■事実
ボット対策企業DataDomeのVP・脅威リサーチ担当ジェローム・セグラ氏が今週、調査結果をLinkedInで公表しました。
匿名の大手小売店1社のDDR5メモリ商品ページへのアクセスのうち91%が「悪質ボット」由来と判明しています。
正規の購入者1人に対し、ボットによる自動リクエストが約10回発生している計算になります。
同社によれば、今年春時点では比率が6対1だったが、直近で10対1まで悪化しています。
ボットは「キャッシュバスティング」パラメータを使い、6.5秒ごとに在庫状況をチェックしています。
1時間分のサンプル調査では、DDR5商品91件に対して合計5万件のリクエストが発生しています。(1商品あたり平均551回)
単一のスキャルピングキャンペーンで、累計1000万件超のスクレイピングリクエストをブロックしたとのことです。
標的はCorsair・Crucial・Kingston・Lexarなど消費者向けブランドにとどまらず、Micron・Apacerなど業務用サプライヤーや、Amphenol・TE Connectivity製のDIMMソケット・コネクタ部品にも及びます。
ボットは昼夜のアクセスパターンを人間らしく偽装しているが、「不自然なまでに一定」な挙動が発覚の決め手になったといいます。
32GB DDR5-6000キットの平均価格は1年前の72ドルから現在392ドルまで上昇(PCPartPicker調べ)、上位128GBキットは約10倍の水準です。
eBayではG.Skill Trident Z5 Neo 32GBキットが12月時点で836.54ドルで出品されており、正規価格429.99ドルの約2倍、供給不足前の117.99ドルと比べると約7倍です。
小売各社の対応:Framework社は昨年11月にスキャルパー対策として単品RAM販売を停止、Micro Centerは店頭限定・1世帯1点限りでCPU・マザーボード・32GB DDR5をセット販売、Newegg・Amazonはメモリキットをプロセッサとのバンドルで割安価格提供する施策を継続しています。
DataDome側も注記:91%という数字は匿名の小売店1社のみのデータであり、サンプル期間や算出方法は非公開。また同社自体がボット対策製品を販売する立場であること、ページアクセス数は購入実績そのものではなく「監視圧力」を示す指標にすぎない点も留保されています。
2020〜2021年のGPU・ゲーム機スキャルピングとは異なり、DDR5には明確な「次回入荷予定日」が存在しないため、供給が転売需要を上回るタイミングが見えていません。
Apacer社CEOのC.K.チャン氏は7月、独立系メモリモジュールメーカーへのDRAM供給が来年には2026年水準の30%まで落ち込む可能性があると発言しています。
TrendForceは、DRAM契約価格がQ2に約60%上昇した後、Q3にさらに13〜18%上昇すると予測しています。
ハイパースケーラー各社は、2027年分のDRAM生産枠の大部分に対しても既に手付金を入れているとの報道があります。
米国の「BOTS法」(2016年制定)は収容人数200人超の会場向けチケット転売のみを対象としており、家電・PCパーツの転売ボットには連邦法の適用がありません。
家電向けボット規制を目指す「Stopping Grinch Bots Act」は2018年の提案以降、複数回再提出されているが未成立のままです。
ソース:
- https://datadome.co/threat-research/scarcity-ddr5-ram-fueled-by-ai-demand-scalping-surge/
解説
「91%がボット」という数字の意味を正確に捉えると、人間が普通にサイトへアクセスしても、そもそも表示されている在庫情報自体が大半ボット向けの監視トラフィックの中に埋もれているということだ。
自作er視点で見ると、これはGPU高騰期と質的に違う絶望感がある。GPU危機には「新モデル発売」「増産」という将来の解消ポイントが一応存在したが、DDR5には明確な入荷予定日が今のところない。
転売側(スキャルパー)の行動原理自体は単純で、「安く仕入れて高く転売する」というGPU・ゲーム機時代と同じ経済合理性の話にすぎない。目新しいのは組織化・自動化の精度が上がっている点だけだ。
小売側の対応(Frameworkの単品販売停止、Micro Centerの店頭限定・世帯制限)は、ボット対策というより実質的な「配給制」に近づいている。これは小売にとっても、対策コストと機会損失を天秤にかける苦しい判断をしている。
規制の視点では、米国のBOTS法がチケット転売にしか適用されないという制度的空白が象徴的。家電向けの「Stopping Grinch Bots Act」が2018年から店晒しになっている事実は、この種の問題に対して立法プロセスがいかに後手に回るかを示している。
そもそもの因果の起点はメモリメーカー側にある。HBM優先の生産能力再配分がDDR5そのものを枯渇させており、ボットはその結果生まれた「利ざや」に群がっているだけ。ボット対策を強化しても、供給が正常化しない限り根本解決にはならない。
時間軸で見ると、この問題は「過去のGPU/ゲーム機スキャルピングの再演(現在進行形の被害拡大)」であると同時に、「2027年分のDRAM生産枠まで既に前払い予約されている」という将来分の需給も既に蒸発しているという多重構造になっている。
ボットが在庫を6.5秒おきにチェックしているというのは、もはや人間の反射神経では太刀打ちできないレベル。「早起きは三文の徳」ではなく「早起きしてもボットには勝てない」時代だ。
GPUの次はメモリ、メモリの次は何が転売の標的になるのか。AI需要が枯らす部品リストはまだ伸びしろがありそうな気配だ。