することで、帯域幅の壁を回避する構造です。

Fractile公式サイトの表現では「メモリと計算を物理的にインターリーブ(交互配置)し、両方を同時に提供する」とあります。

Fractileが主張するスペック

既存GPUと比較して推論速度を100倍高速化、コストを10分の1に削減できると主張しています。(CEO発言、2024年7月時点のシミュレーションベース)

電力効率は現行AIハードウェア中で20倍優れるとも主張しています。(ワットあたりのパフォーマンス)

大型言語モデルを毎秒数千トークンで数千の同時ユーザーにサービス提供できるスループットを目標としています。

重要な注意点はこれらはすべてコンピュータシミュレーション上での試算であり、テストチップの実製造はまだ行われていない。商用製品が実際のデータセンターに導入可能になるのは2027年が見込まれています。

Anthropicの現在のチップ調達状況と急成長

Anthropicの年間売上換算(ランレート)は2025年末の約90億ドルから2026年4月時点で300億ドル超へと急拡大しています。

百万ドル以上の年間支出をするエンタープライズ顧客数が2026年2月の500社超から2か月で1,000社超に倍増しています。

AMD GPUを第4の調達先として追加するとの観測報道もあります。

Anthropicは現在、推論インフラをNVIDIA GPU・Google TPU・Amazon Trainium(AWS)の3社から調達しています。

2026年4月にBroadcomとGoogle・Anthropicの3者拡張契約が発表:2027年以降に3.5ギガワット相当のGoogle TPU容量をBroadcom経由で確保しています。

 

AIインフェレンス市場の急拡大とNVIDIAの対応

Groq 3 LPU(Language Processing Unit)のスペックはチップ1基あたり512 MB SRAM、150 TB/sメモリ帯域幅、2026年Q3にSamsung 4nmプロセスで出荷予定です。

※ Groq(NVIDIAが買収した推論チップ企業)とイーロン・マスク氏のAI「Grok」は別物です。

Groq 3 LPXラックは256基のLPUを搭載、合計128 GB SRAM、集合帯域幅40 PB/s(ペタバイト/秒)です。

Vera Rubin NVL72との組み合わせで、Blackwell NVL72比で推論効率35倍(1ワットあたりのトークン数)を主張しています。

AI推論(インフェレンス)市場は2026年に500億ドル超に達する見込みです。

AI全体の計算需要に占める推論ワークロードの割合はすでに約3分の2に達しています。(トレーニングより推論がコスト主役に)

NVIDIAは2025年12月にGroq(Elon Musk氏のGrokとは別の企業)のIPおよびエンジニアチームを200億ドルで実質買収しています。(アクワイアハイア形式)

 

解説

なぜ今、Anthropicはこの交渉を進めているのか

NVIDIAが200億ドルでGroqを取り込んだことで、「SRAMベースの推論加速」分野の独立したサプライヤーが事実上消えた。Anthropicがその空白を埋めうる新たなサプライヤーを探すのは合理的だ。

Anthropicはチップの単一サプライヤー依存を意図的に避けてきた(NVIDIA・Google・Amazon・Broadcom)。Fractileは「第5の選択肢」としての位置づけだ。

Anthropicのコスト問題の本質はランレートが300億ドルを超えながらも、推論コストがグロスマージンを圧迫している——「売れば売るほどコストがかかる」構造にある。

InferenceはTrainingより頻度が高く常時発生するため、トークン単価を下げることが競争力に直結する。

 

Fractileの技術は本物か——過大評価の可能性

「テストチップもないのに交渉している」のは、青田買いとも言えるし、見切り発車とも言える。Anthropicもさすがに「デモ機なしで契約」はしないだろうが、注目度の証拠にはなる。

100倍高速・10分の1コストという数字は魅力的だが、すべてシミュレーションベース。テストチップすら製造されていない。

シミュレーションと実シリコンの間には「死の谷」が存在する。エレクトロマイグレーション・熱密度・製造ばらつきなど、机上では見えないリスクが多い。

「大量のSRAMをチップに詰め込む」というアプローチはNVIDIAがGroqに200億ドル払って実証した有効性はあるが、規模とコストのトレードオフがある。(SRAMはDRAMより単価が高い)

2027年商用化が予定通り進んでも、Anthropicにとって「初期採用のリスク」を負うことになる。交渉が「初期段階」にとどまっているのは理性的です。

 

NVIDIA一強体制への対抗構図と業界トレンド

NVIDIAはGroq買収によって「トレーニング(GPU)+推論(LPU)」の両軸を自社で押さえた。これにより競合AIチップメーカーはさらに不利な立場になる。

Fractile・Cerebras・SambaNova(サンバノバ)など、SRAMベースまたはニアメモリ型アーキテクチャを持つスタートアップ群が次の推論特化チップ市場を争っている。

HBM(高帯域幅メモリ)の逼迫と価格高騰が続くなか、外部メモリへの依存度を下げるSRAMベースのアプローチは「インフラ調達リスクの回避策」としても機能しうる。

ただし、CUDAエコシステムのソフトウェア資産は依然として圧倒的。新アーキテクチャへの移行コスト(ソフトウェア最適化・エンジニア再教育)は数字には出てこない。

 

要するに、Anthropicはトークン1個あたりのコストをどこまで下げられるかという「永遠の戦い」を、今度はスタートアップのシミュレーション結果に賭けるかどうか検討している段階にある。NVIDIA独占に楔を打ちたい業界の本音は理解できるが、「2027年に本物のチップが出るか」が最初の関門になる。

比較表

主要AI推論アクセラレーターのアーキテクチャ比較

項目 NVIDIA Groq 3 LPX Fractile(目標値)
メモリ方式 On-chip SRAM On-chip SRAM(In-Memory Compute)
チップあたりSRAM 512 MB 未公表
ラック単位SRAM 128 GB(256 LPU) 未公表
帯域幅 150 TB/s(チップ)/ 40 PB/s(ラック) 未公表
対GPU比(速度) Blackwell比35倍(電力効率) 既存GPU比100倍(速度)
コスト削減目標 未公表 既存GPU比10分の1
電力効率 未公表 既存ハードウェア比20倍
製造プロセス Samsung 4nm 未製造(シミュレーション段階)
出荷時期 2026年Q3予定 2027年予定(データセンター向け)
開発状況 製品発表済み テストチップ未製造

*Fractileの数値はシミュレーションベース。実際の性能は製造・実測後に評価される。

Anthropicのチップ調達ポートフォリオ(2026年5月時点)

サプライヤー チップ種別 用途・備考
NVIDIA GPU(Blackwell等) クラウド経由で現在も主力
Google(TPU) TPU v7(Ironwood)等 Broadcom経由で2027年に3.5GW規模へ拡大
Amazon(AWS) Trainium 2 プロジェクト・レイニアで学習も担当
Broadcom カスタムASIC仲介 Google TPUのラック組み立て・供給
AMD GPU(MI系) 第4のサプライヤーとして観測報道あり
Fractile 推論専用チップ(目標) 初期交渉段階。2027年商用化目標