■事実
AMDのCEO、リサ・スー(Lisa Su)氏は2026年3月初旬に開催されたモルガン・スタンレー主催の投資家カンファレンスで、同社のサーバーCPU需要が予想を大幅に超えていると述べた。
リサ・スー氏は次のように発言している。
「GPU部門には大きな期待をかけていますが、CPU部門の需要が私の予想をはるかに上回っています。当初からかなり強気の見通しを持っていたにもかかわらず、です。主要顧客と話すと、『AIと連携するCPUコンピュートの需要は予測が甘かった』という声を多くいただいています。私たちは今、供給の追いつきに取り組んでいるところです」
需要が急増した背景には、「エージェントAI(Agentic AI)」の普及拡大がある。
エージェントAIとは、人間の指示なしに複数のタスクを自律的に処理するAIシステムの総称で、従来の推論やモデル実行に加えて、大量のデータ処理・オーケストレーション・コンテキスト管理といったCPU向けの処理が急増している。
AMD Q4決算によれば、第5世代EPYC「Turin」はサーバーCPU総収益の50%超を占めるまでに成長し、EPYCクラウドインスタンス数は前年比50%以上増加している。
大企業がオンプレミス環境にEPYCを導入するケースも2025年に2倍以上になったとされる。
リサ・スー氏は、2026年のサーバーCPU市場が「強い二桁成長」を記録すると予測している。
一方で、需要の急増に供給体制が追いついていない状況も認めた。
リサ・スー氏によれば、「供給のひっ迫」は存在するものの、これは需要予測が外れたのではなく、顧客側のコミットメントが直近数四半期で急速に膨らんだことに起因しており、サプライチェーンが対応する時間的余裕がなかったとしている。
AMDは現在、パートナー企業と緊密に連携してボトルネックの解消に取り組んでおり、今後1年以内に製造能力の拡大が見込まれるとしている。
なおAMDは2026年中に、次世代EPYC「Venice」(Zen 6アーキテクチャ、TSMCの2nmプロセス、最大256コア)を現行Instinct MI400シリーズと合わせて投入予定だ。
VeniceはHBM4対応のInstinct MI455と組み合わせたHeliosラックスケールソリューションの核となるCPUとして、MetaがEPYC Venice初期顧客となることがすでに発表されている。
業界全体で広がるサーバーCPU不足
この問題はAMDに限った話ではない。
Intelも同様に、ハイパースケーラー向けのコミットメントを製造能力不足から満たせていないと認めており、Q1 2026が供給のボトムで、Q2以降に改善する見通しを示している。
また、2025年11月に発表されたAWSとOpenAIの総額380億ドル・7年間の戦略的パートナーシップでは、「数十万のNVIDIA GPU」に加えて「数千万規模のCPU」をエージェントワークロードに活用できる旨が明記されており、業界関係者の間で「CPUの役割が根本的に変わってきている」という認識が広まっている。
NVIDIAも動きを見せている。
同社はCES 2026でRubinプラットフォームを発表し、その中核となる「Vera CPU」をGPUとは独立したスタンドアロン製品として提供する方針を表明した。
ジェンスン・フアン(Jensen Huang)CEOはCoreWeaveへの20億ドル追加出資とともに、「Veraはまったく革新的なCPUだ。初めてVera CPUをインフラの一部としてスタンドアロン提供する」と述べており、CoreWeaveが初期顧客となる見通しだ。
Vera CPUは88コア、最大1.5TBのLPDDR5Xメモリ対応、メモリ帯域幅1.2TB/sという仕様を持ち、AIエージェントのオーケストレーション・KVキャッシュ管理・データ移動といった処理を専任的に担う設計となっている。
NVIDIAが「GPU会社」の枠を超え、CPU市場に本格参入する姿勢を示したことで、AMD・Intelとの競合関係が新たなフェーズに入りつつある。
解説
正直なところ、「CPUが足りない」という話を2026年に聞くとは思いませんでした。
この数年、AI計算の話といえばGPUやHBM一色で、CPUはどちらかというと「補助的な役割」というイメージが定着していたはずです。
ところがエージェントAIが普及し始めると、話がガラっと変わってきたわけです。
AIエージェントが「自律的にタスクをこなす」というのは聞こえがいいですが、その裏では膨大な数のプロセスが並行して走っています。 コードを書いて、デバッグして、ウェブを調べて、また別のエージェントに指示を出す——こういう処理は、実はGPUよりCPUの方が得意な部分が多い。
要するに、エージェントAIはCPUの消費を爆発的に増やすという話ですね。
AWSとOpenAIの契約書に「数千万のCPU」という文言が入っていた件は、当初あまり注目されませんでしたが、今になって振り返ると相当重要なシグナルだったと思います。
個人的に気になるのは、Intelの立ち位置です。
サーバーCPUはIntelの本丸のはずですが、製造能力不足でハイパースケーラーへのコミットメントを満たせないという状況になっている。 AMDは需要が想定外に膨らんで供給が追いつかず、NVIDIAはArm系のVera CPUでこの市場に殴り込みをかけてきた。
つまりサーバーCPU市場は今、3社が同時に「空白地帯を埋めようとしている」という奇妙な競争状態にあります。
NVIDIAについては、「GPU会社がCPUを作る」こと自体はGraceの時点でわかっていましたが、今回の「スタンドアロンVera CPU」の発表はレベルが違います。 GPUなしで買えるNVIDIAのCPUというのは、IntelやAMDにとって本当に嫌な話でしょう。
AMD視点では、次世代EPYC Venice(2nm、256コア)が2026年中に量産される予定で、Metaがリードカスタマーとなる見通しがあります。 今の需要急増を乗り越えて供給を安定させられれば、Venice世代でかなり有利なポジションを築けるはず。
ただ、TSMCの2nmキャパシティはGPUやAI加速器との競合が激しく、AMDのCPU向けに十分な枠が確保できるかどうかは不透明な部分が残ります。
いずれにせよ、「サーバーCPUは地味な市場」という認識は2026年には通用しません。 エージェントAIが本格化するにつれて、CPUをどれだけ確保できるかがデータセンターの実力を左右する時代が来ているということだと思います。