AMDはついにHIPレイトレーシング・ライブラリをオープンソース化し、開発者がRT機能をアプリケーションに組み込んで活用できるようにした。
AMD、HIP RTをオープンソース化し、開発者により効率的に利用してもらうことを決定
Phoronixによると、AMDはHIP RTライブラリをオープンソース化し、HIPベースのアプリケーションのコーディングをより簡単にした。
AMDのHIP(Heterogeneous-Compute Interface)は「ハイブリッド」APIであり、プログラマーはAMDやNVIDIAのような複数のインターフェース上で実行可能な「ユニバーサル」コードを書くことができる。
HIPは翻訳レイヤーとして機能し、1つのコンピューティング・プラットフォームを他のプラットフォーム上で使用することを可能にし、開発領域における大きな資産として機能する。
AMDはHIP RTのオープンソース化の理由を明らかにしていないが、AMDGPUライブラリのいくつかの要素がオープンソース化されていないために複数の問題に直面した後、AMDのCEOであるLisa SuがAIスタートアップTinyCorpの要求を満たした結果かもしれない。
HIP RTがその一部であったかどうかは定かではないが、この決定は影響を受けているようだ。
しかし、それとは関係なく、AMDがプラットフォーム上で開発者により多くの権限を与えるために具体的な措置を講じているのは素晴らしいことだ。
このリリースでは、以下が追加されている。
- マルチレベルのインスタンス化
- 三角形のペアリング
- ASコンパクション
- BVHビルド速度の最適化
機能
- レイの三角形交差
- レイカスタムプリミティブ交差
- レイマスクによるジオメトリのフィルタリング
- 複数のバウンディングボリューム階層(BVH)オプション
- オフラインでの作成のためのBVHのロードと保存
- BVHのインポート
- モーションブラー
必要条件
HIP RTはAMDとNVIDIA GPU上で動作します。HIPとCUDA® APIは動的にロードされるため、ドライバパッケージと一緒にこれらのdllがインストールされていれば、これらのSDKを持っている必要はありません。
ハードウェアアクセラレーシングは、RDNA 2 GPU(Radeon RX 6000 シリーズ以降)でのみ動作します。
サポートされる AMD GPU アーキテクチャファミリーは次のとおりです:
- Navi3x(Radeon RX 7000シリーズ)
- Navi2x(Radeon RX 6000シリーズ)
- Navi1x(Radeon RX 5000シリーズ)
オープンソースのHIP RTライブラリはGPUOpen.comからダウンロードできます。
解説:
共有化戦略は弱者の戦略
マーケティング的には通常、シェアが高いほうは脱共有化戦略、負けているほうは共有化戦略をとります。
nVIDIAの脱共有化戦略の例
- RTX2000、RTX3000、RTX4000と世代ごとにDLSSのバージョンを変更して機能に差をつける
- 自社製品であっても旧世代の製品には新機能をなるべく与えず、買い替えを促す
自社製品の利益を最大化するためにこのような施策を用います。
nVIDIAにとって最大の競合製品は「自社の旧製品」なのです。
ですから、新しい技術は自社の新製品のみに適用し、旧製品にその恩恵は可能な限り与えないということになります。
しかし、シェアが小さいほうはなんでも使えたほうが得ですし、市場の占有率が低い製品で独自規格を出しても誰も採用してくれませんので、自社製品のみならず、他社製品や他社の旧製品にも使えるようにするわけです。
そうすることによって自社の規格が採用される可能性が高くなりますし、自社の規格が採用されればその技術から自社製品がこぼれる可能性がちいさくなります。
これはFSRとDLSSという2つのアップスケーラーを考えてみればよく分かるのではないでしょうか。
FSRはnVIDIA製品にも使えますが、DLSS3はAMD製品やAmpere以前の製品では使えません。
しかし、やろうと思えばできるのはswitchに採用されるOrin T239でフレームジェネレーションが採用されるという話を聞けばわかると思います。
このように「シェアが高いほうは脱共有化戦略、負けているほうは共有化戦略」というセオリーを理解していればAMDの選択が極めて合理的なのがわかると思います。
一見何の利益がないように見えますが、このような理由があるわけです。
ちなみに、技術者はこのようなマーケティング的な戦略を極端に非常に嫌うので、このような施策を用いるLisa CEOは非常に優れた経営者だと思います。