前回(2021年7月-2021年5月調査分)について、VRヘッドセットの状況の記事を書きました。
今回は前回の報告から半年経ってどのように変化したのかを見てみましょう。
※ Steamハードウェア調査に関する注意
Steamハードウェア調査の対象は調査に同意したユーザーになります。
決してSteamの全ユーザーが対象であるわけではありません。
またその性質上、Steamのみのユーザーしか対象になっておらず、必ずしも実態を反映しているわけではありません。
調査は月ごとに行われていますが、標本数が月ごとに増加すると言った保証はありませんし、調査の総数も公開されていないようです。
以上のことから、一種の指標であり、絶対に正確というわけではないことに注意してください。
VRヘッドセットの概要
2021/11使用率 | 前回(2021/5)使用率 | 増減 | |
Oculus Quest 2 | 36.32% | 29.33% | 6.99% |
Valve Index HMD | 16.92% | 16.49% | 0.43% |
Oculus Rift S | 16.00% | 19.17% | -3.17% |
HTC Vive | 9.18% | 11.11% | -1.93% |
Windows Mixed Reality | 5.59% | 5.65% | -0.06% |
Oculus Rift | 4.86% | 5.94% | -1.08% |
Oculus Quest | 4.78% | 5.31% | -0.53% |
その他 | 6.35% | 7.00% | -0.65% |
Steamユーザー ヘッドセット 使用率 |
1.84% | 2.31% | -0.47% |
前回、2021年5月の調査では5%以下のヘッドセットは全て「その他」として扱いましたが、今回は前回対象に挙げたヘッドセットは全て個別に取り上げています。
1位は前回から引き続きMetaQuest2で、使用率36.32%、半年前と比較すると約7%接続率が上昇しています。
言うまでもなく、ほとんど数字が変化しないVRヘッドセットの世界において、この数字はとてつもない数字です。
前回の調査と比較すると、驚くべきことに、Quest2以外では唯一Valve公式のVRヘッドセットIndexのみがプラスであり、全体的に見てQuest2一強の状況が浮き彫りになった格好です。
特にHTC Viveは前回の調査から2%近くユーザーを減らし、ついに一桁%まで落ちてしまっています。
Meta社の他のRift S/Rift/初代Questもかなりユーザーを減らしていますが、その分はQuest2のユーザーが増えているので、買い替え需要は全てQuest2に集中しているのではないかと予想されます。
そのほか、注意すべき点としてSteamのユーザーのVR使用率がかなり下がっているが、これは前回の調査の5月が異常に高かっただけのようです。
1.84%と言う数字ですが、あまり高くなく、PCに接続してVRを楽しむというユーザーのすそ野は広がっているとはいいがたい状況です。
メーカーごとの内訳
2021/11使用率 | 前回(2021/5)使用率 | 増減 | |
Meta(Oculus)合計 | 61.99% | 59.77% | 2.22% |
Oculus Quest 2 | 36.32% | 29.33% | 6.99% |
Oculus Rift S | 16.00% | 19.17% | -3.17% |
Oculus Rift | 4.86% | 5.94% | -1.08% |
Oculus Quest | 4.78% | 5.31% | -0.53% |
Oculus Rift DK2 | 0.03% | 0.02% | 0.01% |
Valve合計 | 16.92% | 16.49% | 0.43% |
Valve Index HMD | 16.92% | 16.49% | 0.43% |
HTC合計 | 13.22% | 14.34% | -1.12% |
HTC Vive | 9.18% | 11.11% | -1.93% |
HTC Vive Pro | 1.93% | 2.02% | -0.09% |
HTC Vive Cosmos | 1.69% | 1.19% | 0.50% |
HTC Vive Pro2 | 0.41% | 無し | 0.41% |
HTC Vive Elite | 0.01% | 0.82% | -0.81% |
WindowsMR合計 | 5.59% | 5.65% | -0.06% |
Windows Mixed Reality | 5.59% | 5.65% | -0.06% |
その他 | 2.28% | 3.75% | -1.47% |
総計 | 100.00% | 100.00% | 0.00% |
メーカーごとの内訳を見てみます。
Meta社合計は61.99%とついに60%を超えました。
しかし、Quest2が7%近く伸びているにも関わらず、Meta社全体では2.22%しか伸びていませんので、Rift SやRiftなどの旧型モデルのユーザーは買い替えしてQuest2に乗り換えているが新規のユーザーはあまり増えていないと言えるでしょう。
新規のユーザーはVRが体験できるような高性能PCを所有しておらず、Quest2のみを単体で使っているケースが多いのではないかと私は考えています。
Valve IndexはSteam公式VRの地位を生かして手堅くユーザーを伸ばしています。
対照的なのが、HTCでViveで一時代を築きましたが、半年で2%近くユーザーを減らし、「両目5K」と言う高性能VRであるVive Pro2でもシェアを奪還出来ていません。
ここからシェアを奪還するにはQuest2に相当する製品を販売する必要がありますが、難しいと言わざるを得ないでしょう。
Vive Pro2という高級路線ではシェアを取れなかったということです。
WindowsMRに関してはほぼ横ばいで、現時点では存在感を示せているとはいいがたい状況です。
Xbox用のVRと言うのも存在せず、マイクロソフトはWindowsMRを積極的に活用していくつもりもないようですので、このままフェードアウトしていくのではないかと思わせる状況です。
来年に有力な製品が出なければ終わりかもしれません。
少なくともマイクロソフトは、最新のXboxシリーズの周辺機器からVRを外した時点でVRが有望な市場ではないと判断しているものと思います。
まとめ
Meta Quest2一強と言う傾向がますます強くなり半年間で6.99%増と実にほとんど7%増の使用率を達成しています。
この事実の意味するところは、このまま機械的に伸びていくとしたら、半年後は4割を超え、1年後は5割に迫るということになります。
Rift CV1や初代Viveなどの旧型VRユーザーはそろそろ腰の重いユーザーも買い替え時期に来ていると思いますが、買い替え先として有望なのはQuest2一択ではないかと思います。
現時点でQuest2はamazonで37,180円ですが、3-5倍の値段を出して高級路線のVRを買う気になるかと言われれば、ほとんどのユーザーは「Quest2でいいや」と思うはずです。
これも前回も含め、何度も書いていますが、Quest2がAir LinkでケーブルレスVRを達成してしまった以上、ケーブル付きのVRの存在価値はありません。
8Kだろうが16Kだろうが重くて硬いケーブルを束ねてつなぐ手間をかけるVRに存在価値はありません。
どんなに高性能なデバイスであっても「体験されないVR」では意味がありません。
PSVR2はケーブル一本で接続されるようですが、ギリギリの許される範囲として、ケーブル一本での接続まででしょう。
Quest2のOculus LinkはUSB3.0ケーブル一本での接続ですが、USB3.0の規格上、3mまでの長さとなっています。
しかし、Oculus Link用に5mのケーブルが販売されており、シェアさえ獲ればアクセサリ類は後からついてくるということがわかる結果になっています。
Meta Quest2一強時代が意味するところ
Meta Quest2が売れると最終的にPCVRは徐々に使われなくなるというのが私の判断です。
なぜなら、同じ開発コストをかけるならば、ユーザー数の圧倒的に多いQuest2でのみ販売して、PCVRは無視される可能性が高いからです。
現代のゲーム開発は莫大な資金がかかります。
ゲームソフトの会社もそもそも売れなければ、会社を維持することは不可能です。
どんなに素晴らしい性能を誇っても「売れるか、売れないか」ゲームソフト制作会社が見ているのはそこだけです。
Quest2のユーザーと比較すると誤差レベルでしか売れないPCVRにこだわるメリットと言うものは全くありません。
それを象徴するようにバイオハザード4がQuest2で出ましたが、PCVR版はもちろん出ていません。
出すメリットがないからというのはあるのだと思います。
PC版とQuest版で同じゲーム(CREED)を比較すると、やはりグラフィックはQuest版の方が格段にショボイです。
しかし、売れるか売れないかで言えば圧倒的にQuest版のほうが売れているでしょう。
私はブログで何度も繰り返していますが、世の中で一番尊いことは「人を食わせていくこと」です。
大ヒットして沢山のお金が動き、ゲーム会社やその社員を食わせていくことが出来るプラットフォームを作った時点でMeta社の勝ちだと思います。
重要なのはそこで、今後は、PCVRのみでは「体験できないVR」が増えていく可能性があります。
高級VRを所有している方でも、Quest2は押さえておいた方が無難でしょう。
両方所有していれば、高級VRのほうはそのうち使わなくなると思います。
なぜなら、体験できるソフトに差が付き始めていることと、VRを始めるまでの手間が全く違うからです。
VRの世界ではx86が駆逐されるというのはほとんど確定した未来なのだと思います。
参考:シンガポール発のVR HMD Decagearのプリオーダーが開始
この状況を覆すにはSoCを内蔵し、ケーブル一本か無線LAN経由で接続でき、なおかつ安価なVRが必要だと思いますが、DecaGearもかなり予定が押しており、皮肉なことにQuest2と言う製品が非常に高いレベルでまとまっているということがよくわかる結果になっています。
補足:
ARMは組み込み機器に強い
Quest2が相変わらず好調ですが、Quest2に採用されているSoC SnapdragonXR2はARMを採用したSoCです。
ARMは言わずもがな、組み込み機器に強く、組み込み機器は主にある用途に特化した専用機に使われます。
PCよりも簡単に使える代わりに何でもできるという汎用性を犠牲にしています。
Quest2のような製品はARMが最も適している用途と言うことになります。
ただし、PCVRと違って性能があまり高くありませんから、ソフトの見た目はショボくなります。
今後Quest2専用タイトルが成功するかしないかでVRゲームが市民権を得られるかどうか決まる
PSVRの使用率は出荷された製品の3割ほどと言われ、あまり成功したとはいいがたい状況になっています。
PSVRよりもはるかに使用のハードルが低いQuest2でどんな専用タイトルが出て、どのくらい成功するかでVRゲームが市民権を得られるかどうか決まると私は思います。
現状だとVRは一般のゲームと同じ土俵に立てていません。
Quest2の発売によってようやく一般のゲームと同じ土俵に立てたというのが本当のところでしょう。
現在、最も売れたと思われるVRゲームはBeatSaberで、2018年5月にリリースされたゲームです。
それ以降、VR専用タイトルでそれを塗り替えるようなヒット作は出ていません。
PSVRでも専用のタイトルASTRO BOTがありますが、PCVRなどで出ているゲームよりこちらの方がゲームとしての評価は高いと言われています。
Meta社はアプリストアで3割の手数料を徴収しているわけですが、それをどのように投資していくかがQuest2成功のカギを握っていると思います。
先行するゲーム機ビジネスの勝ちパターンを見ると、最終的には自社でいくつかのスタジオを抱えて専用タイトルを年に2-3本発売するという形式になると思われます。
Quest2専用のソフトと言うくくりで見ると、バイオハザード4VRが一つの成功モデルと言うことになると思います。
あとはQuest2専用の開発ツールが整備されて、Quest2に各社の開発リソースが集中してノウハウが溜まっていくという状況になれば、他社が後追いするのは不可能になると思います。
Quest3の発売時期は?
ここで言うQuest3は普及機を指します。今、Meta社はQuest Proと言う高級機を作っているという情報が出ていますが、そちらではありません。
初代はSoCにSnapdragon835を使用していました。
Quest2はSoCにSnapdragon865ベースのSnapdragonXR2を使用しています。
こちらはVRアプリでの性能比が20倍ともいわれており、モデルチェンジをする価値が十分にありました。
Snapdragon 835に使われている内蔵GPUであるArdeno540のFP32は558GFLOPS
SnapdragonXR2のベースである865に使われている内蔵GPUであるArdeno650のFP32は1228GFLOPS
で倍以上の性能に進化しています。
※ただし、Quest2ではこれらを主に発熱対策でダウンクロックして使用していると言われています。
最新のSnapdragon888+のFP32は1720GFLOPSと言われていますので、865の約1.5倍、十分な性能アップをしていますが、まだ早いかなとも思います。
また、価格も高止まりしていると思われるのでこの点でもQuestシリーズに搭載するには早すぎると思います。
初代QuestからQuest2まではモデルチェンジ1年間隔、Quest2は今年の更新が無かったので、2年以上のモデルチェンジ間隔になるのは確実だと思います。
Quest2は売れ行き好調でしょうから、ゲーム機の勝ちパターンに倣って、約5年間隔になる可能性もあります。
他に追従できる製品が無いので、慌てて開発費を投じる必要性もほぼありません。
ゲームソフトの会社が開発に慣れるまでは昔は5年かかると言われていましたので、そう言う意味でも妥当だと思います。