自作PCユーザーがゲーム用PCの解説をします

自作ユーザーが解説するゲーミングPCガイド

Ryzen AI 7 445は「AI 5」より遅い──新世代Gorgon Pointの命名規則が混乱を招く

投稿日:

※この画像はAIが生成したイメージです。実際の製品とは異なります。

 

■事実

Notebookcheckが、AMD Ryzen AI 400シリーズ(コードネーム:Gorgon Point)の新モデル「Ryzen AI 7 445」の実機テスト結果を公開した(https://www.notebookcheck.net/AMD-Ryzen-AI-7-445-disappoints-in-first-in-house-benchmarks.1260796.0.html)。

テストはLenovo Yoga 7 2-in-1 16を使用。

Notebookcheckの総合プロセッサー評価スコアで、Ryzen AI 7 445は61.2ポイントを記録した。

この数値は、Intel Core Ultra 7 256Vの60.7ポイントをわずかに上回る水準だが、旧世代の「Ryzen AI 5 340」(Lenovo Yoga 7 2-in-1 14での計測)の63.7ポイントを下回っている。

Cinebench R15マルチスレッドループでは、Ryzen AI 7 445搭載機が1,638ポイントに対し、Core Ultra 7 256V搭載機は1,433ポイントで、CPU性能自体はIntelより優位にある。

iGPU性能については、Ryzen AI 7 445のRadeon 840MはNotebookcheckの3DMarkスコアで19.3ポイントを記録。

これはRyzen AI 5 340の22ポイントを下回り、Intel Arc 140V搭載システムの約41ポイントと比較すると大きな差がある。

Ryzen AI 7 445とRyzen AI 5 340の主な仕様比較

項目 Ryzen AI 7 445 Ryzen AI 5 340
コードネーム Gorgon Point Krackan Point
コア数/スレッド 6/12(Zen5×2+Zen5c×4) 6/12(Zen5×3+Zen5c×3)
最大ブーストクロック 4.6GHz 4.8GHz
L3キャッシュ 8MB 16MB
iGPU Radeon 840M(4コア) Radeon 840M(4コア)
NPU性能 最大50 TOPS 最大50 TOPS
デフォルトTDP 28W(15〜54W) 28W(15〜54W)
ネイティブPCIeレーン 14/14 16/16
発売日 2026年1月 2025年2月

同じ6コア/12スレッド構成でも、Ryzen AI 7 445はZen5コアが2基(Ryzen AI 5 340は3基)で、代わりにより省電力のZen5cコアが4基(同3基)となっている。

最大ブーストクロックでもRyzen AI 5 340の4.8GHzに対し、Ryzen AI 7 445は4.6GHz止まりで下回る。

L3キャッシュについてはRyzen AI 7 445の8MBに対しRyzen AI 5 340は16MBと倍の差がある。

Ryzen AI 400シリーズは2026年1月のCES 2026でAMDが発表した。

Gorgon PointはStrix Point(Ryzen AI 300上位)およびKrackan Point(Ryzen AI 300下位)の中間的なリフレッシュで、同一のZen5/Zen5c CPUコア、RDNA 3.5 iGPU、XDNA 2 NPUアーキテクチャを踏襲しつつクロック周波数などを小幅に引き上げたモデル群となっている。

今回問題となったRyzen AI 7 445は、CES 2026発表時点ではまだ多くのノートPCが実売されていない段階であり、実際の性能が購入者に検証される機会が限られていた。

Notebookcheckは「Ryzen AI 7 445は上位ブランドを名乗っているが、スペックでも性能でも旧世代のRyzen AI 5 340の上位に位置していない」と結論付けている。

Ryzen AI 400シリーズのより上位モデルであるRyzen AI 9 HX 475(12コア:Zen5×4+Zen5c×8)やRyzen AI 7 450(8コア:Zen5×4+Zen5c×4)はGorgon Pointシリーズの中でより多くのZen5コアを搭載しており、今回問題となったRyzen AI 7 445とは異なる構成となっている。

現在の各社ノートPC市場においては、Lenovo Yoga 7をはじめ、ASUS Zenbook 14など複数の人気モデルで前世代の「Ryzen AI 7 350」から今世代の「Ryzen AI 7 445」へのアップデートが行われており、ユーザーがスペック表の型番変更を「性能向上」と誤認しやすい状況が生まれている。

CES 2026発表から3ヶ月が経過した現時点でも、Ryzen AI 400搭載ノートPCの多くはまだ実売段階に入っておらず、市場での比較環境が整っていないことが今回の問題を顕在化させた要因のひとつとされている。

■解説

「AI 7」は「AI 5」より上のはずだ、という常識を逆手に取った命名になっている。

Ryzen AI 7 445を搭載したノートPCを選んだ消費者が、旧世代のRyzen AI 5 340搭載機と比べて「性能が落ちている」と感じるケースが出てくる可能性がある。 スコアを見ると、CPU総合では61.2 vs 63.7ポイントで旧世代に負けており、iGPUでも19.3 vs 22ポイントで劣っている。

仕様を見ると、「AI 7」なのにフルZen5コアが2基しかない。 Zen5cはZen5の省電力版で、キャッシュが少なく動作クロックも低い。 AI 5 340は3基+3基の均等構成で、キャッシュも16MBある。 これに対してAI 7 445は2基+4基の省電力寄り構成でキャッシュが半分の8MB。 数字だけ見て「AI 7は AI 5より上位世代で良いチップのはずだ」と判断すると見事に裏切られる。

Zen5とZen5cでは何が違うかというと、主にキャッシュ量と動作クロックだ。 Zen5cはZen5よりダイ面積が小さく製造コストが安い反面、L3キャッシュを共有する構造上、キャッシュヒット率が下がりやすい。 AI 5 340は16MBのL3キャッシュを持っていたのに対し、AI 7 445は8MBしかない。 これはキャッシュ依存度の高いゲームや一部のクリエイティブ用途で直接スコアに響く差だ。

なぜこういう構成になったかというと、おそらくコスト・電力効率のバランスをOEMが取りやすくするためだと思う。 Zen5cはZen5よりダイ面積が小さく、省電力設計が要求される薄型ノートPCにとっては都合がいい。 AMDとしても「Ryzen AI 7」というブランドラベルを維持しながら、より低コストな構成のシリコンをラインナップに加えた、ということだろう。

問題はそれを消費者に分かるように伝えていない点だ。 これはAMD特有の問題ではなく、IntelのCore Ultra命名でも同種の混乱が過去に起きている。 ただAMDは以前から「Zen5×n基+Zen5c×n基」という複雑なコア構成を採用しており、そのトレードオフが製品名に一切反映されないのは、長年改善されない悪習慣のひとつだ。

iGPUがIntelのArc 140V(約41ポイント)に対して19.3ポイントという差も気になる。 倍以上の差があり、iGPUのゲーム用途や映像処理では明確な格差になる。 薄型ノートPCで外付けGPUを持たない用途では、この差は見逃せない。

CES 2026発表時点でまだ多くの搭載機が市場に出ていなかったことも問題を大きくした。 Notebookcheckが指摘している通り、買い手がラボで実際に比較できる前に「AI 7」というブランドに引きずられてしまう状況だった。

AMDは「キャッシュの物量で押す」アプローチ(X3DシリーズがまさにそれだがL3を倍積みする路線)を得意としているが、今回はそのキャッシュが前世代の半分しかないモデルを上位ブランドで出してしまった。 X3Dで培ったキャッシュ重視の哲学とは真逆の判断で、同じメーカーがやっているとは思えない奇妙さがある。

「Ryzen AI 7 445」という名前に惑わされずに、必ずZen5とZen5cのコア数とL3キャッシュ量を確認して選ぼう、というのが今回の教訓だ。

余談だが、AMDのモバイルCPU命名は年々複雑化が進んでいる。 Ryzen AI 300/400というシリーズ番号のほかに、Strix Point・Krackan Point・Gorgon Pointという複数のコードネームがあり、それぞれZen5とZen5cのコア比率が異なる。 同じ「Ryzen AI 7」でも搭載モデルによってZen5の比率が1:1だったり1:2だったりする。 スマートフォンのSoCと違い、ノートPCのCPUは製品名だけで性能を判断するのが難しい市場になってきた。

ラップトップ向けCPUの複雑な命名という意味ではIntelも同じ穴の狢ではあるが、AMDは少なくともデスクトップのRyzenシリーズでは分かりやすい体系を維持していた。 それがモバイル市場でOEM向けにSKUを細分化するうちに、ユーザー視点では解読困難な世界になってしまっている。

「世代が新しければ性能が上」という常識が通用しなくなりつつある今、メディアや購入ガイドの役割はいっそう重要になっている。

そもそもAMDのモバイル向け命名規則は以前から「摩訶不思議」と言っていいレベルの複雑さで知られている。 たとえば「Ryzen 5 7530U」はZen3ベースなのに、「Ryzen 5 7540U」はZen4ベースだったりする。 型番の数字が1違うだけで中身のアーキテクチャが丸ごと異なる、という状態がかつて普通に存在していた。 今回のRyzen AI 7 445 vs Ryzen AI 5 340の問題は、その長年の「わかりにくさ」の延長線上にある。

ノートPCというカテゴリー自体、筐体の排熱設計によって同じCPUでも性能のばらつきが大きく、外から製品の優劣を判断するのがそもそも難しい。 それに加えてAMDの命名規則まで解読不能となると、消費者はほぼ無防備な状態でスペック表と向き合うことになる。

もう少し何とかならなかったのかと、思わずにはいられない。