※ 画像は記事の内容をもとにしたイメージで、必ずしも現実を反映しているわけではありませんので注意してください。
■事実
DRAMの供給不足は四半期ごとに深刻化しており、前四半期比で三桁の伸び率を記録する契約価格の急騰が続いている。
韓国メディア・朝鮮ビズの報道(https://www.chosun.com/english/industry-en/2026/03/13/HVY7KVVDTBE2FHYWXFIOBHR5KU/)によれば、Samsung ElectronicsのDS(デバイスソリューション)部門は、現在のメモリ不足が2028年ごろに終息する可能性を想定し、設備投資の過剰拡張を避けるための「コンティンジェンシープラン(緊急時対応計画)」の検討を始めていることが明らかになった。
同部門は今年、AI主導の需要急増を背景に過去最高水準の業績を達成する見通しにあるにもかかわらず、経営陣とビジネスサポートチームが需要予測の不確実性を強く意識しており、「楽観的な増産」と「過去の失敗の再来」の間でバランスをとることが最重要課題として浮上しているという。
業界筋によれば、SamsungはモルガンスタンレーのIR(投資家向け説明会)において、「設備を急速に拡張するのではなく、長期的な収益性を維持する戦略を追求する。顧客需要と価格設定のバランスをとったCAPEX(設備投資)戦略で過剰供給リスクを最小化する」と表明したとされる。
現時点でSamsungが対応できているDRAM注文量は全体の約70%にとどまるとされており、需要に対して慢性的な供給不足の状態が続いている。
SK hynixも同様の姿勢を示しており、バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチ主催のIRセッションで、汎用DRAM生産能力の約半分を最新の10ナノメートル第6世代(1c)DRAMに転換する計画を明らかにした。
ただしSK hynixは、この転換を実施しても現在の顧客需要を完全に満たすには依然として不十分であると認めており、2026年の設備投資を売上高の約30%に設定し1c DRAMへの移行を加速させるとしながらも、短期的な供給逼迫の緩和には至らないとの見通しを示している。
SK hynixはこれに加え、DRAM価格は今後数年間にわたって上昇を続けると見込んでおり、この見通しに基づいて長期契約ではなく短期契約を優先する戦略を採用している。
HBM集中による汎用DRAMの構造的不足
NVIDIA、AMD、Broadcomなどの大手テック企業によるHBM(高帯域幅メモリ)需要は来年以降も旺盛に続く見込みであり、Samsung・SK hynix両社ともにDRAM全体の売上高に占めるHBMの比率がすでに半数を超えている。
両社がHBMに生産能力を集中させた結果、スマートフォン・PC・一般サーバー向けの汎用DRAMでは深刻な割り当て不足が生じており、一般消費者向けのDDR5メモリやLPDDR5Xモジュールが極めて入手困難な状況が続いている。
Samsungは華城(ファソン)拠点での次世代DRAMプロセス移行を推進するとともに、平沢(ピョンテク)工場のP5ラインを中心に1c DRAMの生産能力確保に向けた新ラインを急ピッチで増設している。
当初2028年初頭としていたP5ラインの稼働目標は、建設スケジュールの大幅な前倒しにより2027年後半への繰り上げが見込まれている。
SK hynixは京仁(イチョン)・清州(チョンジュ)・龍仁(ヨンイン)の主要生産拠点で積極的な設備投資を継続しており、新設のM15X工場では次世代DRAMライン建設が進行中だ。
龍仁半導体クラスターの第1フェーズ投資完了後に追加の工場建設・量産が開始され、2028年にかけてフェーズ2投資によってさらなる生産能力の拡張が見込まれている。
Micronの戦略とNANDフラッシュ市場の動向
米Micronは台湾・シンガポール・米国でDRAM生産ラインを拡張しており、HBM供給強化に向けた大規模な設備発注を昨年から進めている。
Micronはさらに、広島市の既存サイト内に次世代HBM専用工場を建設する計画を持っており、2026年5月に着工し2028年ごろの量産開始を目指している。総投資額は約1兆5,000億円(約96億ドル)に上り、日本の経済産業省が最大5,000億円の補助金を拠出する予定だ。
また台湾のPSMC製造拠点の買収(約20億ドル)により既存クリーンルームインフラを取得し、一般的な新規建設より1年以上短縮したスケジュールでの量産を見込んでいる。
生産ラインの建設には一般的に約2年を要することから、2028年以降にはSamsung・SK hynix・Micronを含む主要各社の生産能力が次のレベルへと引き上げられ、需給構造が一変する可能性がある。
NANDフラッシュについては、現在のペースが続けばDRAMより早く供給超過が生じるとの予測が出ている。
DRAMがSamsung・SK hynix・Micronの3社に集中しているのに対し、NANDはキオクシア、中国のYMTCなど参入企業が多く、技術力・生産能力の向上が続いている。この結果、近年のNANDは価格競争が激化しており、SamsungやSK hynixでさえ損失を避けられない局面があった。
業界筋は「昨年夏の時点では、SamsungもSK hynixもここまでの好況を予測できなかった。それだけ半導体市場の状況把握と投資計画の立案が困難になっている」と述べており、Samsungのビジネスサポートチームが徹底した市場検証に基づいた投資判断を進めていると説明している。
※ 画像は記事の内容をもとにしたイメージで、必ずしも現実を反映しているわけではありませんので注意してください。
■解説
今回の報道は一見「当然の懸念を表明しているだけ」に見えるかもしれませんが、タイミングと文脈を考えると、かなり重いシグナルです。
空前の好況のど真ん中にいながら「2028年に終わるかもしれない」という想定でSamsungが動き始めているということは、「過去の大失敗は繰り返さない」という強い意志の表れです。
2020年代初頭のコロナ後の需要急落局面で、韓国メモリ2社は在庫調整による壊滅的な損失を経験しました。あの痛みが今も戦略の根底に刻み込まれている、ということですね。
消費者への直接的な影響
個人的に最も注目しているのは、HBM集中がもたらす「汎用DRAM慢性不足」の固定化です。
NVIDIAを筆頭とするAI向けGPUにはHBMが不可欠で、Samsung・SK hynixのDRAM売上の半分以上がすでにHBMに消えています。
つまり、PCやスマートフォン向けの一般的なDRAMが生産量の観点で構造的に後回しにされているということですね。GPU価格の高騰、DDR5メモリモジュールの高止まり、SSDの値上がり――これら全部が同じ根っこから来ている問題です。
サプライヤー側が「慎重な増産」を選択し続ける限り、この状況は需要が萎むまで改善されません。自ら豊作貧乏を招くような行動はビジネスとして合理的ではなく、メーカーの利益最大化と消費者の利益は今まさに真正面からぶつかっています。
ただし一点、NANDフラッシュについては違う動きが期待できます。
DRAMと異なりNANDは競争相手が多く、中国のYMTCも確実に存在感を高めています。SSD価格はDRAMより早い段階で反転する局面が来る可能性があり、今後1〜2年のうちに緩和が見えてくるかもしれません。
PCの購入やアップグレードを検討しているなら、「ストレージは早めに増やして、RAMとGPUはしばらく様子を見る」という判断が合理的になってきそうです。
2028年問題の双方向リスク
「2028年に主要メーカーの増産設備が一斉に稼働し始める」というシナリオには、実は双方向のリスクがあります。
ひとつは「AI需要が継続し、それでも供給が追いつかない」シナリオ。もうひとつは「AI投資が一時的に停滞し、増産設備が過剰になる」シナリオです。
後者はいわゆるAIバブル崩壊に近い展開で、ハイパースケーラー(クラウド系巨大テック企業のこと)の設備投資が鈍化したり、AIの収益化が想定より遅れたりすれば、DRAMとHBMへの需要が急速に冷え込む可能性がある。
かつてビットコインマイニングブームの崩壊でGPU需要が一夜にして消えたように、AIサイクルの反転は突発的に起きうる。Samsungが今から「需要に合わせたCAPEX」「長期収益性優先」「短期契約シフト」を繰り返し強調しているのは、こうした最悪シナリオへの備えであると同時に、市場に対して「我々は無秩序に増産しない」と宣言することで価格の高止まりを正当化する意図的なシグナリングでもある、と読むことができます。
メモリ市場の「新常態」という現実
業界各社が口にする「現在の価格トレンドは新常態(ニューノーマル)だ」という主張を、そのまま受け取ることには注意が必要です。
歴史的に見れば、メモリ市場は必ずサイクルを繰り返してきました。2016〜2018年のDRAMブームも、当時は「構造的な需要増で以前の価格には戻らない」と言われていたにもかかわらず、2019年には大きく崩れています。
「2028年が真の転換点になるのか、それとも高価格が10年単位で固定化されるのか」は、AIインフラ投資サイクルの持続性次第です。
今回のSamsungの発言は、スーパーサイクルには必ず終わりが来るという冷静な自己認識を外部に表明したものです。少なくとも短期的には、PCやGPUの購入を検討しているユーザーは「待てば待つほど安くなる」という従来の常識が通用しない時代に入ったことを前提に動く必要がある、ということですね。