■事実
市場調査会社Counterpoint Researchは最新のメモリ価格追跡レポートで「DRAMおよびNAND価格が近い将来に下落するシナリオは存在しない」と断言し、メモリ価格の高止まりが少なくとも2027年下半期まで継続する可能性があると示した。
同レポートが公開した四半期別の価格変動データによれば、2025年第3四半期を基準とした各製品の価格上昇率は以下の通りだ。
DRAMカテゴリでは、サーバー向けの64GB RDIMM DDR5が2025年第3四半期から第4四半期にかけて+75%を記録した後、2026年第1四半期にさらに+150%という記録的な水準まで跳ね上がった。
ノートPCやデスクトップ向けの主力品である8GB SO-DIMM DDR4は2026年第1四半期に+180%という全品目中で最大の上昇率を記録した。
スマートフォン向けの12GB LPDDR5Xは同期間に+130%の上昇となった。
NANDカテゴリでも状況は深刻であり、エンタープライズ向け3.84TB NVMe SSDが+130%、コンシューマー向け1024GB NVMeが+150%、スマートフォン向けストレージである256GB UFS 4.0が+130%の上昇となった。
同レポートが示す2026年第2四半期の予測では、各品目の上昇幅は+14〜+35%へと鈍化が見込まれているが、価格そのものが下落に転じるという予測はデータのどこにも存在しない。
CounterpointのアナリストMin-sung Hwangは「Samsung・SK Hynix・Micron・CXMT・NanyaのDRAM生産量は2026年に前年比26%増加する見込みだが、この増産分が意味ある形で市場供給に反映されるのは2027年後半以降になる」と述べた。
同社はメモリ不足の解消時期について「2027年下半期が最短ラインであり、供給側の動向次第でさらに延びる可能性がある」との見解を示している。
価格高騰の根本要因はAIデータセンター投資の急拡大にある。
ハイパースケーラー(大規模クラウド事業者)と呼ばれるMicrosoftやGoogle、Meta、Amazonなどは、AI向けのHBM(高帯域幅メモリ)を最優先で大量発注している。
AIアクセラレーターGPU向けのHBMは通常のコンシューマーDRAMと比べてウェーハ消費量が単位面積あたり約3倍に達するとMicronの幹部が明言しており、この分だけ汎用DRAMやNANDフラッシュに向かうウェーハが削減されている。
Samsung・SK Hynix・Micronの3社で世界DRAM市場の約93%を占める寡占構造が、需給調整の柔軟性をさらに低下させている要因でもある。
Micronは2025年12月、消費者向けブランド「Crucial」を含む一般向けメモリ・SSD事業を2026年2月末をもって終了すると発表し、エンタープライズ事業に経営リソースを集中させる方針を明確にした。
SamsungとSK Hynixも消費者向けDRAMの生産比率を縮小しており、DDR4のウェーハ生産比率は2026年後半に1桁台前半まで低下する見込みと伝えられている。
SK Hynixは2026年分のHBM供給をほぼ完売済みとしており、SamsungもサーバーDRAMの契約価格を大幅に引き上げた。
Samsungは2025年末に「2026年は半導体供給問題が業界全体に影響を与える」と発言しており、自社の生産規模をもってしても需給バランスを修正できないとの見方を示した。
2025年10月にはOpenAIがSamsungとSK Hynixとの間で月間90万ウェーハ分のDRAMを将来的に供給する契約を締結したと発表しており、これを契機とした先取り需要と一部ベンダーによるパニック買いも2025年第4四半期以降の価格急騰に拍車をかけたと見られている。
需要面についてCounterpointは「ハイパースケーラー、ASICメーカー、GPUメーカー、そして消費者セグメントと複数の需要源が同時に拡大している。2025年後半以降はAIセクターからの需要がそれ以外のすべてのセグメントを合算した需要を上回っており、DRAMメーカーにとってAI向け供給を優先させる経済的インセンティブが非常に強い」と分析している。
消費者デバイスへの波及も顕著だ。
TrendForceは2025年後半に2026年のスマートフォンとノートPCの出荷予測をプラス成長からマイナス成長へと引き下げ、スマートフォン出荷は前年比2.1%減、ノートPCも同2.4%減の見通しを示した。
ゲーム機出荷についても2026年は前年比4.4%減と下方修正されており、メモリ価格高騰がデバイス製造コストを圧迫していることを数字が示している。
TrendForceはDRAMについて2026年第1四半期の価格上昇率予測を当初見通しの55〜60%から90〜95%に大幅上方修正しており、これが四半期ベースで過去最高の上昇率になると指摘した。
ノートPCのBOM(部品コスト)に占めるメモリの割合が2026年に20%超となる可能性をTrendForceが指摘しており、複数のPC OEMが価格を5〜15%引き上げるか仕様を切り下げるかの選択を迫られている。
スマートフォン各社では、エントリーモデルのメモリ搭載量を8GBから6GBへ削減するなど「スペックの切り下げ」による実質的なコスト転嫁が既に始まっている。
Gartnerは価格上昇の影響により2026年のPC世界出荷台数が10.4%減少し、サブ$500のエントリーレベルPCセグメントが2028年までに消滅する可能性を示唆した。
米格付け会社S&Pグローバル・レーティングはメモリ供給の逼迫が2026年まで続く可能性が高く、市場の正常化は2027〜2028年ごろになると予測している。
新規ファブの建設から量産開始まで最低3〜5年を要するため、三大メーカーが計画する新ファブの寄与は早くとも2027年後半から2028年以降となる見通しで、それまでの期間は抜本的な供給増加策が事実上存在しない状況が続く。
Counterpointは「次世代AIアーキテクチャへの移行が進むにつれてメモリ要件はさらに拡大し、供給制約はより一層積極的な問題となる」と警告している。
解説
今回のCounterpointレポートが強いのは「価格が下がるシナリオがない」という断言の強さです。
通常のリサーチレポートはここまで断定的な表現を使いません。
それでも使っているということは、データの裏付けがよほど強固なのだと読んでいます。
問題の本質は、Samsung・SK Hynix・Micronという三大メーカーが意図的に汎用DRAM・NANDの増産を抑制しているという点にあります。
HBMはコンシューマーDRAMと比べて「同じウェーハで桁違いの利益」を生む製品であり、彼らが汎用DRAMを積極的に増産する合理的な理由がそもそも存在しません。
AI需要の構造的拡大という説明は正当ですが、わずか3社が市場の93%を支配する寡占構造のもとでは、「AI需要のせいにしながら供給を絞ることが経済的に合理的」という状況が意図的かどうかに関わらず成立しているという点は指摘しておきたいと思います。
実際、2000年代初頭にはSamsung・SK Hynix・MicronなどによるDRAM価格固定の共謀が認定されており、数百億円規模の罰金が科された前例があります。
グラフを見ると2026年第2四半期に向けて上昇率が+14〜+35%へと鈍化しており、指数関数的な暴騰フェーズのピークは2026年第1四半期に一応天井をつけているように見えます。
ただしこれは「値上がりのスピードが落ちた」だけであって、「価格が下がる」話とは全く別物です。
このサイトで繰り返し取り上げてきたGDDR7問題と今回のレポートは直結しています。
GDDR7の供給不足がNVIDIAのRTX 5000シリーズの製造コストを押し上げているのも、このメモリ危機の一表れです。
さらにProject Helix(次世代Xbox)が最大48GB GDDR7、PlayStation 6が40GB GDDR7の搭載を計画しているとされる状況で、次世代コンソールが$999〜$1,200以上という前例のない価格帯になる見通しが出ているのも、このメモリ危機と切り離せません。
つまり今起きていることは「データセンターの話」でも「スマートフォンの話」でもなく、PCパーツ・ノートPC・スマートフォン・ゲーム機・GPUといったあらゆる消費者向けデジタル機器を底上げする全方位的なコスト危機です。
ハードウェアファンとして腹立たしいのは「新ファブが動くまで2027〜2028年まで待つしかない」という物理的な限界があることです。
工場は一夜にして建ちませんし、既存のファブラインをHBMから汎用DRAMに切り戻す意思決定もメーカー側には乏しいでしょう。
PC自作やシステム増設を検討している人への現実的な助言としては、「DDR4は製造終了が近いため必要なら今のうちに確保する」「DDR5は高くても長期使用を考えると移行を前倒しする価値がある」というところです。
「しばらく待てば値段が下がる」という期待は、少なくとも2027年後半まで成立しないと考えておくべきです。
メモリ危機の終わりはまだ見えていない。