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AMD、RDNA 4m GPUターゲット「GFX1171」と「GFX1172」を追加、次世代Zen 6 APUグラフィックスを示唆

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■事実

LLVMにGFX1171・GFX1172が新たに追加

AMDが次世代APU向けと見られる新しいGPUターゲット「GFX1171」と「GFX1172」をオープンソースコンパイラ基盤LLVMに追加したことが、Phoronixの報告で明らかになった(https://www.phoronix.com/news/AMD-RDNA-4m-GFX1171-GFX1172)。

これらはGitHubのLLVMプルリクエスト(https://github.com/llvm/llvm-project/pull/187735/changes/f7a18ecc54652e8a61bef08da4e57190a9204084)で確認されており、AMDのオープンソース開発チームが自社の次世代グラフィックスシェーダーコンパイラ(AMDGPUバックエンド)を継続的に拡張していることを示している。

GFX1171とGFX1172は、2026年2月に初めてLLVMに登場したGFX1170に続く形で、同じ「RDNA 4m」セクションの下に追加された。

現時点でGFX1171とGFX1172はGFX1170と同一のコードパスおよびISA(命令セットアーキテクチャ)を持ち、機能上の差異はまだ確認されていない。

少なくとも3つのグラフィックスターゲットが同じブランチに並ぶことで、AMDが複数の製品モデルまたは構成向けにRDNA 4mを準備していることが強く示唆される。

RDNA 4mとはどういうアーキテクチャか

RDNA 4mはGFX11ファミリーに分類されており、これは通常RDNA 3アーキテクチャに対応するファミリーである。

一方、完全なRDNA 4(Radeon RX 9000シリーズなどのディスクリートGPU)はGFX12ファミリーを使用する。

そのためRDNA 4mは「RDNA 4」の名称を持ちながらも、厳密にはRDNA 3系のGFX11ファミリーに属する独立した分類となっており、RDNA 3.5とRDNA 4の中間的な存在と位置付けられる。

GFX1170はLinuxのドキュメントでAPUまたはSoCクラスのGPUとして明記されており、ディスクリートRadeon GPUではないことが確認されている。

RDNA 4mが持つRDNA 4由来の機能拡張

以前のパッチですでに判明している通り、RDNA 4mにはRDNA 4に近い命令セットの拡張が複数施されている。

具体的には、AI・機械学習ワークロードで使用されるFP8(8ビット浮動小数点)およびBF8データ形式の変換サポートが追加されている。

さらにWMMA(Wave Matrix Multiply-Accumulate)命令とSWMMACに関連する更新も含まれており、行列演算(マトリクス演算)の処理能力が強化されている。

これらの拡張により、FSR 4(FidelityFX Super Resolution 4)をはじめとする高度な機械学習アルゴリズムのサポートが技術的に可能になる。

FP8命令はニューラルネットワークを使ったアップスケーリングやフレーム補間の基盤となる演算であり、RDNA 4mはこの点でRDNA 3.5から大きく踏み込んだ設計となっている。

なお、FSR 4は現時点でRDNA 4(GFX12)搭載のRadeon RX 9000シリーズのみが正式対応しており、Strix Pointを含むRDNA 3.5世代のAPUでは利用できない状況が続いている。

FSR 4はFSR 3と比較して画質・性能の両面で大幅な改善が確認されており、AMD APUユーザーにとってFSR 4への対応は長年の課題となっていた。

FP8サポートとAPUロードマップの位置づけ

各APU世代におけるFP8サポートの状況は以下の通りに整理されている。

APUコードネーム アーキテクチャ FP8対応
Strix Point RDNA 3.5 非対応
Strix Halo RDNA 3.5 非対応
Medusa Point RDNA 4m(RDNA 3.5+相当) 対応
Medusa Halo RDNA 5 対応

現在のリーク・報告によれば、Zen 6ベースのAPUコードネーム「Medusa Point」がGFX1170ファミリーを採用する可能性が高い。

Medusa PointはZen 5世代のStrix Pointの後継にあたり、Ryzen 5・Ryzen 7クラスでは4コア(Zen 6クラシック)+4コア(Zen 6c)+2コア(低電力)+8 CUのRDNA 4m iGPU構成が想定されている。

これはAMDとして初めて低電力x86コアを搭載するAPUとなる見通しで、Intel Core Ultraが先行していたハイブリッドアーキテクチャをAMDも採用する形になる。

Ryzen 9クラスでは、12コアのZen 6 CCDをMCM(マルチチップモジュール)で組み合わせた最大22コア構成も報告されており、デスクトップ向けCCDを横展開するアプローチが用いられるとみられる。

一方、上位のMedusa HaloはRDNA 5を採用し、次世代LPDDR6メモリにも対応する見通しで、AMD APUとして本格的なアーキテクチャ刷新となる。

なお、AMDはGFX1170・GFX1171・GFX1172のいずれについても、具体的な出荷製品との紐付けを公式には認めていない。

AMD APUのGPUロードマップ全体像

AMDのGPUOpenドライバーのコード解析などから、RDNA 4はディスクリートGPU専用と位置付けられていることが確認されており、APU(iGPU)への搭載は現時点で予定されていない。

2026年には、Zen 5ベースのStrix Pointをリフレッシュした「Gorgon Point」が投入される計画があり、こちらも引き続きRDNA 3.5 iGPUを搭載する予定とされている。

複数の業界観測筋は、RDNA 3.5系列のiGPUは低価格帯・主流製品セグメントにおいて2029年頃まで継続利用される可能性を指摘している。

■解説

今回のGFX1171・GFX1172追加は、ソースコード上の数行の変更にすぎないが、AMDの次世代APU戦略を読み解く上でなかなか興味深いニュースだ。

実はMedusa Pointに関連するターゲットはGFX117X系だけではない。

GFX1153もMedusa Pointと関連付けられており、このままいくとGFX1153とGFX117X系が同一プラットフォームに混在する形になる。

さらに興味深いのは、GFX1153はまだ出荷製品が存在しないにもかかわらず、ROCm(AMDのオープンソースGPUコンピューティングスタック)にはすでにバイナリが用意されていることだ。

AMDが水面下で着々と準備を進めていることが窺える。

さて「RDNA 4m」という名称についてはっきり言っておくと、これはかなり誤解を招きやすいネーミングだ。

実態はGFX11ファミリー、つまりRDNA 3の血筋であって、RDNA 4(GFX12)とは別物だ。

正確にはRDNA 3.5とRDNA 4の中間に位置するハイブリッドなアーキテクチャと理解した方がいい。

要するに「RDNA 3.5+」あるいは「RDNA 3.5 Pro」とでも呼ぶべき存在だ。

ここで一歩引いて、AMDのAPU向けiGPUの歴史を振り返ってみると、GFX902(Vega)やGFX90c(Vega改)の時代が驚くほど長く続いた。

これはAMDの怠慢ではなく、iGPUの性能を決定づける最大の要因がメモリ帯域だからだと個人的に見ている。

内蔵GPUはシステムメモリを共有して使うため、どれだけGPUアーキテクチャを新しくしても、メモリ帯域が劇的に向上しなければ実性能は頭打ちになる。

逆に言えば、メモリ帯域が大きく改善しない限り、次の世代のアーキテクチャに無理にアップグレードしても得られるものが少ない、というのがAMDの哲学なのだろう。

これは近年のLLM(大規模言語モデル)の動作でも広く知られるようになった話だ。

推論性能の決め手はVRAM帯域であり、iGPUも例外ではない。

メモリ帯域こそが性能の天井を決める。

そしてここがiGPUの根本的な矛盾でもある。

iGPUで性能を稼ごうとすると高速メモリが必要になり、それが製品全体のコストを押し上げる。

OCメモリの採用はまさにもろ刃の剣だ。

iGPUには「安く作る」という市場の要求があり、コストを引き上げる要素は徹底的に嫌われる。

AMDはこの二律背反とずっと戦ってきており、iGPUの規模やアーキテクチャを積極的に刷新するには、それを正当化できるだけの理由が必要になる。

今回のRDNA 4mへの移行は、そのきっかけがFSR 4対応だったということだろう。

FSR 4という具体的な機能目標がなければ、社内でiGPUのアーキテクチャ刷新を通すのは難しかったはずだ。

かつてStrix PointにBald Eagle Pointという派生モデルが噂されていた。

大容量のキャッシュを搭載してメモリ帯域の不足を補うアプローチだったが、いつの間にか話が立ち消えになってしまった。

コストを押し上げる要因がAPU開発でいかに嫌われるか、これ以上わかりやすい事例はないだろう。

Intel Panther LakeのiGPUはベンチマーク上で素晴らしい数字を出しているが、その恩恵を最大限に受けられる高性能モデルはどうしても高価格帯に集中する。

iGPUで性能を稼ぐという設計方針と「安く広く普及させる」という市場の要求は、根本的に相性が悪い。

Strix Haloのような製品が例外中の例外と言われる所以だ。

今回のMedusa Point(8 CU・RDNA 4m)という設計は、このバランス感覚の産物だと見れば腑に落ちる。

CU数を増やさず、アーキテクチャの拡張(FP8命令)という形でFSR 4対応という目標を達成する——コストインパクトを最小限に抑えながら必要な機能を確保する、AMDらしい現実解だ。

上位のMedusa HaloがRDNA 5とLPDDR6という「メモリ帯域の大幅改善」を伴って初めて本格的な性能向上が実現される設計になっているのも、この哲学と完全に一致している。

FSR 4対応という旗印のもとでRDNA 4mを投入し、メモリ帯域が劇的に向上するMedusa HaloのタイミングでRDNA 5に移行する——AMDのiGPU戦略は、コストとメモリ帯域という2つの制約を正直に受け止めた上での2段階構えだ。