■事実
GoogleのAndroidエコシステム担当プレジデント、サミール・サマット氏は、MWC 2026の会場でAndroid Authorityの取材に応じ、Aluminium OSが2026年中のリリースに向けて引き続き開発が進んでいることを明らかにした(https://www.androidauthority.com/google-aluminium-os-sameer-samat-interview-3646400/)。
同氏は最初こそ言葉を選ぶそぶりを見せたが、「今年後半のリリースをとても楽しみにしている」と述べ、2026年内の初回リリースを事実上確認した。
Aluminium OSはAndroidとChrome OSを単一プラットフォームに統合するプロジェクトで、開発コード名「Aluminium」はGoogleが社内求人票や開発ドキュメントで使用していたことから公式コードネームとして確認されている。
プロジェクト名の「Aluminium」は、Chrome OSのオープンソース版「Chromium」と同じく金属名に「-ium」を付ける命名規則に由来しており、英国式スペル(Aluminium)を採用している。
この発言は、Google独禁訴訟の法廷文書からAluminium OSの完全リリースが2028年まで遅れる可能性があると示唆されていたことを受けての発言として注目される。
サマット氏はその法廷文書について直接コメントしなかったが、Googleの視点では2026年のスケジュールは変わっていないとの立場をとった。
ただし業界では、2026年内に予定されているのはあくまで一部の「商業信頼テスター」向けの限定リリースであり、教育・エンタープライズを含む広範なリリースは2028年になるとの見方が広まっている。
サマット氏はAIがノートPCへの関心を再び高めていると説明した。
「以前はこのフォームファクタは時代遅れだと思われていた」と同氏は述べ、スマートフォンやタブレットが台頭する中でノートPCの存在感が薄れていたと指摘した。
しかし今はAIが状況を変えていると同氏は強調しており、「AIが本当にノートPCを復活させている」と語った。
キーボードと大型画面、デスクトップ級のマルチタスク環境を備えたノートPCは、生成AIツールの活用やワークフローの自動化、複雑なタスクの処理に適した最適なデバイスになりえるとサマット氏は述べた。
Androidは現在、スマートフォン・タブレット・スマートTV・車載システム・XRヘッドセットにまたがって動作しているが、従来型ノートPCやデスクトップPCにはほとんど存在感がなく、その領域はChrome OSが担ってきた経緯がある。
Aluminium OSはデバイス間の連携(コンティニュイティ機能)を大きな柱の一つと位置づけており、スマートフォンとノートPCの協調動作をAppleエコシステム並みに高めることを目指している。
その布石として、Android 17ではAppleのHandoff機能に相当する「Handoff API」が導入されることが明らかになっている。
Android 17のHandoff機能は、あるAndroidデバイスでアプリのアクティビティを開始し、近くにある別のAndroidデバイスに作業をシームレスに引き継げる仕組みだ。
たとえばスマートフォンでメールを書き始め、途中でノートPCに切り替えても同じ状態から作業を続けることができる。
受け取り側のデバイスで同じアプリがインストールされていれば、ランチャーやタスクバーに引き継ぎ候補が表示され、タップするだけで作業が移行する。
アプリが未インストールの場合でも「アプリ→ウェブ」のフォールバックが用意されており、ブラウザ経由で作業を継続できる。
このHandoff APIは2026年2月リリースのAndroid 17 Beta 1に含まれており、開発者はアクティビティ単位で実装できる。
サマット氏はChrome OSの継続についても明言した。
「Chrome OSは非常に優れた成果を上げており、その管理機能は他の追随を許さない。Chrome OSの開発はこれまでどおり継続される」と同氏は述べた。
Chrome OSは特に教育市場で強固な地位を確立しており、セキュリティモデルと集中管理ツールが大規模展開を容易にしている。
GoogleはAluminium OSとChrome OSを当面並行して提供する方針であり、後者は「ブラウザ主導のコンピューティング」「エンタープライズ展開」「教育用途」に特化したOSとして位置づけが続く。
一方でAluminium OSはコンシューマ向けのより広範なノートPCプラットフォームとして設計されており、Androidアプリ・AI機能・スマートフォンとの緊密な連携を組み合わせた新しい体験を提供するとしている。
この構図をサマット氏は「Chrome OSが第一のノートPC体験なら、Aluminium OSはそれを超えた、より広いものを目指している」と表現した。
つまりGoogleは一方のOSがもう一方を置き換えるのではなく、二本柱で個人向けコンピューティングに臨む可能性が高い。
実際、社内では既存のChrome OSを「ChromeOS Classic」と呼ぶ動きも確認されており、将来的にはAluminium OSがChrome OSのブランドを引き継ぐシナリオも想定されている。
Aluminium OSは「AIをコアに据えて構築」されているとGoogleは強調しており、Geminiとの深い統合が計画されている。
HP・Lenovo・Acer・ASUS・Samsungといった主要PCメーカーがAluminium OS搭載デバイスの開発パートナーとなる見通しであり、Qualcommとの協力関係も明らかにされている。
製品ティアはエントリーからプレミアムまで幅広く設定される予定で、従来のChromebookが苦手としてきたプレミアムノートPC市場においてもWindows・macOSと競合する姿勢が示されている。
内部リークによれば、MediaTek Kompanio UltraチップやIntelのPanther LakeチップをターゲットとするAluminium OS搭載デバイスの試作が進んでいる。
また、PCWorldが入手した開発バグレポートの画像では、HP製Chromebookで動作するAluminium OSのデスクトップ様UIが初めて公開され、Androidのタスクバーとランチャーを組み合わせたインターフェース、分割画面表示、Googleアシスタント「Gemini」が最上位アプリとして配置されている様子が確認されている。
解説
今回の取材で興味深いのは、サマット氏が「ためらいながら」2026年リリースを認めた点です。
法廷文書で2028年説が出ている中で、Googleとしても慎重に言葉を選んでいるのが見えますね。
「2026年内のリリース」はおそらく限定的なテスター向けで、一般ユーザーが実際にAluminium OS搭載ノートPCを手にできるのは2027〜2028年になるというのが現実的な線だと思います。
それでも今回の発言はGoogleの「やる気」を示すものとして重要です。
Appleがここ数年でiPhoneとMacの連携を大幅に強化してきたことを考えると、Googleが「コンティニュイティ機能」を重点課題として掲げているのは理にかなっています。
Androidスマートフォンのユーザー数は圧倒的ですが、ノートPCとの連携という意味ではAppleエコシステムに大きな差をつけられていたのが正直なところでした。
Android 17に「Handoff」機能が追加されること自体、Aluminium OSの準備としての意味合いが強いと見ています。
デバイス間でアプリの状態をシームレスに引き継げる仕組みは、ノートPCとスマートフォンが同じAndroidプラットフォームで動いてこそ本領を発揮するものです。
「AIがノートPCを復活させている」というサマット氏の指摘は、個人的にも頷けます。
生成AIのフル活用という意味では、スマートフォンの画面や操作感よりも、大きなディスプレイとキーボードのほうが圧倒的に作業しやすいですから。
ただ、Aluminium OSが本当にWindowsとmacOSの牙城を崩せるかという点については、慎重に見ています。
Chrome OSもそもそも登場当初は「教育市場を超えて普及する」と期待されましたが、一般のプレミアムPC市場での存在感はいまだに限定的です。
Androidのアプリ資産は強力ですが、従来のPC用ソフトウェアとの互換性という点ではWindowsに一日の長があります。
むしろGoogleにとってのリアルな勝ち筋は、Appleエコシステムに引き込まれていたAndroidユーザーを「スマホもノートPCもAndroid」という形で囲い込む戦略ではないかと見ています。
デバイス間の連携をAppleに匹敵するレベルに引き上げることで、「MacじゃなくてAluminium OSノートPCで十分」という選択肢を提供できれば、それだけでも大きな意味があります。
ChromeOSの継続宣言については、現在Chromebookを使っている教育機関や企業への配慮が大きいと思います。
Googleは2024年にChromebookの10年サポートを約束しており、最低でも2034年まではChrome OSを維持する義務があります。
「ChromeOS Classic」という内部呼称がどう着地するかを含め、今後の発表に注目です。
Chromebookの市場はここ数年で急拡大しており、2025年の市場規模は147億ドルに達し、2034年には428億ドルを超えるとの予測もあります。
そうした成長市場を自らより強力なプラットフォームで塗り替えようというのがAluminium OSの狙いであり、GoogleがどこまでWindowsやmacOSと正面から渡り合う意思を持って本腰を入れてくるかが今後最大の注目点です。
ここから先は完全に個人的な意見ですが、Googleがハードウェアで本当に覇権を取りたいなら、やるべきことは一つだと思っています。
TPUをPC向けSoCに落とし込み、RTX 5090を凌駕するAI演算性能を持つフラッグシップノートPCを「Googleの提案」として世に出すことです。
GoogleのTPUは、Ironwood(v7)世代でシリコンの素性という意味では世界トップクラスに到達しています。
問題は常にソフトウェアエコシステムと、「どのデバイスで使えるか」という話でした。
AppleがM1でやったことを思い出してほしいのですが、あのとき「薄いノートPCでデスクトップ級の性能」という一点突破が、MacBookの評価を根底から変えました。
GoogleがAluminium OS搭載のPixelノートPCに、PC向けに最適化したTPUを積んで「このマシンのAI性能はRTX 5090を超える」と言い切れるなら、それは市場を動かすインパクトになりえます。
ローカルLLMの推論速度・動画生成・マルチエージェントの並列処理といった用途では、AI演算性能がそのまま体験の差として伝わる時代に入っています。
Qualcommに頼ったAluminium OSデバイスをサードパーティ各社に作ってもらうだけでは、「悪くないけど選ぶ理由がない」というChrome OSと同じ轍を踏みます。
「他社には作れないAI性能」をGoogleが自社チップで実現し、それを自社製フラッグシップで示す——このくらいのインパクトがなければ、WindowsとmacOSの牙城を崩すことは難しいと個人的には見ています。
もちろんこれは主流の見方ではありませんし、TDPや製造コストの壁など実現への道は険しい。
ただ、GoogleほどのTPU技術資産を持ちながら、ノートPCではサードパーティのチップに乗っかり続けるのはもったいなさすぎる、というのが正直な感想です。